11/30付で「シン・今年の新語2025」トップ10とその選評をリリースしました。
トップ10と選外を再掲します。
- ノンデリ
- ビジュ
- ティア
- 食い尽くし系
- バカ
- 緊急銃猟
- ポン出し
- ぬい
- ドカ○○
- しぬ
選外
- チャッピー
この記事では、以上の選からもれた言葉を取り上げ、セルフ解説します。選外2語を含め、全部で14あります。内訳は次のとおりです。
- 第2回投票分:3語(投票しなかった1語含む)
- 第1回投票分:6語(選外部門の2語含む)
- ノミネート分:5語
第2回投票分
順位確定のための第2回投票へ進んだ全13語のうち、「○○しろ」「境界知能」「やかましい」が10位圏外となりました。選考プロセスからするとリアルな選外と言えます。
○○しろ
「勉強しろ」とかのしろではなくて、「伸びしろ」とかのしろです。
シン・選考委員2名からノミネートがあり、そのこと自体に意味があるとみて疑義を持ちながらも照会せずそのままショートリストへ入れました。
けれども正直なところ、既存の辞書でカバーできているのでは?との疑義は残っていました。
- あることのために必要な部分。(大辞林4)
- 何かのために取っておく場所。(新明国8)
これで十分じゃない?と。「しろ」の基底概念もつかめてるし。
「伸びしろ」以降、いろいろな「○○しろ」が出現したのは事実でしょう。それって、多彩に使える「しろ」のユーティリティーを世の中が発見しただけであって、しろの側はその「やりしろ」を既に持ってたわけですよね。
ということで、決選投票に残りはしたけどそんなに高く買えないなと、筆者は10位にしました。
ふりかえってみると、新語要件に疑義があるためノミネート語から除かないといけなかったです。選考プロセスに追記することで再発防止策は取りました。
余談ですが、「平成の日本語31選」みたいな企画があったら、私は「伸びしろ」を必ず入れます。
- 昭和期までは金属加工の専門用語だったこと
- 平成になってスポーツの世界に持ち込まれ一般に普及したこと
- 「伸び」の語が指す対象が「金属の容積の増加分」という具体から、主に「人の能力・スキル」といった不可視のものへシフトしたこと
- スポーツの世界へ持ち込んだのはサッカー日本代表チームコーチ時代の岡田武史さんであるのがほぼ確定的なこと
どれも非常に整っていて美しいからです。
以前書いた調査報告です。
境界知能
2回の投票でともに3位に推していましたがトップ10にはわずかに届きませんでした。
その界隈では歴の長い用語だったみたいです。国会図書館のデジタルコレクションを探すと1948年の書籍に用例が見つかりました(『人間科学としての心理学』)。その後も少数ながらコンスタントに用例がありました。
専門用語だった境界知能が広く世の中に出るきっかけとなったのは、2020年にベストセラーとなった『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治, 2019)でしょう。

カバー裏には「人口の十数%いるとされる「境界知能」の人々に焦点を当て、」の文言があります。まずは編集者がこのワードをキャッチしたことが示唆されます。
本文中での初出はこうです。
しかし、小学校では「厄介な子」として扱われるだけで、軽度知的障害や境界知能(明らかな知的障害ではないが状況によっては支援が必要)があったとしても、その障害に気づかれることは殆どありません。(p.25)
同書ではほぼ「軽度知的障害」の語と並べ置かれていることから、グラデーションのある概念だとわかります。
2024年10月にはNHK「首都圏情報 ネタドリ!」が特集しました。

声をあげ始めた “境界知能”で苦しむ人たち | 首都圏情報 ネタドリ!(2024/10/18 OA)
放送をもとにした記事が、2024年人気記事ランキングの第9位になっています。残念ながら結果発表ページはもう残っていませんが(1年前なのに!)。
こんな具合に一般層にも浸透が進んだ結果、侮蔑的な用法も目につき始めています。番組放送日には界隈からはこんな声も出ていました。
心配しなくても使われるに決まってますわね。
そんな流れに歯止めをかける意味でも入れておきたいなとの思いもいくらかありました。一部でネガティブな用法がある言葉でも選ぶのが「シン・今年の新語」です。
いみじくも、第1回目の2023年時点で西練馬委員が「シン・今年の新語」の特質を的確に評してくださっていました。
まじめに選んでまじめな結果となる。
ですから侮蔑的に使われることもある言葉を取り上げるのも、ほとんどためらわなくなりました。こちらはまじめに選んでますんで。
ちなみに上のツイートが「昨年に続き」となっているのは、前年に「今年の新語2022を選び直す」企画をやったからです。ノミネートも自分たちでまかなうスタイルで始動したのが2023年です。
やかましい
投票しなかった語です。
使用場面は増えたかもだけど、意味も拡張されているかっていうと、うーんでした。漫才で聞きなじみもあるし。中田ラケットや生恵幸子あたりが既に使ってたイメージ。あくまでイメージであって、アーカイブで実際に用例を確認したわけではないです。
第1回投票分
私の投票した語のうち、トップテン部門4語、選外部門2語が選からもれました。
画角
辞書的には「カメラで実際に写る範囲を、角度で表したもの。」(三現国7)です。
けれど近ごろは、単に「実際に写る範囲」や、あるいはアングルとか構図とか、別の言葉に置き換えられる用法が増えてきている感触があります。
今後もっと人口に膾炙した新用法での例が出てくると再ノミネートあるかもです。
たく
と、ビジネスメールでちょくちょく見るようになった文末表現です。いいと思ったんですけど、あまりにニッチすぎたかしてスコアを得られず圏外となりました。
発生源については次のような証言も見られますが不詳です。
こうした「たく。」で終わる文体を、私は「令和の候文」と呼んでいます。「たくそうろう(度候)」と補って読むとちょうどいいので。気に入ったら使っていただき度候
LLM
Large Language Modelの略語です。生成AIを支える基盤とも言える存在なのですが、響かなかったようで圏外でした。次の改訂版あたりで辞書に載る気はしています。
初知り
ノミネートにより知った、文字どおりの「初知り」でした。
なるほど、初売り、初乗りがあるのだから初知りもあっていいわけですね。
ぎゅっと圧縮されたコストパフォーマンスの高さが面白かったので10位に入れました。しかし合計投票スコア4で通過しませんした。
選外:エッホエッホ
これも辞書に載ってない語ではありますが、ネットミーム発で時事性に偏ってるかなと思って、選外部門へのノミネートとしました。
票が割れ、届きませんでした。
選外:オンカジ
オンラインカジノの略です。
アメカジ、渋カジ、ストカジetc.と「カジュアル」一色だったカジ略語界に一石を投じた点で日本語世界に貢献はしていますが、国内からのアクセスが違法であることの周知を含め、各方面で対策が講じられてきていて、辞書に載る前に消え去る気がしたので選外部門へのノミネートとしました。
こちらも届きませんでした。
ノミネート語
キダルト
kid+adultの合成語です。
商売に都合のいいワードのようで、ビジネスシーンでの用例多めです。
グラレコ
グラフィックレコーディングの略です。タイトルに入れた書籍がいくつかあります。
略語と言われても「じゃその、グラフィックレコーディングってなに?」となるので、辞書に載せていい言葉だとは思います。が、相対的に他の語よりも「弱い」気がして投票はしませんでした。
もう少し使用者層の広がりが出てからかな。
バイブコーディング
海外では、Collins Dictionary がWord of the Year 2025に選定しています。

日本語世界だとまだまだまだ業界用語って感じですかね。
はねる
「小芝風花が大河ではねてる」といった用法を周囲で立て続けに3度見聞きしてノミネートしました。大ウケする意の解説は三省堂の4辞書に未掲載でした。
「芝居などで、観客の入りがよくなる。当たりをとる。」の語釈でデジタル大辞泉には掲載済みです。
めくれる
「露呈する」意味でのめくれるです。
品のないサムネイルが躍るネット動画界隈で多用されているイメージ。
そんなところです。



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