はじめに
この記事は、下記の「三省堂の辞書を引く人が選ぶシン・今年の新語2024」選評記事から企画自体に関する説明を抜粋して再構成したものです。
要約:Executive Summary
なぜ、単なる便乗企画であるにもかかわらず、三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語」(以下「シン・今年の新語」)が、その“原作”である三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」(以下「今年の新語」)を凌駕するほどのクオリティをたたき出しているのか?
それは、「今年の新語」が抱えている3つの問題:
- 前からあったのでは?と訝しがられる「昔の新語問題」
- 掲載済みの語をランク入りさせてしまう「それもう載ってるやん問題」
- 順位づけの根拠が脆弱である「得票数ないがしろ問題」
をすべて解決したからです。
どうやって解決したかというと
そもそも問題が生じないようなレギュレーションと選考プロセスを設計することによって。
です。かつ運用フェーズに入った現在もたえず細部の改善をくり返し、品質の維持向上に努めています。
当記事ではそれらのエッセンスを簡単にご紹介します。
10語同士ならばさほど目立ちませんが、毎年およそ30~40語となるノミネート語のショートリスト単位で比較したとき、「今年の新語」と「シン・今年の新語」両者のクオリティの差は歴然としています。
今年も両者の違いをぜひ味わってみてください。
三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語」とは?
便乗企画「シン・今年の新語」は、2023年から始まりました。さらにさかのぼると、その前年に発した、おれが本物の「今年の新語」を教えてあげますよ。との山岡士郎ばりの煽りが発端となっています。
「シン・今年の新語」選考規程ダイジェスト
「シン・今年の新語」にノミネート可能な「新語」とは、基準日時点で次の三省堂の各辞書の「最新の版に載っていないもの」としています。
- 『三省堂現代新国語辞典』
- 『三省堂国語辞典』
- 『新明解国語辞典』
- 『大辞林』
基準日はその年の9月1日です。
選考プロセスの紹介
選考プロセスを簡単に紹介します。前後半に分かれます。
- 前半では、2回に分けてノミネートを行い、候補となる語のショートリストを作成します
- 後半では、合計2回の投票によって、ショートリストからの絞り込みと、順位確定を行います
レギュレーションとプロセスの詳細は、選考データとあわせてリポジトリにまとめています。興味があればこちらをご覧ください。
これらはたえず細部のチューンナップを行い、品質の維持向上を図っています。
たとえば2024年からは順位決定の第2回投票へ進む対象を「上位10語」から「10位通過スコアの80%以上」に拡大しました。これまでのところうまく機能しています。
最大の特徴は「議論無用」
「シン・今年の新語」選考の最大の特徴は、「議論しない」です。すべてを各選考委員によるノミネートと投票のみで決定します。
選考期間中に各選考委員と事務局(筆者)とのあいだで行うのは、事務連絡とノミネート語の統合・整理を含めた若干の疑義照会のみです。あとはレギュレーションに則り、所定のプロセスに沿って進めてます。
投票スコアについて
各選考委員による投票をスコア化して順位を決めます。
- ボルダルールによる投票を行っています
- シン・選考委員4名による投票結果をスコア化します。設計上の最高スコアは40、最低は0です
- 最高スコアは「全員が1位投票した」、最低スコアは「誰も投票しなかった」ケースに当たります
- 同スコアのときは、最高最低をカットした残りで比較します。その値を「カットオフ値」と呼んでいます
- カットオフ値も同じときは、その分散(ばらつき)で順位を付けます
- カットオフ値の分散も同じときは、総投票の分散で順位を付けます
- この段階でもなおスコアに差がないときは「評価の割れている方が”いい”語だ」との考え方です。前段の「最高最低をカットした残りで比較」の設計思想と矛盾するようにも見えますが、「その比較でもなお同スコア」が大前提です
この方式により、順位に対するアカウンタビリティーを担保しています。
「シン・選考委員」紹介
「シン・今年の新語」選考にあたっては、今年の新語に高い見識を持つ次の方々の協力を賜っています。※順不同・敬称略
- ながさわ(@kaichosanEX)
- 西練馬(@nishinerima)
- アンゼ(@anze4fgo)
例年惜しみなくご助力いただいていることに、あらためて謝意を表します。
当記事の筆者ヤシロを加えた4人が「シン・選考委員」です。
まとめ
便乗企画なのに原作を超える奇跡のクオリティをたたき出せているのはなぜなのか、その秘密に迫りました。
今年もお楽しみに!



コメント