三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語2025」、トップ10から選外まで一気に発表します。

名前が示すとおり、三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2025」の便乗企画です。なのに「原作」よりも精度の高い選考をやっています。
三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語2025」 トップテン部門
「シン・今年の新語2025」トップ10、投票スコア付きリストです。同スコアの語には順位決定に使用したデータも足しました。
- ノンデリ(30)
- ビジュ(26)
- ティア(25)
- 食い尽くし系(18)
- バカ(16・カットオフ5)
- 緊急銃猟(16・カットオフ0)
- ポン出し(15・カットオフ7)
- ぬい(15・カットオフ6)
- ドカ〇〇(15・カットオフ0)
- しぬ(13)
総評
産労総合研究所による「新入社員のタイプ」みたいなもの言いをすると、シン・今年の新語2025は「AR型」すなわち「拡張現実型」と言えそうです。
この現実世界を写し取るために、既存の言葉の用法を拡張し、さらにはアップデートしている新語が目立ちました。よっていくつかの語で「それって前はこう言ってなかった?」も検証していきます。
また筆者は2016年以来、たいていのことをシン・ゴジラで考えるシン・ゴジラ脳になっていますので、ちょいちょいシン・ゴジラベースの考察もはさんでいきます。あらかじめご了承ください。
凡例
参照した三省堂の各国語辞典について、選評本文中では次のように略表記します。
- 三省堂現代新国語辞典 第七版 → 三現国7
- 三省堂国語辞典 第八版 → 三国8
- 新明解国語辞典 第八版 → 新明国8
- 大辞林 第四版 → 大辞林4
筆者はAndroidアプリのロゴヴィスタ版を使用しています。
大賞:ノンデリ
合計投票スコア30で1位通過した語が決選投票でもそのままスコア30で1位に残り大賞です。2度の投票のどちらも各委員のつけた順位がまったく同じでした。
筆者は7位にしました。シン・選考委員4名の中で最も低い評価ではありますが、
- 略語「デリ」界のニューフェース
- 前身は業界用語
- アノ語との比較
といった色々な角度から語れるという点で、大賞となったのもうなずけます。
とノンデリ自体の説明は一切しない、デリカシーのない導入です。
略語「デリ」界のニューフェース
「デリ」を辞書で引くと、たいていの辞書にはこの2つの略と説明されています。
- デリカテッセン
- デリバリー
両者が略語デリ界の二大勢力です。
ほか小型辞書に載るほどでもない少数派としては、デリートキー、デューデリジェンスの略語としてのデリがあります。
少し話はそれますが、デリ二大勢力の仕分けはなかなか困難です。実在したツイートを元にこんな例文を作ってみました。
デリで当たりを引くとシェアしたくなる
この「デリ」が何を指すかは、文脈に依存します。どこでそのデリを引いたか次第です。
東京の街で言えば、代官山や成城学園前なら十中八九デリカテッセンですし、渋谷・新宿なら「うーんどっちだろ?」となりますし、新大久保や池袋ならほぼ確実にデリバリーです。
加えてコロナ禍からこっち、「デリをデリった」なんてもの言いも日常のひとコマと化し、ますます混迷の度合いを深めています。ちなみに「デリをデリった」を文脈なしで解釈するならば「デリカテッセンをデリバリーしてもらった」が最も穏当です。
このような状況下で「ノンデリ」は登場し、デリ界の第三極を形成しつつあります。
ノンデリが業界用語だったころ
しかしノンデリもまた、かつてはこの二大勢力の片方に属していたのです。
国会図書館サーチで見つけた「月刊油脂」2003年の用例です。
原料動向 生産減で上昇急のゴマ原料価格 デフォルト,ノンデリの不安も
(特集 原料急騰のゴマとゴマ油)
ヒマシ油 欧米向けに大量のノンデリが発生 需給タイトで国際相場は急上昇
(特集2 2003年の油脂原料)
この「ノンデリ」とは商品が引き渡されないことを意味します。すなわち「ノンデリバリー」の略語です。そして物流・貿易に関わる業界のノンデリは今なおノンデリバリーです。
国会図書館のデジタルコレクションで「ノンデリバリー」を探すと、『万国新語大辞典』(1935)にありました。語釈は「不着(郵便物貨物等の)。」と、ほぼ現今の業界用語のとおりです。ノンデリバリーについては昭和戦前期から今の姿をしていたことになります。
では、不着を表す業界用語だったノンデリがいつどのようにして、今日の姿に転身を果たしたのでしょうか? 残念ながらそこには調査が及んでいません。ですが、2010年には既に用例がありました。
時期のみならず、KYと対比されていることも目を引きます。
2007年新語・流行語大賞ノミネートのアレとの比較
三国8では「KY」を〔二〇〇七年ごろから流行したことば〕としています。ひとつ前の第7版も同じです。
KYは2007年の「新語・流行語大賞」のノミネート語になっていますので、その事実に依拠していると思われます。ちなみにこの頃のノミネート語は全部で60あります。多いな。
それはさておき、KYの流行から遅くとも3年後には、もう今日のノンデリがあったんですね。1980年の山口百恵の引退と、まるで入れ替わるかのような松田聖子のデビューを想起させます。二人の年齢差もちょうど3歳です。
確かにそれって前はKYって言ってたような?となりましたので、何度か簡単にサンプリング調査してみました。方法は、Twitterで過去24時間分の出現回数を数えるというものです。カウント対象は用例を代表して「KY発言」「ノンデリ発言」にしました。
結果は各回とも、KY発言が1桁でノンデリ発言が2桁でした。使用頻度の差はざっと10〜20倍ってところです。
ではかつての「KY発言」が今日「ノンデリ発言」に置き換わったのでしょうか? そうではありませんでした。同じ調査を5年前と10年前、2020年と2015年のツイートに対してやってみてわかりました。
「ノンデリ発言」の出現ペースが何日かに1件に激減したのに対し、「KY発言」の側は大差なかったからです。同じく24時間あたり1桁、何件かあるけど10件まではいかないレベルでした。2025年現在と変わりません。
一応念を押しておきますが、この事実が意味するのは「世の中にノンデリ発言が増えた」ではなくて、「誰かの発言を「ノンデリ」と呼ぶことが増えた」です。そうは呼ばなかっただけで、5年前10年前もデリカシーを欠いた発言は世の中にあふれていたはずです。
よく見れば違うが一般人には同じ「マナカナ語」
ノンデリとKYについてはこんな切実な?声もありました。
筆者の認識では、両者は「類似点も多いが子細に検討すれば違う」です。基本認識は揃っていそうです。
片方に当てはまらない例をそれぞれ挙げてみますと、
- まず、シン・ゴジラの冒頭(シーン#22)、結論ありきの総理レクで「巨大な生物と推測します」と具申する矢口蘭堂はKYですがノンデリではありません。デリカシーの問題ではないと考えます。
- 他方で、通称「ロボカス」の「踏めば助かるのに…。」はノンデリですがKYではありません。「空気」の外からの発言だからです。
けれどもツイート検索してみると「ノンデリKY」あるいは「KYノンデリ」と並び称する用例がいくつもありました。まるでマナカナのようです。
細かく見れば違うのだけれど大半の一般人には区別がつかないし、なんならいつも一緒だとすら思っている。筆者はそんな語のペアをマナカナ語と呼んでいます。気に入ったら使ってもいいよ。
KYとノンデリも、マナカナ語の仲間入りを果たしそうですね。ちなみにマナカナ語の日本代表は「誹謗中傷」です。
とはいえノンデリとKYのマナカナ語化現象は、前述したように、10年前の2015年と比べて「ノンデリ発言」の出現回数が激増しているのに対し、「KY発言」の方は変わっていない事実と矛盾しているようにも見えます。これらをどう統合を図ればよいか、なお思案中です。
ノンデリのその裏に
筆者はこれまで「ノンデリ」を使ったことも使われたこともありません。けれどもどちらに属するかといえば、きっと使われる側です。
くり返しますと筆者は「ノンデリ」を7位にしました。トップ10入りに異論はないものの、なにゆえノンデリをさほど高く評価できなかったのか、そこを自問してみました。使われる側としてひねり出した答えは
「空気」や「忖度」の側のもの言いに思えるから。
です。
ノンデリと難じるからには、何らかの意味でのデリカシーを求めているはずです。ではそこでのデリカシーってなんなんだろうと考えを進めると、それって空気や忖度と紙一重、あるいは体のいい言い換えなのではと感じられてきました。
その「ノンデリ」が表れるに至った裏側で、空気や忖度による抑圧を受けているのではありませんか?
「ノンデリ」の現場で、互いにそう問い直してみるのもよいかもしれません。
第2位:ビジュ
筆者自身も今年よく見た/聞いた言葉が第2位です。選考委員4名のうち3名からノミネートがありました。
2025年現在、ツイート検索での「ビジュ」出現頻度は秒単位、まさに秒で使われてます。利用者が少なくなるはずの日本時間の明け方にやっても同じだったので軽く恐怖を覚えました。
実はビジュ、三省堂「今年の新語2023」でのノミネート語でした。ベスト10入りはしていないものの、大辞林編集部が挙げています。
当時のレビュー記事で、筆者は「私自身は特に気持ちが動かないですが、いいと思います。」と評しました。
あれから2年経ち、筆者の遭遇機会も増えた結果、自身も今回ノミネート10語に加えました。
ビジュの来歴をたずねる
簡単にビジュの来歴をたどってみました。
Twitterで2010年頃の用例を見ていますと、アイドル、それも男性アイドルに対するものが主流でした 。SMAPのメンバーへの用例が多かったです。推しメンの界隈が育んだ言葉であることが示唆されます。
1990年代に「ビジュアル系」の言葉はありましたので、ビジュの出現もわりあい簡単に思えます。
ルックスでよくない?答えは「NO」
次に既存の語との比較論です。
そのあたり前は「ルックス」と言った気もするんですけど、「ルッキズム」の語が一般にも浸透するにつれて、ルックスも否定的なニュアンスを帯びて使いにくくなったのかしら?
なんて、筆者を含む中高年層は思いがちでしょうけど、用例を見ていると、推しの外見を語るための語彙は「ビジュ」一択って感じです。彼ら彼女らの辞書には元よりルックスがなさげ。
またルックスがもっぱら容貌、すなわち人の顔かたちを指すのに対し、ビジュが担う範囲はもっと広いです。用例を見ていると、建物、料理やスイーツ、あるいは映画のポスターに対して使うビジュがありました(ただしルックスにも何例かありました)。その点で「映え」にもフィットしていてアップデート感もあります。
ビジュとは、「推し」と「映え」2つのカルチャーが混じり合って結実した言葉と位置づけておきます。
第3位:ティア
ティア表のティアが第3位です 。
ティア表とはこういうものです。ChatGPTに作ってもらいました。

ノミネート元のひとりであるアンゼ委員は、ラグビーとゲームの世界でほぼ同時期に「ティア」を認知したとのことです。
大辞林4には「ティア」が立項されており「項目・層・段」の記載があります。
しかし「大辞林の現行記載には「ランキング」のイメージがなく不十分だから新規に取り上げていいと主張します。」が、アンゼ委員の弁です。
こちらの「推薦の辞」、筆者には非常に興味深いものでした。というのも、筆者にとってティアのランキング要素は「あってもいいし、なくてもいい」ものだったからです。
後者の例を筆者に近い業界からひとつ挙げると、クライアントサーバーシステムの「3層アーキテクチャ」があります。「層」はtierの訳語です。

File:Client-Server 3-tier architecture – en.png – Wikimedia Commons
これら3層は単なる役割の違いであって、そこにランキング的な序列はありません。そんなティア観もあってか、筆者は第1回セレクションでは投票せず、続く決選投票でも8位としました。不十分かもしれないけど、つまるところ大辞林4がいう「層」でよくない?といったところです。
けれども日本語話者がtierを「ティア」として受容してゆく過程で、ランキング要素が必須と受け取るようになった感は確かにあります。
逆パターンとして、国際語となったhentaiが日本語の「変態」よりもかなり限定された意味になっている例があります。あるひとつのワードが言語間を移りゆく過程で起こりがちな現象とみています。
また、基本的にひとつのティアには複数のインスタンスが属するのに対し、ひとつのランキングに属するインスタンスは単数であるのが筆者の認識なんですが、日本語世界での「ティア」はそこもあやふやとなっている感もあります。単複の区別に割と無頓着な日本語の特性も影響しているのでしょうかね。
第4位:食い尽くし系
ネット発の言葉が第4位です。その発祥は2010年代前半と筆者は推定しています。
2025年も再三ネットの記事になっていて筆者の目にもしばしば留まりました。記事には「SNSで定期的に話題を呼ぶ」みたいな枕詞が付くのが定番です
来し方をさかのぼるため発言小町の過去トピをのぞいてみますと、「食い尽くし系」の言葉こそありませんが、「家族の分も食べてしまう夫」に触れたトピがくり返し作られています。2017年あたりから、「そういうのを食い尽くし系って言います」的なレスが散見されます。
Twitterでは2012年付で
とだけ綴られたツイートがありました。ただし現今の食い尽くし系を指すのか、その文脈は不明です。
筆者は2回とも1位投票しました。2025年に認知した言葉の中で最も心に響いたからです。
単なるSNSの話題として消費して終わらせちゃダメでしょ。掘り下げたら絶対何かあるよ。学問分野横断の研究プロジェクト作って予算取らないとダメな案件でしょこれ。と、まじめに思っているからです。いやマジマジで。
比較的早期の論評記事です。

ネットで話題の「食い尽くし系夫」を、男性問題として考える(福田フクスケ)|Pen Online(2021/07/01付)
「安易な原因論は危険」としながらジェンダーの問題に引き寄せたがっているところがいまいちですけれども、検討すべき論点はまずまず出ています。
筆者はここに時間的・空間的な比較検討を加えたいですね。すなわち
- たとえば50年前、100年前、200年前、500年前の日本に「食い尽くし系」は存在したのか?
- アジア太平洋、中東、アフリカ、欧州、南北アメリカ諸国に「食い尽くし系」は存在するのか? 存在する/しないならそこにどんな構造があるのか?
です。各時代また世界各地の食生活と食文化のありかたとも照らし合わせながら把握することがまず必要だと考えます。
食い尽くし系産業/食い尽くし系消費者の発見
1位推しを超え、分野横断の研究プロジェクト発足までをも筆者が望むのは、水産資源に対して「食い尽くし系」を使う例を目にしたからです。こちらは筆者の考えに近かったもの。
ほかいろいろ紹介したいんですが、漁獲量のグラフ付きのものに絞りました。ただしデータの裏は取ってません。
ニホンウナギ
イカ・サバ・スケトウダラ・イワシ・その他
サンマ
スルメイカ
折しもウズベキスタンで開かれているCITESの国際会議CoP20において、EUなどが提議していたウナギ全種を取引制限対象とする規制案が審議され、否決されたばかりです。
ニホンウナギの規制強化回避、日本の説得工作が奏功 採決は反対100、賛成は35と大差|産経ニュース(2025/11/27付)
一方で「資源量は十分」とする水産庁の主張に真っ向から反論する記事もあります。

「ウナギは増えている」は本当か?水産庁よ、不都合な真実を隠すことはもうやめよう(真田康弘)|Wedge ONLINE(2025/11/06付)
読めば食い尽くし系側の分が悪そうに思えますが、どうなんでしょうか。
冷静で合理的な判断よりも精神的・情緒的な判断が重視されてしまうことにより、国の進むべき針路を誤った歴史を繰り返してはなりません。
とする内閣総理大臣所感「戦後80年に寄せて」[pdf](2025/10/10付)も、空念仏に終わるのでしょうか。
お話の途中ですが、食い尽くし系の産業構造を把握するのに必読の文献がありますんで、ちょっと本屋さん行ってくるわ。
♪あれからニシンはどこへ行ったやら~
北原ミレイ《石狩挽歌》(1975)を口ずさみながら、次へ。
第5位:バカ
バカのどこが新語?と疑問を持つ向きも多いかと思います。
「「バカ笑った」「バカかっこいい」などの、強調の副詞」がながさわ委員による推薦の辞です。品詞分化をとらえてのノミネートそしてトップ10入りとなっています。
筆者自身は新しいというよりは再発見の類だと見ていたので投票しませんでした。「バカ」の側は変わらずそこにあって、こういう使い方もできるのが世の中に見つかった、そんな感じですね。
既存の辞書の記述にあたっても、たとえば三現国7「ばか」は
〈接頭〉
程度がはなはだしい。
「―ていねいな人・―高値・―力・―でかい」
[類]くそ
となっていて、代表で「バカでかい」もあるしこのぐらいの書きぶりでよしとしてよいのでは、そう思います。
例示のうち「バカ笑った」は、バカ笑いを動詞化した「バカ笑う」の活用形と見れば、副詞を持ち出す必要もありません。
不足があると言えばそうだろうけど、国語辞典にそのレベルの文法事項の記載を求めるのは酷な気もします。英語だったら文法書にあたりますもん。筆者が票を入れなかった理由を挙げるとそんなところです。けれども投票で全てを決めるのが「シン・今年の新語」のルールですので第5位です。
私のバカせまいバカ史
探してみると、「バカ」の副詞用法を主題にした紀要論文がありました。
「馬鹿」の変遷 ―現代語の程度副詞用法に着目して―(嶋田優輝, 岩崎真梨子)|福山大学学術情報リポジトリ(2025/03/01付公開)
卒業論文を加筆・修正したものとのこと。要約すると「日本語歴史コーパスから馬鹿の用例を集めて分類してみました」ってとこです。ふむ。注目する人はいるわけね。
意識的かどうかはわかりませんが、上記の論文には出てこない重要な事実がひとつあります。
この「バカ」の用法は静岡の方言であることです。
さらに静岡の「ばか」は、形容を強める副詞としてご活躍です。
「うわ、ばか混んでる」「ばかあちぃー」「ばかしょんねえ」など、「チョー○○」とほぼ同じ万能型強調表現としてポピュラー。
【方言】第5回 ばか: TNC静岡ジモティーズ(2005/08/04付)
じゃあもしかして?と、フジテレビ「私のバカせまい史」(2022-2025(休止中))周辺を調べてみると、番組プロデューサーの島本亮さんが静岡県沼津市の出身でした(Wikipedia「島本亮(プロデューサー)」による)。
したがって、「バカ」の副詞用法は静岡方言をひとつの重要なルーツとするのがきっと順当なやり方です。
同じく前掲のブログ記事から。
このような万能型強調表現は「チョー○○」「めっちゃ○○」「でら○○」「わや○○」「ばり○○」「なまら○○」など、地方色が豊かな言葉である。
御意です。万能型強調表現が地方色豊かになるのは、その種の言語表現の流通エリアとして「地方」ぐらいのサイズが需要と供給がマッチするのにちょうど具合がいいからなのでしょう、と雑な感想。
余談です。ネットの調査では島本さんの出身地の情報がWikipediaのほかに全然見当たらなかったので、何をソースにしたのかしらと履歴を見ると、2024年7月12日付で「しまもん」というアカウントにより追記されていました。本人?
第6位:緊急銃猟
2025年の鳥獣保護管理法改正により誕生した制度の名前が第6位です。今回トップ10入りした中で最も生まれの新しい言葉です。
制度の概要や改正の経緯などは環境省の緊急銃猟|野生鳥獣の保護及び管理 が大変よくまとまっていました。
また、トップ10入りした中で投票スコアの総分散が16.50と最も大きかった言葉でもあります。これは選考委員の間で評価が真っぷたつに割れたことを意味します。
4位とした西練馬委員と2位推しの筆者の計2名が「高評価」側です。お上発祥の語を嫌う筆者ですが、新語性として文句ないし、何よりシン・ゴジラみがマイナスを上回りました。
昨今のクマ被害をめぐる一連の報道に接すると、
- どうみても自衛隊しか事態に対処できない(シーン#69)
- 有害鳥獣駆除として、自衛隊の治安出動要請を出すしかない(シーン#68)
- まだ人がいる!射撃の可否を問う!(シーン#97)
あたりと一致度が非常に高くてアツいですね。
しかし改正前の鳥獣保護管理法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)第38条では、住居集合地域等における銃猟を原則として禁止していました。
それが今回の改正によって、人の日常生活圏に危険鳥獣が出没した場合
- 人口密集地ですがやむを得ません。総理。ミサイルの使用を許可しましょう(シーン#176)
ができるようになったわけです。いや、ミサイルではないけども。
なお「危険鳥獣」は政令で定めることになっていて、現在ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシの3種となっています。
一点おことわりです。実際にクマ被害に直面されている方々の心情を忘れていないこと、どうぞご理解ください。出没する当該地域の方にとって文字どおり死活問題なのは十分理解しております。
余談。「自衛隊の弾を国民に向ける事は出来ない!」はご存知シン・ゴジラでの内閣総理大臣のセリフ(シーン#98)ですが、かつて北海道のトドになら、自衛隊の弾を向けたことはありました。ネットにはそれを伝える1959年当時のニュース映像がアップされています。
YouTube「北海のトド騒動」|中日映画社(2020/07/09付公開)
まるでよくできたディープフェイクのようですが、ならそれもまたよし。
第7位:ポン出し
かつお風味の? とオヤジギャグも出てしまう語が第7位です。
その変哲のないたたずまいもあってか、筆者とポン出しの初接触時の記憶はありません。新語と認識したきっかけはこちらのツイートでした。
へぇポン出しって新語なんや。ポンと出すからポン出しなんでしょ?それだけで新語にしていいもんなんすか。
なんて侮っていた時期が筆者にもありました。
ツイート検索して改心しました。2023年後半を境に、ポン出しの景色が一変していたからです。反省を込めて4位に投票しました。
以下にそれぞれの用例を2つずつ引用します。違いがおわかりでしょうか?
まず2023年以降のポン出しです。
次に2022年以前のポン出しです。
いかがでしたか?
違いを整理しましょう。こんなところでしょうか。
2023年以降のポン出し
- ポンと出すもの:各種コンテンツ
- 言葉が指す対象:
生成AIによって出力すること(行為)
または、そのアウトプット(成果物)
2022年以前のポン出し
- ポンと出すもの:音
- 言葉が指す対象:
主に、音を出すデバイス(主体)
次に、その装置を使って音を出すこと(行為)
ポンと出すものが変化したのに加え、言葉が指す対象もまたシフトしている点に注目です。どちらの場合も「いちいち言わなくても決まっているもの」が対象から外れることがわかりました。
2023年以降の「ポン出し」は、ポン出しする主体を指しません。ポン出しするのは生成AIだと事実上決まっているからです。
2022年以前の「ポン出し」は、出されるアウトプットを指しません。ポン出しで出てくるのは音だと決まっていたからです。
ChatGPT登場を端緒とする、2022年後半からの生成AIの普及と高性能化の流れが日本語世界へ与えた影響を、3年経って認知したわけです。今後も「こんなところにその余波が」の発見が続く予感がいたします。
影響の与え方として、2020年のCOVID-19のパンデミックが短期集中・同時多発的に大きなインパクトを与えたのとは好対照で、そこもまた面白いです。
第8位:ぬい
ぬいぐるみの略語が第8位です。
と紹介すると、現に「ぬい」を使用する方の中にはずいぶん雑だなぁと感じられる向きもあるやもしれません。その点は後ほど。
ぬいに対して筆者は当初「ぬい撮り」「ぬい活」といった造語成分を経てのソロデビューとの認識でした。しかしその認識は誤っていました。
「ぬい」の使用は新井素子さんが先駆者であることが斯界での共通見解でした。選考後に教示を受けるまで不勉強で存じ上げませんでした。
既に飯間浩明さんが初期の用例にたどり着いていました。
もっともリプライには次の証言もあり、新井さんが開祖でもなさげ。
75年頃の話ですが、拙者たちは「ぬい」と言ってました
— Z⁵⁵ ⁴👽TeamCarLando💙🤍💛💛🌶️🦄@石田三成公公認家臣【柿喰い隊】所属 (@z_piace) September 14, 2022
編み物は「あみ」
「最近ぬいやってる?」
「今はあみー」
こんな感じでした
しかし、出典となるととと
困ったな、誰か覚えてないかしらん?
でも「書籍に出てきた」というのが大事なんですよね、確か
言葉自体は元々あって、「鬼滅の刃」から一躍メジャーとなった「全集中」と似たパターンでしょうか。
ぬい1989-2014
その後の諸文献に表れる「ぬい」の経過をざっとさらってみました。
新井さんが翻訳者として名を連ねる『ぬいぐるみさんとの暮らし方』(1989)には、第1章の小見出しに「一人一ぬいの時代」の文言があります。
(新井素子著作:翻訳: ぬいぐるみさんとの暮らし方|新井素子研究会 による)
新井さんによる、ぬいぐるみと少女の物語『くますけと一緒に』の刊行は1991年のこと。
そして冒頭
えっと、これは、我が家に生息するわにのぬいぐるみ、わにわにが、我が家の同居ぬい(注・ぬいぐるみの略)について色々なことを書くっていう原稿です。
と始まる『ぬいは今日も元気です』の刊行は1993年です。
2000年代に入ると東京ディズニーリゾートのグッズに「ぬいぐるみバッジ」が登場し、愛好家たちはそれを「ぬいば」と呼びます。
参考:【公式】ダッフィーとの思い出を振り返るプログラム | 東京ディズニーリゾート(2025/03/13付)
このあたりから、ぬいは新井素子さんの元を離れて巣立った感があります。
「ぬい撮り」をNHKのあさイチほか複数のメディアが取り上げたのは2014年のことです。
そんなところで以下略。
先駆者の所感
今年2025年のインタビュー記事で、新井さんは『くますけと一緒に』の復刊にからめてこう語られていました。
まず、ぬいぐるみに対する世の中の扱いが、この小説を書いた頃といまとでは全然違いますよね。当時は、小学四年生の子どもがぬいぐるみを学校にまで連れていくようなことってすごく異端だったけど、いまはそんなに変でもないかもしれない。
旅行にぬいぐるみを連れていくことも、むちゃくちゃ異常なことだったけれど、いまはみんな普通にやっているみたいだし。(略)私がぬいと喋っていたり、「うちの子は喋るんですよ」と言ったりしても、あまり異常だと思われない。それは昔とかなり違いますよね。
「ぬい」とか「ぬいさん」っていまの人が言っているのを聞いて、ものすごく驚きました。それ、私じゃないかって(笑)。
新井素子が語る、ホラー創作の裏側と「ぬい」への深い愛情 ーー『おしまいの日』文庫化インタビュー|Real Sound(2025/07/30付)
新井さんに世の中が追いついたわけですね。
同時に、「ぬい」が新井さんの元を巣立ち、大きく育って戻ってきたこともわかります。
ぬいの条件
さて、ぬいをぬいぐるみの略語と紹介すると雑ととられそうな理由です。
ここまでの調査から、ぬいとは単なるぬいぐるみの略ではなく、世のぬいぐるみのうち、ある特定の要件を満たしたものの呼称である。そんな感触があるためです。
その感触に立脚すると、第2位のビジュと同じく、ぬいは「推し」と「映え」2つのカルチャーが出会って実った果実だとも言えます。そこらへんに魅力を感じ、筆者は5位としました。
ではその「ある特定の要件」とはなんなのか、解明は読者諸賢に委ねます。大学のレポート課題として調査したら、単位出るんじゃないですかね。
第9位:ドカ○○
ノミネート語を集めてショートリストを作る段階で疑義があり、「「ドカ鬱」などの、強調の接頭語」と推したながさわ委員へ照会した語が第9位となりました。
疑義の内容は
「その程度(の増加)が並外れていることを表わす。〔やや俗語的表現〕」とする新明国8「どか(接頭)」の説明でカバーできているのでは? です。
「用法が拡大しているとみてのエントリー」とのことで残し、他の委員からの投票もあり最終的にトップ10入りしました。
結論から述べると、ノミネートは「ドカ鬱」でよかったのでは? が筆者の所感です。
辞書でドカ○○を引きますと、三現国7に「ドカ食い」「どか貧」「どか弁」「どか雪」の4つが既に立項済みで、大辞林4には加えて「どか落ち」「どか買い」「どか減り」がありました。別の「どか」ルーツとの混交と言える「どか弁」を除いても計6語あります。
筆者の目を引いた「ドカ○○」の用例を探してみました。
まずは「どか貧」
「ジリ貧を避けようとしてドカ貧にならぬよう注意願いたい」
内閣総理大臣所感「戦後80年に寄せて」(2025/10/10付)に載ってました。元は米内光政(1880-1948)の発言です。別のソースによれば、1941年11月、日米開戦前の宮中会議での発言だそうです。
次に「どか買い」
忠治はドカ買いが好きだったから、その仕入れ方も派手だった。
鳥羽欽一郎『景気は自らつくるもの――「丸井」創業者、青井忠治の伝記』(1987)
Googleブックスの検索で見つけた用例です。当世ならさしずめ「爆買い」となるところです。
青空文庫にあたると、「ドカ儲け」なんてのもありました。
どうかしてドカ儲けをしたいものだ
国枝史郎「名人地獄」(1925)
株か相場でドカもうけをし
久生十蘭「我が家の楽園」(1953)
イカしてますね。
総合すると「ドカ○○」使用のピークは20世紀にあり、近年は接頭語「爆」の勃興に押される格好で、特定の語彙のみに使用が限定された一種の潜伏期間となっていたとみるのが妥当そうです。「拡大している」が事実としても、むしろ再発見の類ととらえるのが適切に思えます。
【12/7追記】
当のながさわ委員も次のように述べてるんで、「シン・今年の新語」のレギュレーションに照らすとノーコンテストかなー。
用法が拡大しているとはいえ、新明国と大辞林には同じ意味ですでに項目があり、順位は低めとしました。
ぼくのかんがえたさいきょうの今年の新語2025(2025/12/03付)
同タイプの語をノミネート語から除外するように、リポジトリの選考プロセスに追記しておきました。
第10位:しぬ
TikTokで死ぬがカジュアルに使われすぎててしぬ
感極まった意味になっていてしぬ
それって前はエモいって言ってた気もしてしぬ
しぬしぬ界隈風につづってみました。
昨年の「シン・今年の新語2024」では、トップ10圏外ではありましたが「○ぬ」のノミネートがありました。しぬしぬ界隈の形成は、筆者にはゆき過ぎにも思える「死ぬ」表記への忌避意識と表裏一体の現象に感じられます。
やってみてわかりましたけど気持ちいいんですよね単純に。筆者ですらそうなんですから、「死ぬ」表記を抑圧してたらなおさらかも。
中学の歴史の授業で幕末の「ええじゃないか」を習ったとき、どういうこと?とほとんど意味不明だったのですが、年齢を重ねたのもあってか、今は少しわかるようになりました。
もうすぐ新政府ができるのかな。
選外部門
選外部門は「チャッピー」1語のみの選出となりました。次いで4語が同スコアで並びましたが、全部選ぶのも選び直すのもどちらも違う気がして。
想定していなかった事態だったので、最大3語までと規定を改めることにしました。
チャッピー
ChatGPTの愛称が入選です。
ChatGPTのサービス開始は2022年11月のことです。翌12月には早くも「チャッピー」の用例がありました。ただしそこを起点に伝わったわけではなく、いろんなところでいろんな人が「ChatGPTだからチャッピー」と呼び始めており、多元的な伝播となっています。
生成AIをそのプロダクト名ではなく愛称で呼ぶのって、Knight 2000へKITTと呼びかけて会話する、1980年代の海外ドラマ「ナイトライダー」で見た世界そのまんまです。
ナイト2000は人工知能「K.I.T.T.(キット)」を搭載しており、自分で考えて言葉を話し、さらに自らの意思で走行する事もできる。
Wikipedia「ナイト2000」
時を隔てての再現となっているところが筆者には面白いです。
今年「チャッピー」をよく見たのも確かですけれど、汎用性に乏しいしハイコンテキストすぎるしで国語辞典には載せなくていいと思いますので選外が順当かと思います。
リアル選外の3語
第1回投票での通過基準「10位スコアの80%以上」に則り、最終の決選投票には13語が進みました。投票の結果、うち「○○しろ」「境界知能」「やかましい」の3語が惜しくもトップ10圏外となりました。いわばリアルな選外です。
スタッツとして非常に興味深かったのが「○○しろ」です。「勉強しろ」とかのしろではなくて「伸びしろ」とかのしろです。
決選投票で選考委員4名全員が票を入れました。決選投票で全員の票を集めたのはトップ10内でも半分の5語です。加えて投票スコアの分散は1.19と13語中最小でした。分散が最小ということは、選考委員間での評価が最も揃っていたことを意味します。なのに10位圏外に終わりました。
まんべんなく薄い支持を集めても残れないのですね。むしろごく一部にでもアツい支持を得る方が最終的にスコアが上回るのです。そういうランキングとなるように設計したんですが、ここまできれいに表れるとは。
「境界知能」は筆者がノミネートし3位に推していましたが届きませんでした。別の記事で選出の理由などに触れるつもりです。
「やかましい」はアンゼ委員が2位に推していましたが、他の委員の票はありませんでした。
といった具合に、アツい支持が「一部」すぎても残れないわけです。ここらのレギュレーションがいいあんばいに機能している証左で、投票結果を集計しながらひとりニヤついてました。
ジャッジペーパー
シン・選考委員の全41語
第1回投票

第2回投票

選考システム
シン・選考委員のソロ活動紹介
順次足していきます。
【12/3追記】
アンゼ委員:
私のための今年の新語2025アソート(2025/12/03付)
ながさわ委員:
おわりに:人生がときめくシン・今年の新語の魔法
そもそも論として、言葉に順位をつけるなんてのは不遜な行為にほかなりません。
不遜な企画を進めるのだから、せめて自身のアカウンタビリティーは担保しておきたい。その手段として筆者が採用しているのが、こんまりメソッドです。
すなわち、その言葉を目に耳に口にしたとき、どれだけときめくか?
これが基準です。便宜上「ときめく」としていますが、その方向は問いません。要は心のメーターがどれだけ振れるかです。
そうして重ねてゆく、私の中に棲むリトル新語ちゃんとの対話の時間は、大変に意義深いものとなっています。
さらに副次効果として、選出された語の来し方を少しさかのぼって追うだけで、文化を技術を歴史を政治を、ひっくるめて言えば広く浮世を学び考えるスタート地点にも立つことができます。
ちょうどツール・ド・フランスが開催される7月が自転車ロードレースのファンにとって特別な月であるのと同じように、シン・今年の新語を選び出す11月は、筆者にとって特別な月となりました。
つまり、人生がときめきます。
次回の「シン・今年の新語2026」では、事前登録制で投票を受け付けることも計画しています。詳細は追ってご案内します。
だからみんなもやってみよう!
おわり





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