今年の新語2020は「コロナ渦」「全集中」「しかない」【選評】

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発表します。

手取り12万の優しい日本人が選ぶ「今年のシン語(ジラ)2020」、大賞は「コロナ渦」です。

第2位は「全集中」、第3位は「しかない」です。

以下、第8位までの一覧です。

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「コロナ」大変動をどうさばく?「今年の新語2020」展望

個々の選評に入る前に、まず「コロナ」関連語の扱いについて。

結論だけ述べると、大賞に選出した「コロナ渦」をその代表とし、他の「コロナ語」についてはすべてノミネート対象から除外し、次年度以降に持ち越すことにしました。今後ランクインさせるにしても、定着ぶりを継続観察してからです。

コロナ大変動の2020年

コロナにとって、2020年はとにかく激動の1年でした。まさに天変地異級の大変動が起こったからです。

2020年、一般人の「コロナ」は、コロナウイルス一色になりました。

2020年の一般人が「コロナ」といえば、それはコロナウイルス、中でも「COVID-19」と呼ばれる感染症を引き起こす新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」を指します。といっても、SARS-CoV-2の名を知る一般人は3割もいないと見積もっています(データは取ってませんが)。ともかく一般人にとってそれが「コロナ」です。

新型コロナウイルスが、さながら「コロナ」界の天下統一を果たした感があります。

こちらの「コロナ」がもはや古風にすら見えるほどです。

思い出してほしいのですが、ほんの1年ばかり前まで、すなわち、2019年末までの様相はまったく違っていました。

「コロナ」といえば、大半の辞書が載せる

  • 太陽のコロナ

のほかにも、固有名詞として

  • トヨタ自動車のやーつ
  • ビールのやーつ
  • 冷暖房機器の会社のやーつ(証券コード5909
  • 愛知のやーつ(その1
  • 愛知のやーつ(その2
  • などなど

といった具合に、多種多彩なコロナが「群雄割拠」とも呼べる形で一般人の間で共存していました。2019年までは、コロナをめぐって次のような豊かな文脈も生きていたのです。

しかしこの豊かさも、2020年になって実質的に失われてしまいました。

新型「コロナ」の変異に取り残された辞書界

2020年11月現在、既に「コロナウイルス」の項が存在する辞書はいくつもあります。しかし私の見た範囲で「コロナ」の項に「コロナウイルスのことだよ」とガイドを載せている辞書は皆無でした。

この点で、現下の辞書界はコロナの変異に取り残されています。

たとえばSARS-CoV-2(weblio辞書)を立項していたデジタル大辞泉にしても、2020年に起こった上記変異には追いつけていません。

新しく何かをこしらえるよりも、既にあるものを変える方が困難であることの証左と言えるでしょうか。

「コロナ違い」に見るコロナ多様性の消失

コロナの豊かさが失われたことを示す顕著な事例が「コロナ違い」です。

コロナ違いは、

  • 話題として提示されたコロナ
  • 受け手の想定する・念頭にあるコロナ

の両者が異なることで生じる現象です。

Twitterを探しますと、2020年初頭から、「提示されたコロナ」が新型コロナウイルスであるコロナ違いが見られます。

やがて一般人の「想定するコロナ」の側が実質的にコロナウイルスに固定されてしまいました。

その結果、「雨ニモマケズ コロナニモマケズ」のコピーを付けた「今年の新語2020」イベント告知の画像が

と、辞書的には極めて正統な「コロナ」を提示しているにもかかわらず、

とされるありさまです。

これがもし、群雄割拠のコロナ世界観の下であったならば「そっちのコロナかよ!」とでもなるはずです。

2020年は、コロナの多様性が失われた年として記憶に残りそうです。

大賞:「コロナ渦」

では選評に入ります。コロナ渦を大賞に選んだ理由は2つあります。

1つめの理由は、こんまり流に言って、ときめくこと。

2つめの理由が、迫害から守りたいことです。

ときめくコロナ渦

コロナ渦へのときめきは、既に3月時点で記事にしています。コロナ関連語の中でこれほどときめく存在は、ほぼ唯一無二です。

「新型コロナ渦」な人たち2020【Tweetまとめ+】
Twitterのタイムラインに、こんなツイートがやって来ました。この抜粋記事じゃぁワシの真意が誤解ばかりやんかぁ♪( ´θ`)ワシが言いたいのはプレーヤーの意見や立場、プロスポーツの意義をもっと反映して欲しかったということでっせ〜\...

「新型コロナ渦」な人たち2020【Tweetまとめ+】(2020/03/11)

コロナ禍に負けるな!コロナ渦

2つめの理由は、「コロナ禍」一派の迫害からコロナ渦を守りたいからです。

Twitterから採集できたNHK放送番組での「コロナ渦」用例は、おおかたコロナ禍に「制圧」されてしまっていました。

NHKをはじめとするマスメディアがコロナ渦を排除するのは、コロナ渦が巻き起こす無用の渦を避けてのことと考えられます。ただでさえヒトの認知資源には限りがあるうえ、一般人の認知能力が押しなべて低いため、「コロナ禍」と「コロナ渦」の2つの類似した表現が並立する事態は認知負荷が高すぎて一般人を混乱の渦に陥れるとの判断があるのでしょう。

しかし、次のような論調にまでエスカレートすると、ちょっと待てぃとVTRを止めたくなってしまいます。

無理がある「コロナ渦」 やはり「コロナ禍」に
「コロナ禍(か)」の「禍」の代わりに「渦」を使う「コロナ渦」という表記について、それも“あり”と考える人は約16%で、許容できないと感じる人が8割超でした。実際、これまでの「渦」の使われ方からは、やや

無理がある「コロナ渦」 やはり「コロナ禍」に|毎日ことば(最終更新:2020/08/30付)

仮に混乱という意味を込めてあえて「〇渦」を使ったとしても、読者には伝わりにくいうえ、書き間違いだと思われたりすることは避けられません。

なので社の方針としては当面「コロナ禍」に統一します、といった着地ならまだ理解できたのですが。

やはり多くの人に読まれる文章では「コロナ渦」という表記は「誤り」と判断せざるを得ないと考えます。

大多数に伝わりにくいことをもって「誤り」とする思考は、短絡です。

誤っていない物事を「誤り」と判断することこそが、誤りです。

「〇渦」のような形で、ほかの語と結びつけて造語される慣習はほとんどなかったといえる

根拠めかして造語事例の多寡を論うのは不可解です。「慣習はほとんどなかったといえる」が根拠になるなら、漢字の「七」と「夕」を組み合わせて「たなばた」と読ませることも誤りですよね。ほとんどどころか、ほかにそう読む慣習など全くないですから。

余談ですが、「やはり」は論拠が弱いときに多用される便利な語です。説得的な根拠を十分に示せていれば、「やはり」を使う必要はみじんもありません。

こうした迫害から生き残ったマスメディア発の「コロナ渦」用例を、アスファルトに咲く花のように大切に愛でてゆきたいです。

第2位:全集中

「全集中」を第2位にしました。つまらない人が「これ言っときゃウケるんでしょ」とばかりに多用する段階に入った感もあるうえ、発信源の『鬼滅の刃』ブームには嫁ともどもまったく置いてかれてるので、作品方向にはあまり立ち入りません。

『鬼滅の刃』から一躍有名になった「全集中」ですが、調べてみるとそこが発祥でもなさそうです。Wikipedia「鬼滅の刃」によると、少年ジャンプでの連載開始が2016年のことです。

Twitterからは2014年、2015年の用例が採集できました。

「集中!集中!」は、花香よしあきさんによる市原隼人ものまねの定番フレーズですから、これらを総合すれば、「全集中」は部活カルチャーの中から生まれ、鬼滅の刃も取り入れたワードのようです。

ちなみに青空文庫で「全集中」を検索してみますと、

平生之を怠っていながら、一旦同書が現代文学全集中に転載せらるると見るや、

永井荷風「申訳」(昭和二年十月記)

のように、書名の『全集』の中に、という意味の「全集・中」タイプの用例ばかりでした。「全・集中」区切りタイプは見つけられずです。

さらに話はそれますが、部活カルチャーについては、効用よりも弊害の方が格段に大きいので、撲滅といわないまでも、現状からの一層の弱体化、無害化を進めなければならないと思っております。コロナ禍が世間にもたらしたインパクトが、その助けになればいいのですが。話の続きはいつかまたどこかで。

第3位:しかない

厳密には「新語」ではなく、コロケーションでの選出です。

近年、こういうタイプの「しかない」に遭遇する機会が増えたように思います。

旧来のもの言いですと、それぞれ
「感謝するしかない」とか
「尊敬の念しかない」とか
「楽しみでしかない」とか

あたりになりそうですが、形の上で縮めてしまっています。

感じるのは、「感動をありがとう」にも通底する

  • 感情の物質化、コモディティ化

です。そのせいでしょうか、そこがメインにしても、感情成分はほかにもいろいろ混ざっているであろうに、意識的に一点のみを取り上げ、他を切り捨てている印象が強まります。

まだふんわりした違和感の段階ですので、考察を続けます。

数年越しに届いた「新語」たち

第4位から8位までは、Googleトレンドで比較して順位をつけました。どれも「今年」感はほぼないです。

  • SDGs
  • 解像度
  • お迎え
  • 繊細チンピラ
  • 日記主

第4位「SDGs」

全然2020年じゃないですが、5年越しで届きました。

お上由来のバズワードで「これ謳っときゃサマになるでしょ」の言ってみればきれいごとなんですが、全否定できないのもまたきれいごとの特徴です。

SDGsは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略だそうです。複数形のsを略語にも付けているところは好きです。

実は大辞林4.0にもう入っていました。

第5位「解像度」

元は印刷業界あるいは映像業界の用語だったものが、使用者、使用領域とも順次拡張されてきている印象があります。自分自身も写真やモニタ画面のことでなら使っていました。

細かすぎるのは 生まれつきだ
言ってみれば 解像度高めなんで
幸せは そういうとこから始まる
地球のためでもあるんだぜ

――浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS《Vinegar》(2018)
 歌詞テキストはoricon.co.jpより

簡潔にまとめれば、そういう話です。

第6位「お迎え」

近ごろ、人間以外を「お迎え」するケースが増えているなとは感じていました。

「お迎え」の対象は、最初の例では推しのぬいぐるみ、次の例は文意が読みとりづらいですが、食パンでいいのでしょうか。

犬の嫁いわく、ペットに対しては何十年も前から「お迎え」を使っていたそうですから、そんな向きには今さら感も強いかもしれません。けれども「お迎え」といったら遠回しな「死」を表す用法が最初に、次に「蛇の目でお迎えうれしいな」が思い浮かぶ私にとってはまだまだ新鮮です。

第7位「繊細チンピラ」

2013年生まれの言葉が、7年越しに届きました。

説明が必要な人はリンク先をご覧ください。

この記事以前の用例が見あたらないことと、次の告白から、筆者の小野ほりでいさんによる新語であることは確定的です。

この問題意識に賛成します。からかいあざ笑って溜飲を下げるだけではあまりにあんまりです。

私は従来、

「お気持ち」を大切にされないまま成人すると
自分の「お気持ち」を持て余し、トラブルを引き起こすようになる。

という「お気持ち仮説」を唱えています。そこにもつながってくる話です。

第8位「日記主」

そんな繊細チンピラの姿も見え隠れした「ひろしまタイムライン」の炎上事案をめぐって、9月にこんなタイトルの記事が出ました。

「世帯主」があるのだから「日記主」もあって全然いいわけですが、日記主のワードがメディアに出たのはほとんど初じゃないでしょうか。なのにどこからもさしたる抵抗も示されず流通していた事実がすごいです。

日本語情勢は複雑怪奇なり。

選外:COVID-19

「COVID-19」はWHOが2020年2月に定めた、正真正銘の「今年の新語」です。文句なしのワードを選ぶのは面白くないので選外としました。

そんなところです。

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