辞書沼渋滞マシマシ!「じゃないほう」の新語2015-2021【選評】

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2015年から始まった三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」も、今年(2021年)で7回目を数えました。

この12月には『三省堂国語辞典 第八版』の発売もあり、選考委員が関わる4つの辞書すべての改訂もひととおり経た格好となっています。

古い順から、各辞書の直近の改訂年です。

2018年『三省堂現代新国語辞典 第六版』(以下、三現国6)

2019年『大辞林 第四版』(以下、大辞林4)

2020年『新明解国語辞典 第八版』(以下、新明国8)

2021年『三省堂国語辞典 第八版』(以下、三国8)

そんなある日、Webサイトに載った過去の入選語たちをつらつら見ておりますと、意外と「アレ、選ばれてないのか」となったワードがいくつも出てきました。これはいかんです。

「辞書を編む人」たちが選びそこなったワードは、一体どうなるのか?(どうもならない)
キャシャーンがやらねば誰がやる

と、謎の機運が高まった結果、辞書を編む人「じゃないほうの新語」を10語選ぶこととあいなりました。新語人間ヤシャーンの誕生です。

新語人間を自称するわりにボケが古いのは仕様です。

選考基準と選考結果

選考にあたり、次の基準を設けました。

【選考基準】

三省堂「今年の新語」2015-2021にランクインしていない語のなかで

  1. その意味での2014年以前の用例が少ない
  2. 2015年以降、各辞書の改訂で掲載された
    または、現在も未掲載である
  3. もし2022年以降に入選すると「今さらかよ」となる

もの。

これらの基準をすべて満たす、2015~2021年にふさわしいリアルガチ度の高い新語を選び直す。名づけて「新語補完計画」、より平たく言えば「究極の後出しじゃんけん」によって選出したトップ10がこちらです。

じゃないほうの新語2015-2021

テキストでも書いておきます。

  • 大賞 沼(~2018)
  • 2位 マシマシ(~2015)
  • 3位 渋滞(~2019)
  • 4位 解像度(~2020)
  • 5位 一択(~2016)
  • 6位 世界線(~2020)
  • 7位 ギガ(~2018)
  • 8位 肌感(~2019)
  • 9位 秒で(~2018)
  • 10位 良き(〜2021)

説得力ありすぎて面白みがないですね。でもしょうがない。面白さで選んでないので。

一緒に書いてある4桁の数字は、選出の「タイムリミット」年です。たとえば大賞の「沼(~2018)」は、「沼、2018年までに選んどかなきゃ」の意味です。

それが証拠に、『三国8』をチェックすると10語のうち実に9.5語までが立項済みでした。不足の「0.5」の意味は後述します。

Twitter世間から取った極力鮮度の高い用例を添えて、個々の選評を順に述べてゆきます。

大賞 沼(~2018)

あって当然だろうの勝手な期待と、実はランクインしていなかった現実とのギャップが最も鮮烈だったので大賞です。

あらためて確認しておきましょう。こういう使い方の「沼」です。

新しさも確認しましょう。2013年末リリースの『三省堂国語辞典 第七版』の「沼」はこうです。

水がしぜんにたまってできた、どろの深い池。水草や藻(モ)が生えている。「手賀(テガ)―」

『三省堂国語辞典 第七版』

正確を期して述べると、BIGLOBE版アプリからの引用です。以下『三国7』について同じです。

さて三国7の「沼」、まあそうなんですが……現在の視点からだと物足りなさは否めません。

前掲の「辞書沼」はじめ世界各所に点在する沼は、この沼由来ではあっても、比喩的な意味が発展普及しての用法です。

「沼」、過去の「今年の新語」に選ばれてないのです。調べた私もびっくりして二度見(←三国8追加語)しました。「今年の新語」検定があったら、必ず引っかけ問題で出ますよこれ。


今回「じゃないほう」の大賞に選出した「沼」は、2018年改訂の『三現国6』に掲載されました。こちらの記事で詳しくレポートされています。

高校生向け『三省堂現代新国語辞典』第6版がヤバいから高校生じゃなくても買え - 四次元ことばブログ
2018年10月16日(辞書の日)、『三省堂現代新国語辞典』の第6版が発売されました。 三省堂現代新国語辞典 第六版 作者: 小野正弘,市川孝,見坊豪紀,飯間浩明,中里理子,鳴海伸一,関口祐未 出版社/メーカー: 三省堂 発売日: 2018/10/16 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 「唯一の高校教科書...

高校生向け『三省堂現代新国語辞典』第6版がヤバいから高校生じゃなくても買え| 四次元ことばブログ(2018/10/18付)

NHK Eテレの「沼にハマってきいてみた」の放送開始は2018年、レギュラー放送は10月スタートでした(Wikipedia「沼にハマってきいてみた」による)。

というところをセットにして2018年をリミットとしました。

ちなみに、三省堂「今年の新語2018」のランキングはこうでした。

画像は三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」からです(以下同じ)。

なお、2017年より日本語警察が毎年選定する今年の新語「ジラ」では、同じ2018年の第5位に「沼」を選出済みです。

日本語沼のおまわりさんも、沼ってしまってわんわんわわんです。
恐ろしく伝わりにくいマウントを取ったところで。

次のワードを盛り込んでリレーする、往年の「夜のヒットスタジオ」方式でまいります。

2位 マシマシ(~2015)

前述のとおり、「今年の新語」は2015年が第1回でした。前年に飯間浩明さんが個人で開いた「今年からの新語2014」から発展した形で始まっています。

一般論としてまだまだ手さぐり段階にあった企画に対して酷な要求とも思いつつの第2位です。

第1回、2015年のランキングはこうでした。

ここに入っててほしかったのが、「マシマシ」です。漢字表記するなら「増し増し」です。

三国7に項目はありません。対応できそうな部分として、「増し①」に

増すこと。「二割―」

とあるのみです。

雑な調査ではありますが、2000年代以前からラーメン業界ではマシマシが一般化していました。2010年代前半には、ラーメン業界にインスパイアされた別ジャンルの用法も確認できます。こちらは2011年の例です。

手前味噌メガ盛りで自身のブログ過去記事を探すと、2014年に「元気マシマシもらい」の形で使っていました。

自治体広報誌の「元気をもらう」多すぎ問題を憂う―元気の研究(4)
元気ですかー! 元気の研究の一環として、ざっくり調査を行っています。シリーズ4回目にして、新たな問題が発覚しました。 それは、地方自治体の広報誌(広報紙)での「元気をもらう」の使用頻度が、ハンパなく高いことです。 ※写真と本文は関係ありま...

当時マシマシの使用に抵抗を覚えた記憶もありません。

一方マイナス要素としては、今回選出したワードの中でほぼ唯一「2014年以前の用例」が数多く見られた点があります。選考基準1.を満たしていません。既に「新語」の段階ではなかった、という可能性ですね。しかしその時期改訂の三国7に項目がない事実を鑑みればなおさら、2015年が「マシマシ」にとって最初で最後の「今年の新語」入りリミットだったのではないかと考えます。

くり返しますが、2015年当時に「マシマシ入れとかないと」は酷な要求かとも思えます。ただ外部からゆえ限界もあるものの、当時どういう選考過程を経たのかの再検証はしておきたいのです。

誤解のないよう付け加えますと、ここで私がやりたいのは、DevOpsの世界で言う a blameless post-mortem(非難しない事後検証)です。対象への理解をより深め、一層質の高い組織文化を醸成してゆくことが狙いです。

インチキ経営コンサルタントみたいな言いぐさが出たところで次へ。

3位 渋滞(~2019)

近年、感情も含めた広い意味での情報が多すぎるさまを指して「渋滞」と言うようになりました。交通渋滞メインで広く知られる「団体芸」タイプと、古い「ピン芸」タイプと合わせてのハイブリッドな「渋滞」の用法です。この新しさで第3位です。

わが新語「ジラ」では2019の第3位に選出しております。

三国7の渋滞はこうです。

はかどらないでとどこおること。とどこおり。「事務が―する・交通―[=自動車がつかえること]・一キロの―」

ピン芸と団体芸を一括しての記述となっています。しかしハイブリッドな渋滞は、とどこおることでなく「多いこと」に主眼があります。

三国8の渋滞は、順に「団体芸」「ピン芸」「ハイブリッド」の3タイプに記述が分かれました。妥当な改訂に思います。

マンスプレイニング:渋滞の3タイプ

しばし渋滞マンスプレイニングのお時間です。

「渋滞」と聞いた一般人の大半がイメージする交通渋滞は、いわば団体芸です。単独では起こしようがないからです。

年末年始の高速道路などでくり広げられる団体芸としての渋滞。このタイプは、実は1960年代から登場した新しい渋滞の用法です。シン・ゴジラ風に言えば、渋滞第2形態ってところでしょうか。新語だけに。

それまでの渋滞は「ピン芸」でした。かつて渋滞とは、すべて単独でのしわざだったのです。

たとえば太宰治の渋滞はこんなです。

……僕たちの新時代の船は、一足おさきにするすると進んで行く。何の渋滞も無いのだ。

――太宰治 パンドラの匣(初出1945-1946)|青空文庫

この例で、船が進むか進まないか、すなわち渋滞するかしないかに他の交通は関与しません。この船単独の問題です。

でもって昨今定着しつつあるのは、団体芸とピン芸両者のハイブリッドタイプです。感情を含めた広い意味での情報が「多すぎる」さまを渋滞と表しています。


話はそれますが、コトバンク>精選版日本国語大辞典 「渋滞」の解説は、少し変です。

② 道路が混雑して、車両などがなかなか先へ進めないこと。

おなじみの団体芸タイプの渋滞です。変なのはこの語釈でなく、続く用例です。

※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一「車路は大抵土路のままにて、雪後の泥濘未だ乾かず、車輪を汚し、渋滞を免れず」

この渋滞って、ピン芸じゃないの? この例での渋滞の原因は路面の状況であって、他の車両ではないですよね。団体芸タイプの渋滞の例としては不適切に思います。

といったところで次へ。両方に新用法を取り入れたパターンが案外と少なく、2020年のツイートからです。

4位 解像度(~2020)

TOP3に入れたかったのですが、新語扱いしたいわりに相対的に古い時期の用例があるため4位となりました。

三国7では「解像」の用例に「―度」の形で登場するのみです。

理系用語だった解像度は、1990年代以降徐々に文系分野へも進出します。その過程で、視聴覚に関してのみならず、精神現象や一般心理など広く人の内的活動全般に対しても「解像度」を使うようになりました。

解像度の来歴を大ざっぱにたどるとそんなところでしょうか。

「解像度」ヒストリー

一般向けならここまでで十分でしょうが、より解像度の高い記述を求める向き(いるのか?)に応えて、根拠とした各事実も示します。

国立国会図書館のデジタルコレクションを探すと、「間接撮影解像力ノ客觀的判定ニ就テ」(日本医学放射線学会雑誌 5(2), 1944)など、1940年代から「解像」の用例が見られます。

1940年代の解像は、レントゲン撮影に関するものばかりでした。きっと、resolutionのまんま訳語なんでしょうね。

「解像度」では1962年のこちらが最も古いものでした。

また紫外部吸収小物体は普通より2倍の解像度を有す。

――紫外・可視および赤外万能テレビジョン顕微鏡の試作紹介(動物学雑誌 71(11・12)  p.381, 1962)

この系譜に連なる映像・音声に関しての解像度なら、今日でもおなじみです。

その後1990年代に入って、解像度が文系分野へ進出します。1990年の「はしり」の用例です。

それは、私達の「世界」の見え方がどれほど彼らとは異なり、彼らの隠したい恥部に触れる解像度を持ちうるか、ということにかかっている。

――小倉利丸:〈帝国主義〉の新たなフロンティア 『イメージとしての〈帝国主義〉』(1990)p.50

これは「見え方」の比喩なので、まだ理系用語の解像度を継承してはいます。

こちらは1996年の用例です。

いわば問題に合わせて分析の解像度を一層向上させ

――渡辺公三『現代思想の冒険者たち 第20巻 レヴィ=ストロース――構造』(1996) p.291

分析に対して解像度を使っています。視聴覚と直接は関係なくなりました。

なおこの用例はご教示いただいたもので、自身では未確認です。こんど図書館で見ておきます。

こうして解像度が映像や音声の視聴覚分野で常用される一方、意味領域を拡張した文系用語タイプが時間をかけて一般へ普及したと言えそうです。

余談ですが、「解像度」の語釈が最初にどのジャンルを挙げているかで、各辞書が解像度をどこで認知したか、もしくは主流の分野と捉えているかがうかがえて面白いです。手元で引ける辞書だとこんな具合でした。

  • 写真で(広辞苑 第七版)
  • ディスプレーの(大辞林4.0)
  • テレビ・コンピューターのディスプレーの(デジタル大辞泉)
  • カメラ、(精選版 日本国語大辞典)
  • ディスプレーの(明鏡)
  • レンズが(新明国4「解像」)

前述のとおり、デジタルコレクションの検索結果から判断すれば、解像の最初の応用分野はレントゲン撮影画像でした。

5位 一択(~2016)

実は今回指摘を受けてはじめて、一択が新語だと認識しました。私からすれば隠れた新語、名づけて「隠れ新語」です(そのまんま)。隠れ新語のポテンシャルを評価しての第5位です。

自身のブログ記事を検索すると、2014年から使っていました。こちらは2015年の記事タイトルです。

自転車の空気入れならこれ一択:サーファス FP200
こんにちは。 「自転車の空気入れなら『サーファス FP200』一択」 5, 6年前、ある自転車屋さんのブログにそういうふうに書いてあって、真に受けたらうまくいきました。 しかし現在ブログが移転したかして、当該の記載が見つかりま...

この文句も、あるブログからの受け売りです。逆算すると2009年前後だったはずです。

ホントのホントに私には、一択に新語の認識がありませんでした。私の辞書には既に載っていたからです。といっても一択の文字が辞書にあったわけではなく、既存のデータセットからの展開としてです。

三者択一を縮めて「三択」ですから、「一択」を復元すれば「一者択一」です。一者から一つを選ぶ。つまり他の選択肢は検討のテーブルにすら上がらないと。つまりこれは一種の強調表現なんだな、という具合です。

プレイバック「一択」2014-2021

さて、あらためて三国7を引くと接尾語の「択」と「二択」「三択」は載ってましたが、一択はありませんでした。

『三国』編集者&「今年の新語」選考委員のひとりである飯間浩明さんは、2014年に「一択」についてTwitterで「陳情」を受けてもいました。

激アツですね。

また、2017 第2回大辞泉が選ぶ新語大賞によれば、「一択」は2017年6月に月間の新語に入選してもいます。

といったところのあいだを取って、2016年をリミットとしました。


あとは長めの余談です。

一択が新語であったのと同時に、一択の解釈もまた多様であることを知りました。

国会会議録の一択を探すと、参議院厚生労働委員会 第10号(平成27年5月12日)の会議録に、ちょっと面白い一択がありました。西暦で言えば2015年です。

(前略)いずれかを選択すればいい、一択ですよね、一択。この場合、(後略)

発言番号 383

ん? いずれかを選択すればいい一択とは?

この健康確保措置は一択で、その一つを選択したときの労働条件が違法か合法かを聞いているんです。

発言番号 385

え? 一択なのに選択できるの?

この三つは一択なんですよ。

発言番号 387

え? 3つあって一択? ちょっとなに言ってるかわかんない。

三択のうちの一択ですから、(略)三つが要件じゃなくて、一個しか選べないんですから、

発言番号 389

それを言うなら「択一」じゃないですか?

発言者はいずれも、社民党の福島みずほさんです。

2018年のツイートもこうでした。

どうやら福島さんにとって「○択」とは、単なる「選択肢」を意味するようです。1個2個3個~と同じ、数量詞のようなとらえ方ですね。もしも「1つを選ぶ」択一の意味を含むのならば、この文脈だと「三択を迫られた結果」ぐらいになるはずですから。

国会質疑での福島さんを含め、2014年からこっち、一択と択一の混同が一部で起こっていたことも観測できました。私なら先述のとおり、択一の選択肢は複数ありますが、一択の選択肢は1つです。くり返しますと、1つの選択肢から1つを選ぶ。それが私の辞書にある一択です。

データは取ってないので「○択」解釈の「択一」勢力と「選択肢」勢力の比率がそれぞれどの程度かはわかりません。次の国政選挙で民意を問いましょう(ウソ)。

6位 世界線(~2020)

物理学の用語だったのがゲームの世界に移入されて広まったということらしいです。自分で調べてないからふわふわしたもの言いです。

世界線に関しては、グランピングの変(2020)として(私だけに)名高い事件にからめて論じる必要があります。キャシャーンがやらねば(以下略)

「グランピングの変」とは、グランピングが「今年の新語2020」第9位にランクインしたことで、世界線が圏外に消えた2020年の事件を言います。世界線にしてみれば、グランピングにはじき出されて割を食った格好です。

極めて冷静に(by 山本康一さん)両者を評価するならば、「今後の辞書に掲載されてもおかしくない」点で世界線の方が明らかにランク入りにふさわしいはずなのにね。

なぜならグランピングはその前年(2019年)改訂の大辞林4に掲載済みだったからです。一方で世界線は未掲載です。でありながらなお

「グランピング」は飯間先生が何年も前から推していた言葉だったらしい

「今年の新語2020」が「ぴえん」に決まった理由は?審査員に舞台裏をあれこれ聞いてきた|トゥギャッチ(2020/12/14付)

大量の候補語を前にして、選考委員会での話は尽きませんでした。(略)「『グランピング』(贅沢なキャンプ)が人気だが、誰もが体験するほどにはなっていない」

「今年の新語2016」選評

言うとりますけども、悪く言えば執着とも呼べるわけで。「グランピング」を今年の新語入りさせることへの飯間さんのこだわりはなんだったのかっていうのは、ずっと引っかかっています。もちろんこれも、blameless post-mortemの一環です。

今回「じゃないほう」ではありますが、世界線が「今年の新語」入りした世界線に修正しておきました。

7位 ギガ(~2018)

2018年刊の『三現国6』へ追加されました。「沼」と同じくこちらの記事が詳しいです。

高校生向け『三省堂現代新国語辞典』第6版がヤバいから高校生じゃなくても買え - 四次元ことばブログ
2018年10月16日(辞書の日)、『三省堂現代新国語辞典』の第6版が発売されました。 三省堂現代新国語辞典 第六版 作者: 小野正弘,市川孝,見坊豪紀,飯間浩明,中里理子,鳴海伸一,関口祐未 出版社/メーカー: 三省堂 発売日: 2018/10/16 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 「唯一の高校教科書...

周知のとおり、ギガとは10の9乗を表す接頭辞です。三国7の記述もこれだけでした。

十億〔記号G〕。「―ヘルツ・―バイト」

それが「ギガの接頭辞で数える何者か」に流用されてるのって、たぶん、そこを表すいいワードがほかに見つからないからですよね。

本格を求めるならそれが究極でも至高でもないことは百も承知でも、手近な語彙はギガしかないし大抵の人はギガで十分間に合ってるんです。ちょうど本場の讃岐うどんと丸亀製麺の関係みたいなもんです。ちと違うか。

こちらのYouTube動画でもギガの話題がありました。

「ギガが減る」を許せない頑固おじさんの改心【今年の新語予想】#67|ゆる言語学ラジオ(2021/10/26付)

今年の新語警察が今年の新語をサーチしていてヒットしました。この種のニッチすぎるとも思える題材を扱うチャンネルで10万の登録者を集めて活性の高いコミュニティを形成していることには、学ぶ点がありそうです。

8位 肌感(~2019)

イラストなどで表現されたものを含めての「肌の質感」ではなくて、「肌感覚」の略としての肌感です。

三国7には項目なしです。

8位に置いたのも2019年にリミット設定したのも肌感です。

9位 秒で(~2018)

三国7と大辞林4には項目がありません。あとは持ってないの。ごめんね。

【特設サイト】三省堂国語辞典 第八版には「第八版で新たに追加した項目の例」のリストがあって、「秒で」もそこに入っています。

2021-12-27_00-10-47

【特設サイト】三省堂国語辞典 第八版|三省堂
時代(いま)を写す辞書。ことばを楽しむ辞書。「三国(サンコク)」8年ぶりの全面改訂!ウェブ検索だけでは得られない、価値ある情報が満載!『三省堂国語辞典 第八版』特設サイト

うたってるわりに、「今年の新語」に選んでへんやん。ていうのはあります。

前掲のとおり、わが「ジラ2018」では第4位に「秒で」を選出済みです。

このリストのうち過去にランキング入りした語の数でマウント取ろうとしたら、「今年の新語」より全然少なくて、秒で却下となりました。

ちなみに私の記録が確かならば、前掲の全57語のうち、過去の「今年の新語」選出語は「選外」扱い含めて次の5つです。

  • インフルエンサー(2017#2)
  • ウェビナー(2021#6)
  • ソーシャルディスタンス(2020コロナ枠)
  • 斜め上(2015#10)
  • 黙食(2021選外)

10位 良き(〜2021)

まだまだネット中心のムーブメントですが、近ごろ上のような「良き」の用法が増えてきているように感じます。述語に来るパターン、英文法用語でいうところの叙述用法の「良き」です。

大賞から9位までの9語は、『三国8』の改訂で全てカバーされていました。しかし「良き」だけは、限定用法のみの部分的なカバレッジだったので「0.5」カウントです。

確認しておきます。三国7の「良き」です。

〔文語形容詞「よし」の連体形〕
〔文〕よい。(用例略)

『三国8』では用例に「きょうの良き日」が加わり、限定用法の充実度が増しました。

こういったセルフレビューが生かされています。

他方、叙述用法の良きには『三国8』にもいまだ言及がありません。2022年以降の動静によっては近い将来の「今年の新語」入りも十分あるとみての10位です。ですので選考基準4.の「今さらかよ」感は低め。

なお述語に来る「良き」は厳密には新語ではなく、古文の部分的なリバイバルです。文末を「良き」と連体形で結ぶのは、文語文法なので。ただしこの場合、ペアとなる係助詞も必要です。こんな具合です。

「良き」と連体形で結ぶスタイルに再興の気配こそあれ、係助詞を使う文法の復権にまでは至っていないようです。他に使ってみえる方は見あたりませんでした。そこまで必要とされてもなさそうだし。

話はそれますが、古文になにゆえ「係り結び」ルールが必要だったかの高校生時分からの疑問が、これで自分なりに解決できました。普通の終止形の「良し」では、そこにエモを入れ足りないからですね。部分的にでも現代人が古のルールにまんま則っているさまが面白いです。いみじうこそをかしけれ。

謝辞

「じゃないほう」の新語2015-2021は、ヤシロが原案を出し、次の方々の助言と承認に基づいて完成させました(順不同・敬称略)。

ここに謝意を表します。

新語人間の国辞行為として日本国憲法に定められたとおりに(ウソです)、検討に使ったディスカッションシートは引きつづき閲覧できるようにしてあります。これは本当です。

「じゃないほう」の新語2015-2021選考
候補リスト兼ディスカッションシート 整理番号,候補,リミット年,評価/判定,コメント/用例,情報提供(敬称略),記載日,参考URL/出典など 1,沼,2018, 2,解像度,2020 2-1,↓,推しといて何ですが、初出は遡れそうです。例えば;「いわば問題に合わせて分析の解像度を一層向上させ」〈渡辺公三(1996)『...

「じゃないほう」の新語2015-2021選考(Googleスプレッドシート)

中をのぞいて何も得るものがなくても苦情は受けかねます。本当です。

ひとつ今回の検討過程で地味に面白かったのは、「新しすぎる」が理由で原案から外れたワードが出たことでした。新しすぎると新語に選べないとは、まるで禅問答です。「新語のパラドクス」とでも名づけましょうか。

「じゃないほう」の全10語の中には、辞書を編む人たちがシンプルに選びそこねたものだけでなく、意図を持ってやり過ごしたものもあったのかもしれません。

そんなところです。

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