「バタフライエフェクト」という言葉をご存じでしょうか。ひとりひとりのささやかな営みが、時空を越えて大きな出来事を引き起こす。歴史は、このバタフライエフェクトの積み重ねと言ってもいいかもしれません。
BSプレミアムで放送された「バタフライエフェクト あの日があるから今がある」(2022/01/11 OA)の「この番組について」からまるパクリしてみました。
昨日今日JPCZを知った「にわか」が、今日明日JPCZを知る「にわか」に対してさも自分が「古参」であったかのごとくデカい態度を取れるようにするため、この記事は生まれました。
〔理〕カオス② の特徴を比喩的に表した語。小さな蝶の羽ばたきが遠く離れた地点で大きな気象の変化を引き起こすという理論を敷衍する。
とする、広辞苑 第七版「バタフライ効果」もふまえて進めます。
これまでのあらすじ
で、JPCZの初出は
[PDF] 5.日本海豪雪の中規模的様相(浅井冨雄)|「天気」35巻3号(1988)
で間違いなかろうと認定しました。
一方で「どういうわけか今季になって気象情報レベルで頻繁にみかけるようになった」現象の解明を残していました。
当記事では解明結果をリポートします。
結論:Executive Summary
なんだかんだ言ってNHKの拡散力。簡潔にまとめてしまえばそんな話です。
2021年12月23日と24日付でNHK NEWS WEBに公開された2つの記事
知っておきたい防災・気象用語【大雪・低温編】(2021/12/23付)
気象庁も警戒 大雪の原因“JPCZ”=日本海寒帯気団収束帯とは | 気象|NHKニュース(2021/12/24付)
これこそが、2021-2022シーズンになってJPCZを頻繁にみかける一大現象を引き起こした「小さな蝶の羽ばたき」にほかなりません。
というのも、気象予報士の方のブログ記事を除き、この記事以前にnhk.or.jpサイトにJPCZの用例は存在せず、かつ、この記事以降、NHKは気象情報でのJPCZの使用を事実上「解禁」しているからです。
記事の筆者情報
とある証言に頼るならば、2つの記事はいずれも報道局社会部災害班の出稿と考えられます。
後者の「気象庁も警戒 大雪の原因“JPCZ”=日本海寒帯気団収束帯とは 」にも筆者のクレジットはありません。同じく証言を頼れば、筆者は社会部災害班記者の清木まりあさんと、島川英介さんです。続きは後述します。
JPCZの「バタフライエフェクト」2021-2022
事実、2021年12月24日以降、JPCZに対しては「最近よく聞く」的な枕詞がしばしば付け加えられます。
/
最近よく聞く#JCPZ って何?
\北からの強い寒気が南下
⬇
朝鮮半島で東西にわかれる
⬇
日本海側で再び合流これが
“JPCZ=日本海寒帯気団収束帯”注意するポイントは?https://t.co/FpHtrIqngg
— 明日をまもるナビ (@nhk_ashitanavi) January 18, 2022
これもNHKのアカウントなんですけどね。広義の「自演乙」です。
【南岸低気圧で関東に雪が降るには…近づきすぎると雨?】 https://t.co/ldi5MU7bC0 ここ最近「JPCZ」なる気象ワードがニュースにもよく取り上げられていますが、太平..
— tenki.jp (@tenkijp) February 6, 2022
【大雪の時の「JPCZ」とは…気象予報士が解説】
マニアックな気象用語を解説します。
「JPCZ」。
最近、大雪の時に聞くようになりました。
アイドルグループみたいな響きですね。JPCZとは、日本海寒帯気団収束帯…
続きは↓https://t.co/21o4OCNU6F pic.twitter.com/0GHhfrqq6B— bbtnewsdesk (@BBTnewsdesk) February 8, 2022
メディアアカウントに限ってもこんな具合です。
JPCZ「メジャーデビュー」の2021-2022シーズン
「アイドルグループみたいな響き」の初心をむやみに持ち続けたいため、そっちの語彙をふんだんにフィーチャーして語ります。
要約
Atos接近メロディ/Jr東日本(山手線)
発車メロディー
¥153
1988年の結成以来インディーズシーンではつとに知られていたJPCZ。
2021-2022シーズンに2つのメジャーレーベル(大企業)からリリースが相次ぎ、一躍メジャーな存在となりました。
メジャーデビュー1つめは2021年12月のNHK。
防災情報ってたくさんあって複雑…今後の大雪でも発表される可能性があります
「大雪警報」「暴風雪警報」
「猛吹雪と吹雪」
「顕著な大雪に関する気象情報」
「ホワイトアウト」
「降雪と積雪の違い」
「JPCZ」?大雪や低温に関する用語、1つずつ簡単に解説しますhttps://t.co/dkeWXNtRJQ
— NHK生活・防災 (@nhk_seikatsu) December 23, 2021
気象庁も警戒 大雪の原因“JPCZ”=日本海寒帯気団収束帯とは #nhk_news https://t.co/XmsgeuphIG
— NHKニュース (@nhk_news) December 24, 2021
そしてもう1つは2022年2月のJR東日本です。
2月2日16時37分 配信
米坂線:『お知らせ』
明日(3日)から週末にかけての米坂線は、JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)の影響による大雪が見込まれるため、列車に運転見合わせ・遅れ・運休が発生する可能性があります。今後の… #米坂線 #Yonesaka_Line https://t.co/FMon31S3DU— JR東日本【信越エリア】運行情報 (公式) (@JRE_Shinetsu_A) February 2, 2022
2月3日11時13分 配信
上越線:『お知らせ』
本日から週末にかけての上越線は、JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)の影響による大雪が見込まれるため、列車に運転見合わせ・遅れ・運休が発生する可能性があります。今後の気… #上越線 #Joetsu_Line https://t.co/HbBuJ0JdyU— JR東日本【東北・高崎方面】運行情報 (公式) (@JRE_F_Toho_Taka) February 3, 2022
いずれも、各アカウントのJPCZ「初観測」ツイートを取り上げました。
JR東日本管内でのメジャーデビューをきっかけにJPCZの露出も一気に増え、目撃証言も相次いでいます。
先週金曜日の夜
横浜関内駅の掲示板に
このごろ流行りの…#JPCZ #日本海寒帯気団収束帯 pic.twitter.com/4oiUftZjm4— Team SABOTEN 気象専門 (@TeamSABOTEN) February 6, 2022
といった具合に、如月ハニー並みに知名度も爆上がりです。変わるわよ。
黎明期~インディーズ時代(1988-2010)
JPCZの結成は1988年のことです。前述のとおり、プロデューサー(命名者)は浅井冨雄さんです。
[PDF] 5.日本海豪雪の中規模的様相(浅井冨雄)|「天気」35巻3号(1988)
このJPCZ初出記事が、浅井Pの1996年のアルバム(著書)『ローカル気象学』にも「7-3日本海寒帯気団収束帯」として収録されていました(pp.176-179)。
学部生向けの教科書を想定したらしく、初出時の歌詞「カタバ風」が「おろし風」と日常語に置き換えられているなど、ポップ路線を意識したふうにも受け取れます。
それでも2010年ごろまでは、JPCZの活動のフィールドはもっぱら学会に限られていました。西暦2000年代までの用例は、ほぼこの2サイトに集中しています。
公益社団法人 日本気象学会
気象庁
「あなたのJPCZはいつから?」ツイッタークロニクル(2009-2022)
以後、JPCZの使い手をMCZファンのひそみにならい「モノノフJP」と呼ぶことにします。
Twitterで確認できたモノノフJPの最古参は、こちらです。
ちょっと専門的に。近畿に入るのは下層寒気主体で850は-12℃(今季1,2を争う)。一方、500は-30℃が北部にかかる程度。このためJPCZの影響も加わる北陸に比べれば降雪量は値が小さいが、ふぶきによる視界悪化や着雪には注意。なお、日本海の高波は警報級の予想。
— 片平 敦 (@katahira_tenki) December 30, 2009
関西地区ではカンテレの気象担当としておなじみの方です。
インディーズシーンのJPCZ(2011-2021)
過去のツイートをたどると、気象専門メディアを中心に、JPCZの用例が残っていました。
以下、気象に関連しそうな主なTwitterアカウントについて、JPCZの「初鳴き」が観測された日を年代順に並べてみました。
2011-2016シーズン
【JPCZ】 雲からわかる季節の前進 http://t.co/lUkGZj3T きょう14日(月)の雲の様子を振り返ってみましょう。冬になると日本海に現れる雲。よく…
— tenki.jp (@tenkijp) November 14, 2011
冬の雲.JPCZ:日本海寒帯気団収束帯は大雪の原因になったり,JPCZ上で発生する低気圧は暴風雪をもたらすことも.気象情報を見ながら雲を愛でましょう.「雲の中では何が起こっているのか」より.http://t.co/34aL9FJrnj pic.twitter.com/KT3BA4jQ0y
— 荒木健太郎 (@arakencloud) December 7, 2014
荒木健太郎さんの著書『雲の中では何が起こっているのか』(2014)p.246にJPCZが出てきます。
さながらモノノフJP「ガチ恋」ってところですね。
2016-2017シーズン
今夜の天気図に気になる部分が…#JPCZ #冬 #西高東低 #冬型 #気圧配置https://t.co/BFjlTS2gut
— ウェザーニュース (@wni_jp) November 1, 2016
《SOLiVEコーヒータイム》12:00-15:00
お天気好きは抑えておきたい冬のアレを予報センターの芳野さんに聞いちゃいます。一緒におベンキョしましょ♡今更だけど聞けないことってありますよね。#ソライブ #solive #JPCZ #白井ゆかり #ゆかりん #お天気 pic.twitter.com/FXEFJUxtRi— ウェザーニュースLiVE (@wni_live) December 4, 2016
日本海上で合流する風「JPCZ」が大量の雪雲 数年に1度の寒気も影響 https://t.co/4w0HQnYDEe pic.twitter.com/x3CD63kYMJ
— 産経ニュース (@Sankei_news) January 14, 2017
2017-2018シーズン
北陸大雪、原因はJPCZと低気圧の停滞 8日も警戒を https://t.co/Dvrrm29MqS
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) February 7, 2018
北陸大雪の原因となった「JPCZ」とは?https://t.co/SupLudceFy
— ハフポスト日本版 / 会話を生み出す国際メディア (@HuffPostJapan) February 8, 2018
2018-2019シーズン
JPCZのグッズが売られてました。インディーズシーンでJPCZが着実に地歩を固めた時期だったようです。
「#世界気象カレンダー」2019年版:
https://t.co/Oku96KODZq pic.twitter.com/KBsx6MCBw7
1月 冬の嵐をもたらす雲システム ― 日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)による大雪 ―(担当:荒木健太郎氏)
※是非是非お好みのテーマや画像を見つけて拡散いただけましたら幸いです。
— ジャムハウス (@jamhouse97) September 21, 2018
【近畿北部では大雪に 中部や南部でも積雪か】
きょう27日の午後5時、日本海には風が集まる場所があります。JPCZ=日本海寒帯気団集束帯といいます。風どうしがぶつかるため、雪雲が発達しやすいんです。発達した雪雲は北陸地方に次々と流れ込んでいます。https://t.co/dr9vH8v0BQ
— NHK大阪放送局 (@nhk_osaka_JOBK) December 27, 2018
こちらは気象予報士の坂下恵理さんによるえりの気象日記の記事シェアです。ただし当該の記事は既に消えています。
2019-2020シーズン
令和元年度第1回(通算第52回)気象予報士試験の「予報業務に関する専門知識」問7に、JPCZが出題されました。
※画像は気象予報士試験 過去の試験問題|気象業務支援センター 掲載のPDFよりキャプチャ
気象ガチ勢のモノノフJPなら知ってて当たり前なのでしょうね。ちなみにモノノフJP「にわか」の私もこの問題だけは解けました。
メディア系アカウントのJPCZ「初観測」はありません。実はこのシーズンは暖冬で、積雪も平年より少なかったみたいです。
2020-2021シーズン
富山から「JPCZ」福井も大雪に https://t.co/gI0yv3OVWK
— 福井新聞メディア (@fukuinpmedia) January 10, 2021
2021-2022シーズン
前述した以外のアカウントにもJPCZ初観測が複数あります。
気象庁も警戒 大雪の原因“#JPCZ”=#日本海寒帯気団収束帯 とは
平地でもわずか数時間のうちに大量の雪が降り、立往生などにつながるいわゆる「ドカ雪」。その要因となるのが「#JPCZ」。JPCZがなぜ危険なのか、そして「危険な雪の降り方」を把握する手段をぜひ知ってください。https://t.co/fKem2KRKqo
— NHKとっとり(NHK鳥取) (@nhk_toritori) December 25, 2021
年末寒波はJPCZがぶつかるエリアで大雪に https://t.co/6JcpXMlrXa
— テレ朝news (@tv_asahi_news) December 29, 2021
気象に関する話題をマニアックに掘り下げる #Mieライブ『気象らぼ』。
今回のテーマは
「大雪の原因!JPCZとは?」今回も三重大学の立花教授が熱弁を振るっています
You Tubeにアップしていますので、気象関係者の方、気象に興味のある方、是非、ご覧ください。https://t.co/NTEM90hXCi
JPCZ pic.twitter.com/7grZ2dSqmQ— 多森 成子(気象予報士) (@SeikoTamori) January 18, 2022
JPCZは山形方面に 会津地方ではまとまった雪に 福テレ斎藤気象予報士《これから天気》2月2日 #FNNプライムオンライン #福島テレビ https://t.co/NTk7iyBfYg
— FNNプライムオンライン (@FNN_News) February 2, 2022
ここまで見てお気づきかもしれませんが、本州日本海側の積雪地帯の地元メディアが「JPCZ」への感度が高いかというと、必ずしもそうとも言えなかったです。もっとガンガンくるかと思ってましたが。モノノフJP歴に地域的な有意差は認められませんでした。
モノノフJPにおすすめの動画
三重テレビがYouTubeに公開している「気象らぼ」でのJPCZ解説が、JPCZガチ勢によるガチな内容だったのでモノノフJPにおすすめです。
「大雪の原因!JPCZとは?」(2022/01/12付)
「続・JPCZとは?世界初の観測」(2022/02/02付)
どちらも再生回数だけでコンテンツの質を判断する弱い人には到底リーチしない状態なので、自信を持って推せます。
あと完全に蛇足ですが、2021年1月の<ご視聴ありがとうございました!>満月特番「ももクロ×ウェザーニュース『月色Chainon』発売記念生配信『ももクロと満月を見ようZ』」に出演決定!さらに重大発表も!|momoclo.net(2021/01/29更新)で、JPCZはMCZと接点があったかもしれません。こちらはモノノフからの情報を待ちます。
軽率なJPCZ「モノノフ」とJPCZ「アンチ」
後述するとした「とある証言」です。「小さな蝶の羽ばたき」のさらに初動の部分を語る証言です。
ついにJPCZを取り上げる日が来るとは…いや正確にはこれまでも原稿にしたことあるが単品でスポット当てることはうちでは珍しいのでは?
記者とデスクが頑張りましたよー
(私はお願いしただけ)「JPCZなんて知ってるでしょ」って言ってきた人いたけどあんた漢字書けんやろ! https://t.co/QtYvNxE8KO
— 加藤 大和 (@YamatoKato) December 24, 2021
個人としてはJPCZだからなんなんだ、という気持ちでいるのだけど「へぇ」から始まって気をつけとこって思ってもらえたら儲けものだと思うんですよね。
まりあ記者と島川Dが昨日から一生懸命考えて書いてくれた記事でへぇが増えていくといいなぁ…
今日の大雪関連原稿は災害班総動員で出しましたよ
— 加藤 大和 (@YamatoKato) December 24, 2021
プロフィールの自称を信じるならば、発信者はNHK報道局社会部デスク(災害担当)です。
なにゆえ清木まりあさんが「まりあ記者」と名前呼びで島川英介さんが「島川D」と姓呼びなのかに引っかかりましたが、今はアドバンテージを取って流します。
ともかく加藤さんの軽はずみな発信のおかげで、「中の人」の事情をうかがい知ることができました。
加えて、2021年度上期の連続テレビ小説が気象予報士を目指す女性をヒロインにしていたことも、JPCZの「蝶の羽ばたき」をもたらした1つ、あるいは羽ばたきそのものにカウントしてもいいかもしれません。NHKなんで。
JPCZ「アンチ」の壁
一方で、JPCZメジャー化とモノノフJP勢力拡大の流れにはっきりと抵抗姿勢を示すアカウントもありました。
「日本海寒帯気団収束帯」発生、記録的な大雪にhttps://t.co/XC8c26E8XM#科学・IT
— 読売新聞 科学・IT (@YOL_science) February 6, 2018
北風が日本海上空で衝突、雪雲が断続的に発生…広範囲で大雪にhttps://t.co/d0gs6XiRiH#科学・IT
— 読売新聞オンライン (@Yomiuri_Online) December 26, 2021
記事本文にJPCZは登場させても、ヘッドラインには出さない意思を感じます。記事内のグラフィックもこんな具合でした。
出典:北風が日本海上空で衝突、雪雲が断続的に発生…広範囲で大雪に|読売新聞オンライン(2021/12/26付)
それもこれも
■簡潔・明快な文章
1 (略)
2 専門語やお役所言葉は言い換えよう (略)
3 (略)
4 略語を乱用しない 専門語やカタカナ語よりももっと分かりにくい。できるだけ言い換えたい。
(略)QOL→生活の質
(後略)
出典:『読売新聞用字用語の手引 第5版』(2017)文章を書くときの基本 p.13
とする「基本」にとても忠実ですね。
どちらも一長一短ですが、私はNHKのスタイルが好きです。
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