三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」(以下「今年の新語」)は、2020年以降「それぞれの選考委員が選出した10語」を公式サイト上で公開しています。
今年も「今年の新語2025」 選考結果のページ末尾に載っています。

このデータからいろいろわかりますので、新語選びの質の維持向上のため、ぜひ今後も続けてください。
選出語ぜんぶを取り上げる当ブログの「完全レビュー」もあわせて6回目となりました。今回は、ちょいちょい過去の関連データも参照しつつ進めることにいたします。
「今年の新語2025」ノミネートデータ
選考委員は例年どおり次の4者でした。 ※敬称略。以下同じ
- 小野正弘(『三省堂現代新国語辞典』)
- 飯間浩明(『三省堂国語辞典』)
- 『新明解国語辞典』編集部
- 『大辞林』編集部
各選考委員がそれぞれ携わる4つの辞書を、以後『三現国』『三国』『新明国』『大辞林』と表記します。
この4者が10語ずつを選出します。
得票結果は
- 2票:8語
- 1票:24語
でした。この合計で32語です。3票得た語がなかったのは、2020年に選出語が公開されてから初めてです。
このほかに、選考委員による選出以外から2語が加わっています。記事タイトルの「+2」はそれを表しています。
これら計34語を次に示す3つのグループに分けレビューしていきます。
- 第一群(10語):大賞〜第10位の入賞語
- 第二群(3語):「選外」の3語
- 第三群(21語):どちらの選からも外れたもの。当記事では「圏外」とします
あいみょんメドレー「今年の新語2025」バージョン
選考発表会を視聴し選評を通読するあいだ、筆者の頭の中をいくつかの楽曲が去来しました。うち最も多かったのはあいみょんさんの楽曲です。次のナンバーがメドレーになって流れました。
- 愛の花(2023)
- 裸の心(2020)
- 君はロックを聴かない(2017)
- 愛を伝えたいだとか(2017)
それは極めてパーソナルな出来事ですが、公にしておきます。
プロローグ:レビューの花
♪
言葉足らずのレビューを レビューを貴方へ
私は決して飯間を 飯間を憎んではいない
呼び捨てしてごめん。
総評
小学校の卒業式によくある「呼びかけ」の文体で簡潔にまとめます。
- 落差ありすぎ \セレクション/
- 必要ですか? \順位付け/
- どうなってんの \選考プロセス/
何はさておき「オールドメディア」がダメです。もう三現国に載ってるので失格です。
「今年の新語2025」総評はこれに尽きます。楽しめたところはたくさんあったのですが、「オールドメディア」の穴が大きすぎてトータルちょいマイナスです。私は乗れません。

落差ありすぎ \セレクション/
「今年の新語2025」選考結果を転載します。

カウントダウン前半は重めの、後半は明るめの言葉が並びました。
「年末の風物詩といえばアレ」を意識?
視聴していて、6位、5位あたりから「ベートーヴェンの第九交響曲意識してんのかな?」と思い始めました。第九の展開になぞらえると、明るく派手めな言葉が上位に来る予感はしてました。
ふりかえってみれば、緊急銃猟から重々しく始まって、ビジュの歓喜の歌でフィナーレとあながち外れてもいない気もします。
第4楽章のフロイデ!の叫びは、「えっほえっほ」が担いました。第九の合唱の一部はフーガの様式になっています。フーガは、ベートーヴェンの時代には既に「古い」様式と見られていましたので、こじつけもできます。
けれども「オールドメディア」、それはダメです。失格です。
必要ですか? \順位付け/
ですから、「今年の新語2025」ベスト10の順位に対し「発表会での発表順」以上の意味を感じません。操作された感覚が強くします。特に4位以下は。
「今年の新語」は、例年10位からのカウントダウン方式で発表されます。もしも恒例の発表順が「4位から10位まで、そのあと3、2、大賞の順」であったなら、そのまま「第九」バイブスを生かして
4位が緊急銃猟 → 5位 夏詣 → … → 9位 権力勾配 → 10位 しゃばい となっていたはずです。
その順位であっても、私には何の違和感もありません。
実際、過去の「今年の新語」選考データも、得票数と順位がまるで無関係であることを示しています。たとえば過去、3票を得た語の順位はそれぞれ次のとおりです。
- 2020 ぴえん(大賞)
- 2021 ○○ガチャ (2位)※ 親ガチャと合算
- 2021 マリトッツォ (3位)
- 2021 人流 (5位)
- 2022 メタバース (4位)🐸
- 2022 リスキリング (10位)
- 2023 闇バイト(10位)
- 2024 メロい(6位)
ほとんど相関がありません。2022、2023など、最初に発表するから10位に置いたのではとの疑いも強く残っています。歪んでいます。
どうなってんの \選考プロセス/
三現国7に立項済みの「オールドメディア」を選出してしまう、ってところが選考プロセスに問題を抱えていることの何よりの証拠ですが、その点は記事の最後にまとめて触れます。
「今年の新語2025」は妙なところをプッシュしてました。発表会当日、司会を務められた豊田順子さんのアナウンスから。
一般の皆様からその年によく見たよく聞いたことばを募り、その中から辞書を編む専門家がベストテンの形で今年の新語を審査選定したものです。
それ本当?
応募締切日の告知も同工でした。
私の記憶が正しければ、2024まで「投稿から選ぶ」なんて特段強調してませんでした。ですんで、方針変えたってこと?と不審でした。
はたして2025の各選考委員の10語の傾向もほぼ例年どおりです。言い換えると、一般投稿から選んだ感がほとんどありません。違うんなら違うと明言してほしいところです。
提言:裸の選考データ
選考データを根拠に、「今年の新語」の改善点を2つ提言します。
- 4位以下の順位づけ廃止
- 事務局への10語ノミネート権限の付与
4位以下の順位づけ廃止
2023のレビューでも書きましたがくり返します。発表順以上に根拠のない順位なら、いらないです。
実際、『現代用語の基礎知識』選の新語・流行語大賞では、大賞を除く9語は単に「トップ10」とされるだけで順位がありません。順位がなくて誰かが困ってるなんて話も、寡聞にして知りません。
事務局への10語ノミネート権限の付与
2つめ。事務局推薦であと10語出して体裁だけでも整えてくれませんか。
というのも、ベスト10の「男消し」と選外の「取適法」の2語は、選考委員の誰もノミネートしていないからです。
選考プロセスのどこかで検討の俎上にのぼり、最終的にそこへ落ち着いたってことはわかります。気持ち悪いのは、そこがブラックボックス化されて不透明なことです。で、誰が言い出したのその2つ? 選考委員でもないくせに。
さらに先述したとおり、2025は「みなさまの投稿から」を前面に出してきたわりに、選考データからその裏づけがほとんど取れないのも気持ち悪いです。悪く言えば嘘じゃんそれ。
その辺吸収するために、2026からは従来の選考委員4者に加えて、事務局推薦の10語もあるといいんじゃないですかね。推薦10語の内訳は
- 投稿数の上位10語のうち、新語の要件を満たすもの
- 「これは」という語のセレクション
のブレンドでいかがでしょうか。
♪
この声が実りますように
少しだけ 少しだけ
そう思わせて
今、私 声をあげてる
裸のデータ抱えて
ノミネート元を増やす提言をしたもうひとつの狙いとして、「今年の新語」選考結果から相対的に飯間さん色を弱めたいのもあります。
具体的なデータの紹介は省きますが、だいたいどの年も、飯間さんの票を3票とカウントすると、得票数とベスト10の順位の相関が最も高くなります。簡単に言えば、他の選考委員よりも飯間さんの権限が3倍強いってことです。2025も上位5つが飯間さんのノミネート語で占められました。なんなのその勾配。
とはいえ事務局に選考の権限まで与えるかどうかは任せます。あっても構いませんし、選考に関しては従来どおり委員4者が主体のままでもいいです。
なお「選考委員別・ベスト10入りした語の数が多い順」過去6年分の経年データは、以下のとおりです。()の中は、うち単独ノミネートだった語の数です。重複して数えているので毎年の全委員の合計は10を超えます。
- 2025:飯間6(単独3)、小野3(単独0)、大辞林2(単独2)、新明国2(単独0)
- 2024:飯間7(単独5)、大辞林2(単独1)、新明国2(単独1)、小野2(単独1)
- 2023:飯間8(単独7)、小野3(単独0)、大辞林2(単独0)、新明国1(単独0)
- 2022:飯間6(単独4)、大辞林6(単独1)、小野4(単独0)、新明国2(単独0)
- 2021:大辞林6(単独1)、飯間4(単独1)、小野4(単独1)、新明国3(単独1)
- 2020:飯間9(単独4)、小野3(単独0)、新明国3(単独0)、大辞林1(単独1)
後知恵と言われると反論はしにくいですが、飯間さんカラーの強すぎる年のラインナップは、トータルあんまり気に入ってないです。ラインナップつーか根拠不明の順位というノイズのせいかな。まあいろいろ。
♪私は決して飯間を(以下略)
三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語2025」紹介
ここで、便乗してやってる「シン・今年の新語2025」の選考結果を紹介しておきます。


「今年の新語」が今なお抱える3つの問題
- それもう載ってるやん問題
- 得票数ないがしろ問題
- 昔の新語問題
すべて克服し、精度の高い選考を実現しています。選評はこちら。
当記事で「シン・」と表記するのは、この、三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語」のことです。
完全レビュー:君は辞書を引かない
♪
君は辞書なんか引かないと思いながら
少しでも引く人に近づいてほしくて
辞書なんか引かないと思うけれども
引く人はこんな歌であんな歌で
また胸が痛いんだ
パート1:入選の10語
全32+2語のうち、三省堂の辞書に立項済みの語に、カエルの絵文字「🐸」を付けておきました。由来は「井の中の蛙」です。
大賞 ビジュ(小野、飯間)
「シン・」では第2位でした。いい言葉を選んだなと思います。だから言ってるのではありません。「シン・」が気づいてなかったビジュのよさに触れていたのがよかったです。
後日専門的な視点でのフォローもありました。
発表会での山本康一さんの「和語の『色』に似ている」話もよかったです。
山本さんは「選考会では良さがわからなかった」みたいなこともおっしゃっていましたが、2023年に大辞林編集部が「ビジュ」ノミネートしてます。
“第2位” オールドメディア(飯間)🐸
ダメです。2位と書くのも嫌なほどです。
理由は壇上で飯間さんと山本さんからお詫びがあったとおり、三現国7に立項済みのためです。したがって、三省堂の辞書を編む人が選んでよい「新語」ではありません。
実際、発表のその瞬間に「おい!載ってるぞ!」とパソコンの前で声が出てしまいました。
♪ 僕の心臓のBPMは190になったぞ ですね。まさに。
よって「今年の新語」非公式記録員(私のことです)は「オールドメディア」を失格とし、今年の新語2025の2位は「記録なし」となっております。
三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語」事務局がノミネート語を集約するとき最初に必ずやる「三省堂の辞書を引く」を、片や「今年の新語」では選考が終わるまでやっていなかったことに、まず驚きました。三省堂の辞書を編む人たちは、自分たちが編んだ辞書を引く暇もないほど、お忙しいのでしょうか。
♪
君が辞書なんか引かないこと 知ってるけど
レギュレーションに寄り添ってほしくて
謝罪を諒としても、問題は山積みですよね。
オールドメディアのことはいったん銀河の彼方までふっ飛ばして、続けます。
第3位 えっほえっほ(飯間、新明国)
シン・では選外部門にノミネートありましたが圏外となりました。
ミーム化したときに辞書に載ってないのを確認して、編む人たちがどう評価するのかなと思ってました。案外、重要視されるのですね。次の改訂版に本当に載せるのか、要注目です。
語釈の品詞が感動詞になっていたのも意外でした。実際に声を発してなくても成り立つので擬態語なのかなと思ってました。日本語の品詞分類って難しい。
第4位 しゃばい(小野、飯間)
シン・でもトップ10、選外の両部門にノミネートされましたが、どちらもスコアを得られず圏外となりました。
単純なリバイバルと見ていました。新たな意味が加わっている点はノーマークでした。
第5位 権力勾配(飯間)
ノーマークでした。
一字違いの「権威勾配」なら大辞林4に載ってました。無いものねだりとなりますが2つセットで成り立ちや関連性の言及がほしかったところです。
英語の「power gradient」「authority gradient」のネット用例も見比べてみたものの、両者の明確な違いを見いだせなかったので。
第6位 男消し(-)
あーそっちかぁという感想です。ジェンダーやセクシャリティの界隈は新語のホットスポットの1つですし、実際の投稿も確認できたので、入選自体は全然よいのですけれど。
でも選考委員の誰も推してないんですよね。選考プロセスどうなってんのとモヤります。
第7位 共連れ(小野、新明国)
「あー今年きたかー」となりました。自分は2026まで温めることにしてたので。
コトバンク収録分だと、「ともに連れだつこと」として精選版日本国語大辞典が13世紀の用例とともに載せてますし、セキュリティがらみでもデジタル大辞泉が立項済みです。
自身にはなじみあるありふれたワードでした。実際、年に1、2度訪れる某ツインビル某フロアのドアにも「共連れ禁止」と印刷して張ってあります。今年脚光を浴びて、あれ?案外みんな共連れ知らなかったのね、となりました。三省堂の辞書に未掲載だったのも意外でした。
共連れ外伝
調べてみると「共連れ」のちょっと面白い使い方として、薬価制度での用法がありました。自分の理解を書くと、よく売れた医薬品の薬価を類似品もろとも引き下げる謎ルールがあって、それが業界で「共連れルール」と通称され、忌み嫌われています。
「共連れ」への不服表明も、あえなく却下の現実|医薬経済オンライン(2025年9月15日号)
無料部分だけでもその片鱗がうかがえます。
ちょうど日米欧の製薬3団体が、「イノベーションを著しく阻害する」としてこの共連れルールの廃止を求める共同声明を出したばかりです。
日米欧製薬3団体共同声明:2026年度(令和8年度)薬価制度改革及び費用対効果評価制度改革に関する意見 | |日本製薬工業協会(2025/12/16付)
2026まで温めることにしたのはここらの行方を見てからとの目論見もありました。「今年の新語」選考プロセス並みの不透明さを感じる話ではあります。
第8位 体験格差(大辞林)
ノーマークでした。いい着眼点だと思います。
第9位 夏詣(飯間)
ほとんど初耳でした。「なにそれ?」とはならなかったので何度か見聞きはしたのでしょう。その程度の認知レベル。
一応確認してみると、語釈にあったとおり、2014年の浅草神社がスタートのようです。
ただしその前から用法自体はありました。以下は2010年の用例です。
特許情報プラットフォームで確認すると、浅草神社が「夏詣」の商標出願中でした(商願2025-13948)。2014年スタートにしては動き遅め。
第10位 緊急銃猟(大辞林)
「百科語だから10位」的な順位づけの安易さは感じますが、ベスト10入りは順当だと思います。制度的に「今年」なので。シン・では選考委員間で評価が真っぷたつに割れ第6位でした。
余談ですが、法制度の言葉としては、6月の改正刑法の施行で誕生した「拘禁刑」もマークしていました。しかし三現国7と大辞林4が公布の時点で既に立項していたため、やべーなこいつらと毒づきながらボツとなりました。こいつらって言ってごめん。
パート2:選外の3語
選外の3語です。
今これ(小野、飯間)
2票入ったのがサプライズでした。ネットの流行り言葉と見ていて新語扱いしてなかったので。
チャッピー(小野、大辞林)
シン・でも選外部門に入りました。これって元から選外狙い?と勘ぐってしまうノミネートではあります。本気でベスト10入りを狙ってたんですかね。どうなんでしょう。
取適法(-)
選考委員は誰も挙げていないので、誰の推薦?となりました。
会社としての三省堂にとって重要なトピックなんだろうなとは想像できます。
パート3:圏外の21語
最後に、圏外の21語です。まず2票を得た語2つから始め、その後選考委員順に並べそれぞれ寸評を加えます。
推し活(新明国、大辞林)
単年だと見過ごしてしまいますが、経年で見ると不審さが勝ってしまいます。というのも、両者が推し活を推すのはともに通算3度目だからです。新明国は2023年から3年連続、大辞林は2022、2024に続く3度目のノミネートです。
推し活教会や推し活連合のような団体から献金でも受けているのでしょうか。
古古古米(新明国、大辞林)
新語の要件を満たしてはいますけど、時事に寄りすぎてて「本当に国語辞典に載せたいんですか?」と問い質したくはなります。
「古古米」までは三国8、新明国8、大辞林4が立項済みです。あとは漸化式で書いときゃいいんじゃないですかね。
小野正弘(5語)
10語トータルで見て、いちばん面白かったです。過去6回分でもベストに思えます。「都市とSNSに暮らす人」ってプロファイルが見えます。
エアハンマー現象
知りませんでした。都市生活にはいろんなことがあるのですね。
がびがび
いいと思います。大辞林4に項目はあるものの、画像データに使う方の意味は載ってないので。
定期
Twitterでよく見るやつでしょうか。
新語と言えるのかなと思いつつ辞書の「定期」を引いてみると、確かにこの種の定期を説明しきれていない感じはありました。
むしろ一般人の「定期」感覚の方が語の本質を捉えていて、たとえば三現国7なら「きまっている期間(・時期)。」となっている国語辞典の語釈の方に改善の余地があるとの見方はできます。
ハンディファン
夏場よく見ました。
私事ですが、この種の文物については、マシンガンズの滝沢秀一さんがなんて言ってるのかが気になる体質となってしまいました。
メタい
メタな構造や発言を指していうやつですね。自分自身にはニーズのない言葉ですが、よいと思います。
飯間浩明(3語)
辛うじて一般投稿から選んだ感があるっちゃああります。本当のところは知りません。
中受
今どきはこう略すのですね。知りませんでした。フィールドワークが生きたノミネートって感じがします。
「就活」も同じですけど、略語が出てくるまでに年単位の時間を要するケースにはどういう力学が働いているのかなとの興味はあります。けれどもどう調べてよいか見当がつかずそのまま放置してます。
ネッククーラー
これも夏場にちょくちょく見ました。
大別すると、熱を吸収する何らかの物体を使うものと、ファンを使うものと2種類ありますけど、どちらもネッククーラーと呼ばれているのが面白いですね。新語の夜明けに立ち会っている臨場感があります。
夏場に屋内外で現場作業されてた方はみんな腰のあたりにファンの付いた作業服を着てたんで、そっちの方が効果あるんだろうなと思って見てます。
フレネミー 🐸
「友人のふりをする敵やライバル」なら、大辞林4に立項済みなのでダメです。
『新明解国語辞典』編集部(6語)
単独で圏外となったのは6語です。「今年の新語」に対する他人事感を醸しながら、1つ2つ光るものがあるのは例年同様でした。
エコシステム
ビジネス用語としての、わかったようなわからない使い方をとらえてでしょうか。シン・にもノミネートありました。
おじ
「おじ」単体で使い、「さん」や「さま」を付けずに他人である男性を指す用法は、確かに新しいですね。
「おぢ」表記にしないのは国語辞典の記法から逸脱するから?
クーリングシェルター
指定暑熱避難施設の名称です。
官製用語をちょいちょい入れてくる新明国編集部「らしさ」が出たノミネートです。
死に券
知りませんでした。いい着眼点だと思います。サイバーパンクみもあるし(個人の感想です)。
強火
オタクと共起しがちなやつですかね。比喩として通じるので、私は辞書に載ってなくても構わないです。
没入感
2024の「イマーシブ」に続き、近くからのノミネートでした。遭遇機会が増えている感は確かにあります。
『大辞林』編集部(5語)
ほかは百科事典寄りに広く薄くの独自路線なのは例年どおり。
アイススラリー
聞き覚えがある程度の認知でした。あらためて何ものか把握できました。
スフィア基準
知りませんでした。「ならでは」感があっていいんですけど、語自体の引きは弱いかなー。
相互関税
「相互」と「関税」で説明できる気もするので、時事に寄りぎみかなとの感想です。
ダークパターン 🐸
今年いつ頃でしたか、私もいいと思ったんですよね最初は。でも三現国7が既に立項してしっかり説明してあったんでダメだわーとなりました。一度引いてみてください。
トクリュウ
2年連続のノミネートでした。今後もうひと盛り上がりあれば入選でよいと思います。けれどもトクリュウが盛り上がるのって世の中的にどうなのというジレンマもあります。
シン・では2024の第5位に選出済みです。ついでに言うと「シン・今年の新語」は今後さらに匿名・流動型の性格を増していく計画もあります。
オールドメディアに表れた「今年の新語」問題総ざらい
さて、オールドメディアをめぐる諸問題です。
先述のとおり謝罪を諒としても山積みですので、なるべく簡潔な記述となるように努めます。
語釈
まず「今年の新語2025」ベスト10掲載の語釈からです。
〔けなした言い方として生まれ、二〇二〇年代に広まった〕
非公式に失格扱いした語の語釈を取り上げるのも変なんですが、私の知る限り、ここに異議を唱えているのが選考発表会での小野正弘さんだけなので触れておきます。
小野さんが疑問を呈されていたとおり、「生まれ、」は不正確です。削除して「けなした言い方として二〇二〇年代に広まった」ならOKです。訂正を求めます。
まず、そもそも「オールドメディア」という語自体が誕生したのは1980年代で、これは「#今年の新語2025」の選評にあるように〈1980年代、ケーブルテレビやファクシミリなどの「ニューメディア」が話題になった頃〉に既存メディアを指して使いました。歴史の長いことばです。(続く)
— 飯間浩明 (@IIMA_Hiroaki) December 8, 2025
この点に異議ありません。
国立国会図書館サーチ結果から、1980年代の雑誌記事見出しにあった「オールドメディア」の用例です。
- ニューメディアはオールドメディアをどこまで代替できるか 技術と経済 1985-06
- 私の提言 一六ミリフィルムはオールドメディアか 視聴覚教育 1986-02
- 各省局長に聞く――オールドメディアの活性化に意欲 月刊官界 1989-04
これらのオールドメディアってけなした言い方なんですかね?
記事本文までは未確認なんで確かめてみてください。
選考発表会での問題含み発言集
次に、選考発表会での発言から浮かび上がる問題です。敬称略でまいります。よろしければ皆様もご唱和ください。
山本「あまりに選考委員が白熱してしまったので事務局が止められなかったのかもしれないですが」
\権力勾配!/
飯間「差し替えるって方法もあったんですけれども、せっかくそこまで議論したんだから残しておこうよ、ということになったということをぜひご理解ください」
\サンクコスト効果!/
\コンコルドの誤謬!/
[補説]それまでに費やした資金や労力、時間を惜しんで事業を継続すると、損失が拡大するおそれがあることから、意思決定に際して、サンクコストは無視するのが合理的とされる。(デジタル大辞泉「サンクコスト」)
「謝罪で乗り切る」は適切か?
立ち戻ってみれば、この事態を「謝罪で乗り切る」が本当に適切だったのか?その疑問は依然として残っています。
私の知る範囲で「オールドメディア」の選出を「それダメだわ」「あかんやん」と多少なりとも批判的に取り上げたのは、次の動画とポッドキャストの2つだけです。
「今年の新語2025」の選考に対して「批判的視点を持つ」などというコストパフォーマンス極悪なことをやる既存のメディアは皆無でした。オールドメディアの「そういうとこ」をこぞって体現しており、大変趣深いものがありました。
とかゆうてる場合か、です。
今回露呈したのは、
- 「今年の新語」が自分たちが定めた品質基準すら守れないこと
- かつ、守るための仕組みも持っていなかったこと
ですよね。こういうたとえを使ってよいか迷いましたけど、「今年の新語」有事、存立危機事態じゃないですか。
手数で薄める手口を使うことにして、たとえを続けます。
これって、選挙管理委員会が立候補者の被選挙権を確認してなかったようなもんでしょ。まずくないですか?
「今年の新語」が国土交通省所管だったら重大インシデントとして運輸安全委員会が事故調査官を派遣しますよきっと。
考えてみてください。食品メーカーが製造過程で異物が混入した製品をそのまま出荷しますか? 出荷後に発覚したらどうしてますか?
「今年の新語2025」ベスト10ってはっきり変な味がするんですよね。健康被害はないから苦情もそのままですかそうですか。
消費者から「ポッキーが変な味がする」と指摘された江崎グリコは、どうしましたか? 健康被害はないからってそのままでしたか?
「異物混入」の逆パターンになりますけど、そういえば辞書の校了直前になって「あるべき語がない」と発覚した同業者もありましたね。辞書の名前はたしか、玄武書房の大渡海とかいってました。あの編集部の人たち、どうしてましたっけ?
という具合に、世にある数々の「じゃない方」のケースと比べてしまうと、私は穴のあいたまま船出した「今年の新語2025」には乗れません。
深刻なアーバン選考委員問題
2025の「今年の新語とは?」から引用します。
この2025年を代表する言葉(日本語)で、
今後の辞書に見出しとして採録されてもおかしくないものです。
2024年に「見出しとして」の一語が加わってから、こうなってます。
そこへ、辞書に見出しとして採録済みの、いわば人里にある言葉を持ってくるって、いったいどういう了見なんでしょうかね。
広大な日本語のフィールドにあって、まだ辞書が捕まえていない言葉たちこそが「今年の新語」のターゲットであり、それらを見いだし追いかけて狩猟採集してくることが「今年の新語」の基本理念だと私は理解してるんですが、違うんでしょうか。
ここでひとつの事実を示します。2020年以降の「今年の新語」が現行の辞書に見出しとして採録済みの言葉を選出したのは、これで4度目です。具体的に列挙します。カエルの絵文字も付けておきました。
- グランピング(2020)🐸
- メタバース(2022)🐸
- 人道回廊(2023)🐸
- オールドメディア(2025)🐸
完全に味を占めてしまってますよね。
このままでは、辞書という言葉の市街地に頻繁に出没するアーバン選考委員が今後も害をもたらすことは容易に想像できます。
人里にある言葉の味を覚えて市街地への出没をくり返すようになってしまったアーバン選考委員は、駆除せざるを得なくなります。それはお互いに不幸なことです。
これ以上の選考被害を食い止め、さらには「今年の新語」と人とが共生できる持続可能な社会を目指すためにも、多少痛い思いをさせてでも、選考委員たちを野に返さなければなりません。
最大の問題は、誰がその役目を果たすのかです。
今年の新語愛を伝えたいだとか
♪
“完璧な新語になんて惹かれない”と
君が笑ってたから悔しいや
腐るほどに話したいこと沢山あるのにな
寂しいさ
なぜ私がここまで未採録にこだわるかというと、「辞書に未採録」を今年の新語の要件として徹底しておく方が絶対に楽だと思うからです。なぜなら「昔の新語問題」が原理的に発生しなくなるから。
選考発表会に続く「国語辞典ナイト」の壇上で好例がありました。稲川智樹さんにえっほえっほが新語なのかと突っ込まれ、飯間さんはこう切り返していました。
飯間「辞書的には新語も新語ですよね。だって載ってなかったんだから」
「辞書を編む人が選ぶ」のですから、これでいいと思います。
反面、「今年の新語」ベスト10に既に辞書に載っている語が混入していると、この論理で対抗できなくなるのは、わかりますよね。実際、配信を視聴していて私はこう続けました。
でしたら、「オールドメディア」は新語じゃありませんね。だって三現国7に載ってるんだから。
ひとつ付言しておきますと、かつては私も今年の新語2020の「コロナ枠」に「それっておたくらが知らなんだだけとちゃいますのん?」的ないちゃもんをつけていました。けれども今は考えが変わり、載ってないなら新語でヨシ!となってます。
そして三省堂の辞書を引く人が選ぶ「シン・今年の新語」もまた、事務局内で数年にわたる議論を重ねた末、辞書の掲載有無のみを「新語」の基準とし、選考委員各自のバイブスを「今年」の主たる基準とする方向に収束しつつあります。
くり返します。「載ってない」を唯一の「新語」基準とする。これが辞書を引く人としての私の結論です。
異論は認めます。「今年」に一丁噛みしてわちゃわちゃしたい動機が強ければ、異なる結論に至ることも十分あるでしょうから。
あり得た「あいだ」の選択肢たち
最後に付け加えておくと、オールドメディアが混入した異物だと発覚してから取り得た選択肢は「謝罪で乗り切る」と「差し替える」両極の二択じゃなかったはずです。
その証拠として、私の妥協できる「あいだ」を2つ示します。
ひとつは既に述べました。今からでも自主回収して公式に「オールドメディア」を失格とすること。
ただ、「今年の新語」の選考結果を伝える既存オールドメディアのムーブからすると、この方策は内輪の論理が過ぎることが難点です。たとえて言えば、ポッキーの味の異変に気づかない人たちが世の中の圧倒的多数のようですから。
もうひとつは「強みは、議員立法」とし「議員立法にこだわり抜く」を政治姿勢に掲げる、とある政治家の発想に学ぶことです。
しかし、立法作業の過程では、幾度も現行憲法の制約による限界に直面しました。
主権者としては、だったらその立法作業とやらの根底がおかしいんじゃないの? と思うわけです。
辞書を引く人としてもまた、「拘禁刑」しかり、「ダークパターン」しかり、幾度も新語要件の制約にはね返されてきたわけです。
けれどもその方の発想は違います。※下線は引用者
新たな『日本国憲法』の制定を目指すとともに、これからも議員立法活動に力を尽くします。
主権者としては、ただただシンプルに、いかれぽんちの考え方ですね、と思うわけです。
しかし「今年の新語」は日本国憲法ではありません。辞書を引く人としては「載っていない」が今年の新語の最高法規だとは思ってますけどね。
2024から「見出しとして」の一語を加えて要件を緩和したように、現状を追認して遵守できるように改定すればよろしいんじゃないでしょうかね。
ということで、あらびきで一文を足し、今年の新語2026に掲げる文案を作ってみました。
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「今年の新語」とは?
この2026年を代表する言葉(日本語)で、
今後の辞書に見出しとして採録されてもおかしくないものです。
ただし、「急速に普及し、時代を画する重要なことば」については、採録済みのものでも選考委員「泣きの一語」として対象に含みます。
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いかがでしょうか?
「泣きの一語」じゃ収まりが悪いなら、名前は三省堂平和賞でもなんでもいいです。「今年の新語」の理論的背景まで理解の及ばないオールドメディア界隈も、そのまま右から左へ流してくれそうです。
この路線ならば、2025の選考発表会もスライドをあと2、3枚足して補えばいけたんじゃないですかね。そっちの世界線では「オールドメディア」が栄えある三省堂平和賞の第1号です。
今一度くり返しておきます。たとえ年1語きりでも、既に三省堂の辞書に載っている語を今後も「今年の新語」に混ぜてゆくのって、けっこうな茨の道だと思います。というのも、ちょうど2024大賞の「言語化」のときみたいに
それって「今年」?「新語」?
のツッコミに対抗するための根拠を毎度毎度探さなければいけなくなるんで。
一方、「載っていない」を要件として徹底させておけば、何を選んでも「だって載ってなかったんだから」で終わりです。
実際「オールドメディア」を筆頭に、いくつかの語がダメでしたけど、そこを除けば「今年の新語2025」には魅力的な言葉がたくさん集まったじゃありませんか。
それでもどの道を進むかは、It’s up to you ですけどね。
♪
結局のところ「今年の新語」はさ
どうしたいの?
まじで僕に愛される気あんの?
エピローグ:「今年の新語2025」と「オールドメディア」に捧げる歌
古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます。
どこに新しいものがございましょう。
生まれた土地は荒れ放題、今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか。
なんだかんだとお説教じみたことを申して参りましたが
そういう私も日陰育ちのひねくれ者、
お天道様に背中を向けて歩く 馬鹿な人間でございます。
おわり



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