シュン@ひろしまタイムラインの「朝鮮人」ツイートが騒ぎになって以来、日記の底本を含め、全部で20冊以上の資料を読みました。読んでいちばんしっくりきたのは、この図でした。
出典は、野坂祐子『トラウマインフォームドケア』(2019)p.99です。
この図に当てはめると
- シュン@の朝鮮人ツイートが、リマインダー(きっかけ)
- 差別扇動だ差別的だといった批判が、トラウマ反応(症状)
- そして一連の出来事には表れていない部分が、「トラウマ体験」
となります。
「朝鮮人」ツイートに強く反応したのは、そのツイートに傷ついた人ではなく、ツイートされる前から既に傷ついていた人たちだった。そうとらえ直すと、腑に落ちる感覚がありました。
トラウマや逆境の多くは本人が語らない(語れない)ため,周囲に気づかれにくい。(略)トラウマは,安心や安全の感覚を失わせるものであるため,トラウマを受けた人のこころのなかは不安や恐怖でいっぱいである。(p.4)
この点をふまえれば、批判サイドがまるで団子サッカーのごとく、朝鮮人記述に「全集中」していたのも得心がゆきます。
私にはある種不可解でもあった
- その時点で60日以上経過していた6月16日付の朝鮮人ツイートを同時に「発見」して騒いだことも、
- 反対に、同じ1945年8月20日付の「父が席を二人分占領」ツイートが、無関係な昭和14年秋のエピソードからの切り貼りであったにもかかわらず、その事実を私以外の誰ひとり指摘せず、私含め誰ひとり問題視しなかったことも、
しかし,いくら指導しても,背景にあるトラウマを理解しケアしなければ,その改善は見込めない。また,“困った人”と扱われる限り,トラウマによって傷ついた自尊心は回復しない。(p.4)
- そして、差別扇動を主張する2,3のアカウントとやりとりした際、見解の相違以前に、話がどこかかみ合わないままだったこともです。
たとえば上のような検証事実を示しても、ファクトベースの話にならなくて。
こうして「心のケガ人」たちを中心に起こった騒ぎに、各メディアが乗っかる構図となりました。この座組みは、2020年末に当の「1945ひろしまタイムライン」のTwitterアカウントおよび大部分のWebコンテンツが削除され、2021年年始にかけてリアルタイムでの関心を失っていた層が戻ってきてひと騒ぎするまで続きました。
メディアにとっては煽った方が商売になるからトラウマケアの側面をなおざりにしたのか、あるいはナチュラルに分別がつかないのか、そこはわかりません。
批判側も企画運営側も、上記の「トラウマの三角形」の「つながりが理解できず,うまく対処できていない」結果、事態は紛糾し、新たなトラウマを生むという実に不幸な結末に終わった感が強くあります。ひろしまタイムラインの結末を煽り気味に表現するならば、アカウントとコンテンツの自殺ですので。
ひろしまタイムラインの教訓―「トラウマメガネ」のすすめ
「ひろしまタイムライン」のツイート炎上事案から、私は次のような知見を得ました。
- 「差別扇動」の判定精度が低い人は、心のケガ人である確率が高い
何かを「差別扇動」とする言説、少なくとも私にはそれを差別扇動とする理路の理解が困難な言説に出会ったら、その発信当事者が心に傷を負った「心のケガ人」である可能性を念頭に置いて接する必要がありそうです。
TIC(引用者注:Trauma-Informed Careの頭文字)とは,行動の背景にある“見えていないこと”を,トラウマの「メガネ」で“見える化”するものであり,支援における基本的な態度や考え方である。トラウマの治療や心理療法ではなく,誰もがトラウマの理解に基づいて対応できるようになることが目指される。(pp.4-5)
「どうしてそんなことをしたの!」ではなく,「何が起きているの?」と尋ねる姿勢が求められる。“問題行動”と決めつけるのではなく,その言動の背景に関心を向けることで,トラウマが明らかになり,現在の状態とのつながりが見えてくる。(p.26)
とする野坂さんの『トラウマインフォームドケア』も好著でしたが、青木省三『ぼくらの中の「トラウマ」』(2020)の記述がより平易でいい感じでした。
急にパニックになったり、怒り出したりする人に、トラウマがあるとわかれば、その人の苦しみや言動の変化の原因が理解できる。そうすると、不要な誤解や衝突を避けることができる。周囲の人が、気づき、わかることが何よりも大切なのだ。(第7章)
支援は、その人を変えるためのものではなく、その人がその人らしく生きることを支えるものである。自分の価値観や考え方を押し付け、その人を変えるものではない。(第7章)
入門の一冊に推せます。
ですので今後、精度の低い「差別扇動」論には「それ、どういう意味で使ってますか?」ってところからケアを始めるつもりです。そんな予定ないけど。
そんなところです。
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