「当分の間」とは、法的には最長65年前後。しかも当分の間延びてゆく見込み。

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こんにちは。用件はタイトルのとおりです。

法令の条文で、「当分の間」ってどのぐらいの期間まで使われているのだろうか。疑問になって調べました。

「当分」の辞書的定義

国語辞典での「当分」の説明をいくつか紹介します。

(3)近い将来まで、しばらくの間。さしあたり。 (広辞苑)

(副詞的にも用いる)現在のところ。ここしばらく。さしあたり。 (goo辞書:デジタル大辞泉)

「当分」とは、あくまで一時的な、temporary な期間を指す語であることがうかがえます。

調査方法

総務省の運営するサイト「e-Gov」で、法令検索が行えます。そこで「当分の間」という用語を検索し、次の2点を探りました。

  • いつ頃から生きた条文として使われ続けているか
  • どのような文脈で使われているか

おことわり

  • 記事内の法令名へのリンクは、特に断りのない限り、law.e-gov.go.jp へのものです。
  • 年代表記は西暦ベースにします。一部で和暦を併記します

「当分の間」の用例(1)省令から

先に、「どのような文脈で使われているか」を述べます。

省令レベルでいちばん目立つ「当分の間」の用例は、次のような「事務手続きに係る経過措置」的なものです。

どれも似たり寄ったりですが、例として「国土交通省・厚生労働省関係高齢者の居住の安定確保に関する法律施行規則」(厚生労働省・国土交通省令(2011))の2012年改正時の附則を引用します。(下線引用者。以下同じ)

(経過措置)
2 この省令の施行の際現にあるこの省令による改正前の国土交通省・厚生労働省関係高齢者の居住の安定確保に関する法律施行規則の様式による用紙については、当分の間、これを取り繕って使用することができる。

趣旨としては、改正法上の所定の要件を満たせば、古い様式でもオッケーということですね。

同規則で定める様式の第一号が「サービス付き高齢者向け住宅事業の登録申請書」なんですが、申請時の「様式が古い」を理由に、申請そのものが法的に無効とならないようにするための一文だと理解しています。

具体内容の深い部分はおいといて、「当分の間」の使い方としては非常に合点のいくものです。

「当分の間」の用例(2)法律から

e-Gov の法令検索を利用して、「当分の間」の最古の用例を探します。

先に結論を言うと、「最古」の特定まではできませんでした。ほとんどの法律は制定後に改正されており、調査方法では改正の時期がいつかまで見極めるのが困難だったためです。

公布年で最も古かったのは、1898(明治31)年の「外国法人の登記及び夫婦財産契約の登記に関する法律」でした。しかし「当分の間」は、本文ではなく1949年の改正附則に登場しています。

あるいは、「恩給法」(1923)の附則第10条・11条は、1947年の改正時の条文でした。

最古の用例の特定はできないまでも、第2次世界大戦の敗戦後数年間の占領下の時期に、法令の条文に「当分の間」が使われる状況がととのったと言えそうです。

65年ばかり続く「当分の間」の例

1947(昭和22)年に法令に規定され、今も有効とみられる「当分の間」の用例を、いくつか紹介します。

検察庁法(1947)附則

第三十六条
法務大臣は、当分の間、検察官が足りないため必要と認めるときは、区検察庁の検察事務官にその庁の検察官の事務を取り扱わせることができる。

ざっくり言えば、日本国憲法と同等の来歴

同じ附則で「この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。」(第33条)と定められています。

ざっくりな理解としては、法令における「当分の間」は、現行の日本国憲法と同じぐらいの由緒があるとしておいてよさそうです。

理容師法(1947)附則

第二十条
旧中等学校令(昭和十八年勅令第三十六号)による中等学校を卒業した者又は厚生労働省令で定めるところによりこれと同等以上の学力があると認められる者は、当分の間、第三条第三項の規定の適用については、学校教育法第九十条の規定する者とみなす。

栄養士法(1947)附則

第十二条
中等学校令による中等学校を卒業し、又はこれと同等以上の学力を有すると文部科学大臣が認めた者は、第二条第二項の規定にかかわらず、当分の間同条第一項に規定する栄養士の養成施設に入所することができる。

「中等学校令」というのは、戦時下の1943年に制定され、47年の学校教育法の施行により廃止された勅令のことです。(参考:文部科学省「学制百年史」、Wikipedia「中等学校令」 )

現時点でこの規定に該当しそうな人といえば、年齢を低く見積もって80歳ぐらいです。そういう人がこれから理容師や栄養士を目指すケースは事実上ゼロでしょうけれども、可能性がゼロにならない限り(あるいはゼロになっても)、条文として生き続けるのでしょうね。

法令の本文に登場する「当分の間」の例

ここまで紹介してきた「当分の間」の用例は、いずれも附則に記されたものでした。

本文に「当分の間」が登場する法令のうち、公布年が最も古いものは、附則の例よりも1年下って、1948(昭和23)年のものです。

該当する法律を紹介します。3つあります。

ただし制定当初からではなく、後の改正によって加えられた可能性のある例も含みます。(もしあれば、ご指摘いただけると幸いです)

当せん金付き証票法(1948)

(この法律の目的)
第一条
この法律は、経済の現状に即応して、当分の間、当せん金付証票の発売により、浮動購買力を吸収し、もつて地方財政資金の調達に資することを目的とする。

「当せん金付き証票」というのは、日常語でいうところの「宝くじ」のことです。

罰金等臨時措置法(1948)

第一条
経済事情の変動に伴う罰金及び科料の額等に関する特例は、当分の間、この法律の定めるところによる。

道路の修繕に関する法律(1948)

第一条
国は、当分の間、地方公共団体に対し、道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)に規定する道路をいい、一般国道を除く。以下同じ。)の修繕に要する費用の一部を補助することができる。

どの法律の例でも、「当分の間」そういうことにしておくと謳ってから、だいたい65年ほど経っています。

予言:「当分の間」は、当分の間続く

上の例で挙げたような、最長で65年ばかり有効な「当分の間」の用例は、法令の条文内でこれからいつまで生き続けるのでしょうか。

予言しましょう。それこそ、当分の間続きます。改正する理由が見当たらないからです。

兼好法師の『徒然草』にもこうあります。

改めて益なき事は、改めぬをよしとするなり。(第百二十七段)

人類史、さらには宇宙史に比べれば、65年なんて指を弾く時間に等しい、ほんの刹那です。

余談:「当分の間」だったら、解散しなくてよかったかも

余談です。

1年ほど前のことですが、当時の野田首相が、衆議院の解散を「近いうち」と約束したとかで、何か月か経って「近いうち」の約束が違うだの違わないだのといって話題になっていました。

野田さんも「近いうち」なんて言わずに、「当分の間しないが、しかる後に解散する」とでも言っておけば、65年ぐらいは解散しなくても大丈夫だったのになーと、ふと思いました。

ほんの1年経つか経たないかなのに、すっかり旧聞に属する話です。

ご静聴ありがとうございました。

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