永井一正さん、ついに例の盗作問題に言及―エンブレム問題の「パクリ元」(2)

こんにちは。デザイン芸人、自称「週刊ひとり新潮」です。

五輪エンブレム選考委員の代表を務めた永井一正さんが、例の盗作問題について長い沈黙を破り、とあるメディアに寄稿していました。なのに掲載メディアがマイナーすぎて誰も読んでいないからでしょうか、ネットでの言及は皆無です。

あまりにもったいないので、紹介がてら記事にしておきます。

と、わざと紛らわしく書いてみました。ひとつ前の記事:発見!「五輪エンブレム問題」のパクリ元(1)昭和41年の「ガン切手盗作問題」(2015/10/29)のつづきです。

要約:Executive Summary

永井一正さんの寄稿文が、朝日新聞の夕刊に掲載されていました。

タイトルは「デザインの創造と盗作/作る過程における思想の問題」。

終始落ち着いた筆致ながら、相次ぐ問題に業腹を煮やしたかのような文章でした。

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【永井一正。’13】 ※画像は、1964年東京オリンピックと現在|東京デザインフォーラム より

時は昭和42年、

昨年十月に東京で開かれた「第九回国際ガン会議」を記念した「がん征圧切手」のデザインを一般公募し、その第一席・第二席ともに盗作問題がおこり、ジャーナリズムをにぎわしてから約一年、またグラフィックデザインや写真の盗作問題がさわがれはじめた。(本文より)

ころのお話です。

解題:「デザインの創造と盗作」(永井一正, 1967)

38歳のアート・ディレクター永井一正さんが朝日新聞に寄せた文章:

デザインの創造と盗作/作る過程における思想の問題(1967/09/13 夕刊)

での分析は、たいへん的確なものでした。

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【永井一正。’67】

校閲の記者がつけたのだと思いますが、記事の小見出しはこうです。

  • 表面だけではいえぬ
  • 自分の世界の構築
  • 本来は集団的な制作

すべて賛同できます。そのとおりです。

最も重要と思った一文はこちら:

要は、その作家の創作過程における思想の問題に還元される。

賛成です。根本的にはそこです。そこに「思想」があるかの問題です。

という具合に、永井さんによる寄稿記事からより本質に迫っているくだりを抜き出し、感想その他を付け加えながら進めます。

以下、テキストの引用はすべて前記の新聞記事からです。下線は引用者のものです。

表面だけではいえぬ

盗作問題が続発している事態を、永井さんはこう分析していました。

これは何も急に盗作が多くなるわけではなく、一般の好奇心がそこに集中されるため、少しでも似ているものを見つけると投書などの方法でどんどん摘発されるからだ。

ですね。的確です。

本当の意味の盗作を摘発することは、社会的に意義のあることであり、どんなに追求しても、しすぎることはない。

としつつの、

しかし、私が「本当の意味の」というのには、デザインにおける盗作が、ただ表面だけを見て早急に判断することがむつかしいという意味を含んでいる。

という話も、大いに賛同します。早急な判断は困難です。

「盗作疑惑」の3分類

永井さんは、

どうもこんどの問題も含めて、表面的に他の作品に似ていれば十ぱひとからげで、何でも盗作だときめつける傾向があるように思うが、よく考えれば、いくつかのケースに分けられるように思う。

として、次の3つの場合に分類されています。当方で名前を付けました。

  1. 【盗作】 他人の創作による作品を意識的に模倣して自分の作品として発表する場合
  2. 【偶然の一致】 結果的に二つの作品が酷似しているが、創作過程においては全く知らず偶然の一致であった場合
  3. 【自作の構成素材に使用】 作品を構成する素材として既成の作品を使用する場合

つづいて永井さんは、これら3つを次のように詳述されていました。

1.盗作

上の定義から

一番盗作としてはっきりし、弁解の余地がない

昨年の切手の場合のチャールズ・ゴスリン氏の顕微鏡のイラストレーションを模倣した第一席などは、この中にはいる。

としています。

※「入選のガン切手は盗作か/米人図案とそっくり/郵政省あわてる」(読売新聞・1966/07/11 朝刊)より

永井さんも「アウト」判定です。

2.偶然の一致

【永井一正。’67】は

イラストレーションや複雑なレイアウトをあつかったデザインなどの場合は、ほとんど起りえないと思われるが、定規やコンパスを使って創造してゆく幾何学的な構成の場合には時に起り得るケースである。

としたうえで、

とくにトレードマークのような単純な構成になれば、似る割合も高くなる

との認識を示しています。

そういえばつい最近も、【永井一正。’15】から同じ話を聞いたばかりのような気がいたします。

この場合は当然のことであるが、作家に罪はなく意匠権や商標権という手続き上の問題となり、その解釈は法律にゆだねられる。

付け加えると、外部からはその作者が「類似した別作品の存在を知らなかった」というのを容易に判定できないことが、さらなる問題点です。

3.自作の構成素材に使用

前項を含めて、検討が難しいのは

その意識や解釈によって異り、大変複雑な様相を呈する

というケースです。それでも、論点がよく整理されていました。

盗作との違い

違いは、どうやらこのあたりにありそうです。

作者が(略)自分の世界を構築しているわけで、一概に盗作とは言えないと思う。

その結果がどれだけ作者のものになっているか、いいかえれば、原作と別のものになっているかという点にかかってくる

「別のもの」とは

その部分がまったくそっくりに似せていても、作品全体として訴えるその主張が質的に異る次元にあるということを意味する

ともかく、この議論は1967年の段階で既に結論が出ている感があります。

本来は集団的な制作

デザインは元来集団的な制作により完成するものである。

というのが、永井一正さんのデザイン観です。

これは分業という意味と同時に現代の企業や技術などとのかかわりあいを密接にもっているということでもある。

活字や印刷のための色見本帳の使用などを含めてデザイン製造が、広義の意味の選択に立脚している以上、その本質を見きわめて、より前進的な方向性からデザインの素材を解釈しなければならないと思う。

「デザインは共同作業」(永井一正, 1976)

後年の著書でも、永井さんはこのように述べています。

デザイン全般に言えることであるが、デザインと絵画の違いの一つは、デザインが自分一人で完結し得ないことである。多くの人々との共同作業によって最終的に出来上がるのが原則である。

出典:『永井一正のポスター』(1976, 増補新版1995)p.14

おまけ:永井一正さんの《すばらしい日々》

ここでひとつの疑問が起こります。

既に半世紀近く前、1967年の時点で十分な完成度の議論を提示し、

デザイナーのモラルを問われるような盗用は、完全に姿を消して欲しいものである。

と寄稿を締めくくっていた永井一正さんなのに、なぜ、2015年のエンブレム会見での説明が一般国民にほとんど伝わらなかったのか? そういう疑問です。どうにも解せません。

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【永井一正。’15】 ※(全録)五輪エンブレム問題 組織委が会見し原案公開|FNNsline(2015/08/28付)より

こんな仮説をでっちあげました。名付けて《すばらしい日々》仮説です。

「すばらしい日々」仮説とは

要するに、

いつの間にか僕らも永井も 若いつもりが年をとった

ユニコーン《すばらしい日々》(1993)(詞・曲:奥田民生)

という話です。

カバー盤ですが、該当のくだりが入っているプレビューをどうぞ。

すばらしい日々
Shaking "FUNKY" Machine
¥200

よろしければ、続く

暗い話にばかり やたらくわしくなったもんだ

までご唱和ください。

《すばらしい日々》的盗作判定ライン

さて、ここから私なりに考えてみると、盗作問題もわりと簡単に整理できました。

《すばらしい日々》演奏でいえば、

<アウト>

  • 「自作曲」として発表 → 盗作
  • 勝手に音源を販売 → 著作権侵害

<セーフ>

  • 許諾を得て自前の音源を販売 → カバー
  • よくできたカバー → もはやオリジナル

ということです。

《すばらしい日々》参考音源

こちらがオリジナルです。

すばらしい日々(1993)
ユニコーン
¥250

矢野顕子盤は、最終段階の「よくできたカバー」です。

すばらしい日々 [WONDERFUL DAYS](1994)
矢野顕子
¥250

近年の録音盤です。さらに進化しています。

すばらしい日々(2012)
矢野顕子
¥250

これらを、【永井一正。’67】が提示していた

その結果がどれだけ作者のものになっているか、いいかえれば、原作と別のものになっているか

という観点に照らせば、もはや完全にオリジナルです。

裏仮説:「永井=ジェダイ」説

別の「裏仮説」です。あるいはフォースの使いみちを誤り、「ダークサイドに堕ちた」というやつなんでしょうか。

そんな思いつきから、「スター・ウォーズ」シリーズになぞらえてエンブレム問題を語れる気がしてきました。

ジェダイならぬ「ナガイの復讐」からの「帰還」みたいな。

おわり

帝国のマーチ (ダース・ベイダーのテーマ)(2005)
栗コーダーカルテット
¥150

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