日本語における接頭辞「お」の使用基準とは「その相手と付き合えるか」である説

皆さま、いかがお過ごしでしょうか。

今日は「お」研究家の清荒神(キヨシ コウジン)先生をお招きし、「お」のお説をおうかがいします。

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それでは清先生およろしくお願いいたします。

現代日本語での接頭辞「お」の使用基準について(2014)

清荒神です。

字数にして5000字ばかり話が続きますので、結論から先に述べます。

結論

現代の日本語において、「お」が使える対象ボキャブラリーを振り分ける基準とは、

  • もし告られたら、その相手(=語句)と付き合えるか?

です。

説明

基準をクリアした付き合っていい相手には、「お」付き合い対象として「お」が使えます。

「面」と向かって告白されればもちろんのこと、「手紙」や「電話」でもオッケーです。

一方で、「メール」や「掲示板」「チャット」、「Twitter」や「LINE」などが告ってきた場合は「ごめん無理」となります。

むろん、実際に付き合うかは別問題です。詳しくは後述しますが、判断基準の世界は恋愛禁止が建て前なので。

以下に順を追って述べていきます。

「お」は2段階認証方式

まず押さえておきたいのは、日本語で「お」を使うまでには、2段階の認証が必要だということです。

具体的には、語句ごとに次の2段階で審査されます。

  1. 「使える」か「使えない」か
  2. 「使う」か「使わない」か

まず第1段階で「お」を使えると認証されます。

そして第1段階の認証が成功し「お」が使えるとなったものについて、日本語話者がそれぞれで「使う」「使わない」を判断しています。これが第2段階の認証行為となります。

そんな「2段階認証方式」になっています。

「使うか」の判断基準の例

くり返しますと、「使う」か「使わない」かは、第2段階での認証における問題です。

たとえば次の画像は、NHKが1951年に指針として出した《「お」を付けてよいものと付けずに済ましうるもの》の一覧です。

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出典:放送で使われる敬語と視聴者の意識 平成20年度「ことばのゆれ」全国調査から(PDF)(田中浩史/山下洋子, 2009)|NHK放送文化研究所「放送研究と調査(月報)」2009年6月号掲載

詳しくは出典の方をご参照くださいませ。

これは、放送で「お」をどの範囲で使うのが適切か?という、第2段階の話ですね。

表のなかに出てくる言葉は、すべて第1段階の「使える」認証を通過したものです。明示はされていませんが、それが前提です。

学習中の外国人は1段階認証

日本語の学習途上である外国人の場合、認証が後者の1つしかありません。1段階目をすっとばし、第2段階の「使う」認証だけをします。

その結果、たとえば「おメールありがとうございました」のように、使えないところに「お」を使うこととなります。

日本語ネイティブの側から言えば、彼らは共有されるべき第1の認証結果を無視していきなり第2段階の認証から始め、自分だけの基準を頼りにしてしまっています。

「おメール問題」から考える

この「おメール」をめぐる問題を検討します。

「おメール」と書いてきた外国人に対し「それは変だよ」と教えようとして、日本語ネイティブははたと困ることになります。

「“メール”は外来語だから」と言いかけて、次のような反例に思い至るからです。

  • タバコ
  • ビール
  • ソース
  • トイレ
    etc.

どれも外来語ですが、全部「お」が使えます。

「自分は使わない」というのは別問題です。これらに「お」を使うケースも容認されています。

「例外」扱いの安易さ

困った日本語話者は、この事態を「例外」と扱います。

しかし、簡単にそう言ってしまっていいのでしょうか? 非常に疑問です。

そもそもの話、理論が現実に合っていないときにおかしいのは、現実ではなく理論の側であるはずです。そこを「例外」と安易に処理してしまうのは怠慢でしょう。

中には「タバコは外来語としない」としていた事例まで実在しました。そんな具合に恣意的に運用を変えるものは、もはや理論でもルールでもありません。

これが研究の出発点

「お」に「メール」を続けて「おメール」と言わないのは、メールが外来語だからではなく、何か本当の理由が別にあるのではないか?

そう考えなければいけませんし、そこが研究の出発点でもありました。

小まとめ

つまり《「おメール」と言わないのは、メールが外来語だから》という説明は、どこかがおかしいのです。この世界に起こる現象を、正確には記述しきれていないことになります。

理論の手直しが必要です。

再確認事項として

本論に入る前に、次の2つをおさらいしておきましょう。

1)日本語ボキャブラリーの成り立ち

日本語のボキャブラリーは、おおむねこのようにできています。

日本語ボキャブラリーの「デコレーションケーキモデル」

詳しくは、出所の「日本語ボキャブラリーの成り立ちを「デコレーションシフォンケーキ」で説明してみる」 (2014/05/27)をご参照ください。

2)「お」の使用傾向

先ほどの一覧表の出典でもある「放送で使われる敬語と視聴者の意識 平成20年度「ことばのゆれ」全国調査から(PDF)」で、「放送用語論」(1975)での「美化語の選別基準」が紹介されています。なお当該の文書内では「お」を「美化語」と呼んでいます。

美化語「お」が付きやすいものとしては

  • 食事
  • 体の働き
  • 心の動き、感情

に関する語句であり、

反対に、「お」が付きにくいものでは

  • 「お」で始まる語
  • 長い語
  • 色、自然に関する語
  • 悪感情の語
  • 女性の日常生活であまり使わない語
  • 外来語

といったものが列挙されています。

これらをふまえて、次へ進みます。

「お」が「使える」「使えない」の決まり方

では、日本語世界のなかで、ある語句に「お」が「使える」かどうかはどのような仕組みで決まっているのでしょうか。

その流れを端的に表す絵として、こちらが適しているように思います。

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からの

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です。

<図>ある語句に対し接頭辞「お」が「使える」か? の決まり方(イメージ)

※画像は、【MV】恋するフォーチュンクッキー / AKB48[公式]|YouTube(2013/10/30付)より

「お」が使える語句の決定システム

日本語話者の総意として、接頭辞「お」が使える語句の判断(=名詞なり用言の活用形なりに「お」が使えるかどうか)は、次のような仕組みで決まっています。

決定主体

検討のうえ決定を出すのは、やまとなでしこ日本代表たち、やまとなでしこJAPANです。

以後、「やましこジャパン」と表記します。

最終決定者はセンター

最終決定者は、そのセンターにいる「やましこ」です。

やましこが、最終的にその語句に「お」が使えると判断する役割を担います。

センター「やましこ」プロフィール

やましこが日本列島に住み始めたのは、旧石器時代のことです。以来、1万年単位で日本語を使い続けている存在です。

実は非実在

種明かしすると、やましこは実在しません。非実在のキャラクターです。

抽象イメージが苦手な場合は、「さしこ」指原莉乃さんでも思い浮かべておけばいいと思います。

日本的意思決定システム

「お」が使えるかどうかは、やましこジャパンのセンターとして、やましこが最終的に判断しています。

といっても、すべて独断で決めているわけではありません。判定にあたり「マジありえない」とか周りのメンバーに言われないかだとか、そういったところも大事にします。

空気感とか話し合いとかに相対的に高い価値を置く決定システムとなっています。

男は?

なお一連の検討と決定の過程に、男は介在しません。基本的に不在です。運営として影響を与えているごく一部を除き、彼女らの定めた基準に従って周りで踊るだけです。

先取りして言っておくと、実はやましこジャパンにとって、「男」は生理的に受け付けないゾーンにいる存在なのです。

やましこの「お」判断基準

冒頭で結論を述べたとおり、ある語句に「お」を使えるかどうかは、

もし告られたら、その相手(語句)と付き合えるか?

を基準に、やましこジャパンのセンターやましこが判断しています。

付き合える相手には「お」を使います。

「付き合える」の条件

付き合えるか?を決める条件は、こちらの2つです。

  1. その相手にときめくか
  2. その相手を「自分」と一体化できるか

後者は、「自分」が属するエリアにまで受け入れられるか、と言い換えてもよいかと思います。

ゾーンはかなり広い

やましこが「お」として付き合えるゾーンは、一般の日本語話者より、かなり広いです。

一般人はやましこが「使える」と判断したものを対象に「お」を付けたり付けなかったりして使用しているのですから、当然の話ですが。

やましこの返事のパターン

名詞なり体言化された用言の活用形なりが、もしも「お」付き合いしてくださいと告白してきた場合、やましこの返事をイエスノーで大別すると

  1. 「オッケー」
  2. 「ごめん。ちょっと無理」

の2つです。

「オッケー」の場合、お友達からお付き合いが始まります(正確には、その資格が得られます)。

一方で、ときめかない相手、ときめいても「自分」と一体視しづらい相手には「ちょっと無理」と答えます。

「ムリ」の真意を細分化する

やましこは「ちょっと無理」としか答えませんが、その意味するところはもう少し細分化できます。

おおむね次のように分かれます。

  1. (尊敬できるけど)付き合うとかそんなんじゃないし
  2. まだよく知らないし
  3. あまりわかんないし
  4. というか「自分」じゃないし
  5. ときめかないし、生理的にマジ無理

上から下に行くにつれて、「無理」の理由がだんだん強くなります。逆に言えば、上の方の理由であれば、今後「お」の対象として付き合える可能性を残しています。

サンプルで確認

ここでサンプルを用いて、やましこの返事がどうなるかを振り分けてみることにします。

サンプルに使用するのは、AKB48《恋するフォーチュンクッキー》(詞:秋元康, 2013)の歌詞テキストです。

テキストはJ-lyric.netのものを参照しました。

なお一部の語句については、検討対象とするために複合語を分断したり語尾を変更したりなどして手を加えております。

「ムリ」の理由を振り分けてみると

先に「ちょっと無理」の方から、細分化した理由別にリスト化してみます。センターやましこに成り代わって振り分けてみました。

実例とともに、「お」の使用基準が概観できるかと存じます。

この語句に「お」はちょっと無理:理由別リスト

《恋するフォーチュンクッキー》の歌詞に登場する語句のうち、次のものに接頭辞の「お」は使えません。

(尊敬できるけど)付き合うとかそんなんじゃないし

興味 失恋 準備 地味 未来 予感 自分 自信 想像 性格 人気 投票

◆ご友人またはご同輩としてのご交際は可

このタイプの相手は「ご」の対象です。友人または同輩として交際します。

「お」の場合と同じく、このカテゴリーに属する語句を、一般人が各自で「ご」を付けるかどうかを判断したうえで使います。これが第2段階の「ご」認証となります。

なおここに属するものは、ほぼすべてが漢語です。

まだよく知らないし

あなた カフェテリア ミュージック リズム ベイビー 愛 フォーチュンクッキー ハート 運勢 リアクション ルックス アドヴァンテージ

◆主な要因は、新しすぎるから

見てのとおり、このカテゴリーに属する多くは外来語です。やましこは1万年以上にわたって日本語を使っており、これらと知り合って間もないため、まだ相手のことをよく知りません。

あまりわかんないし

間(ま) 恋 人生 笑顔 奇跡 ネガティブ

というか「自分」じゃないし

こと 今 占い ツキ どこか いつ 神様 世界 明日(あした)

ときめかないし生理的にマジ無理だから

私 大勢 男の子

◆やましこは「男の子」が嫌い

やましこには、「お」で始まる語を基本的に受け付けないという妙なこだわりがあります。

「男の子」、付き合ってあげてもいいのでは?と無責任に思うのですが、なぜかセンターやましこの回答は「お付き合いなんて生理的にマジ無理」です。

「男の子」は、やましこジャパンが生理的に受け付けない地獄のゾーンにいます。

「オッケー」リスト

以下は、もし告ってきたら付き合ってもいいと、やましこが考えている語句の一覧です。

実は、オッケーして「お」付き合い資格が得られるケースも、細かく見ると次の2つに分かれます。

タイプ1:1対1のサシで付き合える

好き 可愛い 花 つま先 動き 気持ち 悪くない 殻 先 出来事 風 涙

タイプ2:お連れ(他の語句)と一緒なら付き合える。1対1のサシは勘弁

コ(子) まわり ぼんやり 知らぬ 神 悲しい

補注

サシでの「お」付き合いだと、使いづらいか、意味が変わってしまうものです。

念のため

もちろんどれも、実際に付き合うわけではありません。表面上は恋愛禁止なので。

だいたいそんなことになっています。

結びにかえて:「ムリ」の今後を占う

現代日本語において目下「お」を使わない語句、すなわち、やましこジャパンのセンターにいま告っても「ごめん。ちょっと無理」と返事される語句も、今後の展開については次の2パターンに大別できます。

  • アタックを続けていけば、オッケーが出る望みがあるもの
  • 生理的にマジ無理なため、ほぼ絶望のもの

たとえば「電話」は、センターやましこが知り合ったのはごく最近であるにもかかわらず、既にお付き合いできるポジションにいます。こまめな接触が功を奏したようです。

このあたりをふまえ、いずれ、やましこの攻略法も考えてみたいと思います。

あとがき

敬語のことはいったん忘れて進めた結果、だいたいの全貌がつかめた感触がします。

本日は「お」研究家・清荒神先生のお話をおうかがいしました。

それでは皆さま、このおあともお素敵なおライフをお過ごしくださいませ。

ごきげんよう。または、おきげんよう。

※清荒神先生も愛用:阪急電車 ja.wikipedia.org

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