脱「人口ピラミッド」論

こんにちは。

要約:Executive Summary

日本の「人口ピラミッド」は、今やまったくピラミッドでありません。

ピラミッド型が人口ピラミッドの理想型でもありません。

なのに、ピラミッドが「崩れている」といったもの言いをする人がいます。勘違いしていないでしょうか。

ピラミッドという言葉に幽閉されてはいけません。人口「ピラミッド」から脱却し、自由にならなくてはならないと心得ましょう。

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パート1.現状確認

まずこれらをふまえておきます。

1)日本の人口ピラミッドの形(2010)

日本の「人口ピラミッド」は、今やまったくピラミッドでありません。2010年の人口ピラミッドで確認しておきましょう。

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出所:国立社会保障・人口問題研究所

かなりの風化ぶりです。ピラミッドというより、マンゴーフラッペです。

2)教科書での(ちょっと苦しい)説明

日本語コーパス少納言で見つけた用例です。

いまどきの中高生向けの教科書では、人口ピラミッドの形状についてこう説明していることを知りました。

5歳ごとの人口構成を男女別に表すと,人口ピラミッドが作成できます。国別の人口ピラミッドは大きく富士山型,つりがね型,つぼ型の三つの型に分類できます。

『新しい社会 地理』(東京書籍, 2005)※中学校向け

人口ピラミッドの形は,出生率と死亡率が低下するにしたがい富士山型から釣鐘型へ,さらにつぼ型へと変化する。

『高等学校 新地理A 最新版』(帝国書院, 2006)

こんな説明になっているんですね。人口「ピラミッド」言うといて「富士山型」て。なんやそれ。

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ちょっと苦しいです。

3)「人口転換」

歴史的に見た日本の人口と家族」(PDF)(縄田康光, 2006)によれば、明治以降の日本の人口変動は、3つの時代に大別できます。

  1. 明治中期から1920年代にかけての高出生率・高死亡率の「多産多死」の時代
  2. 1920年代から戦中を挟み1960年代までの「多産多死」から「少産少死」への「第一次人口転換」の時代
  3. 1970年代から現在まで続いている、人口置換水準を下回る少子化の進行による「第二次人口転換」の時代(少子化の時代)

「人口転換」という用語を覚えました。

「多産多死」から「多産少死」を経て「少産少死」へと向かう第一次人口転換が本格的に始まったのは 1920 年代であった。

…長期的トレンドとしては 1920 年をピークに日本の出生率は長期低落傾向に入ったのである。

としています。

人口ピラミッドの形状の変化は、この人口転換によるものです。

なお参照したこの論文は、参議院 > 立法と調査 260号(平成18年10月6日)に掲載されたもののようです。

パート2.脱「人口ピラミッド」論

以上をふまえ、ここからは、脱「人口ピラミッド」論と銘打って「人口ピラミッド」という言葉の檻からの脱出を目指します。

もう戻らない

断言しますが、この先100年単位で見積もっても、日本の「人口ピラミッド」がピラミッドに戻ることはありえません。国体がごっそり切り替わるほどの天変地異や一大事変でもあれば話は別ですが。

崩れているのではない

なのに、ピラミッドが「崩れている」といったもの言いをする人がいます。人口ピラミッドがピラミッド型であることが、理想のあるべき姿であるかのように錯覚してはいないでしょうか。

ピラミッドという言葉の中に自ら幽閉されてしまってはいけません。

世界の言葉でもピラミッド

英語でも「人口ピラミッド」と言うのだろうか?

そう思って調べてみると、英語を含めて世界的に「ピラミッド」という言葉が使われていました。

その名も「PopulationPyramid.net」というサイトを参照しての結論です。

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※Population Pyramids of the World from 1950 to 2100(populationpyramid.net)

そのまま直訳で「population pyramid(s)」でした。

PopulationPyramid.netが面白い

このサイト、面白いです。

サイトでは、世界各国の1950~2100年の人口実績値と推計値が参照できます。国のカバー率もなかなかでした。

表示も、日本語・英語含め、全部で12か国語に切り替えられます。すべて切り替えて見てみると、どれもピラミッドに相当する語句が入っていました(たぶん)。

こと人口ピラミッドに関しては、このサイトがあればご飯いらないぐらいにインフォマティブです。

なんかいいサイト見つけて、うれしいです。いろいろ遊べそうです。

初の「人口ピラミッド」を求めて

ところで、「人口ピラミッド」の描き方は、いつ頃、誰が考え出したのでしょう。

探ってみましたが、残念ながらネットでの調査では突き止められませんでした。

次段は、見てきたような講釈師の口上です。真正性は保証しません。

「人口ピラミッド」はじめて物語

19~20世紀に国家単位で人口統計が取られるようになってほどなく、表現方法として中央の縦軸に年齢を取り、その左右に、各層の男女それぞれの人口を棒状に描画する手法が発案されました。

描いてみると、なんと、その形がエジプトのピラミッドにそっくりです。

そこでその図は、「人口ピラミッド」と名づけられましたとさ。

おおかたこんな感じではないかと想像しています。

形状前提の名前「人口ピラミッド」

「人口ピラミッド」は、その形状が変化することを想定していない名前の付け方です。

しかしながら、想像上の命名事情からすると、これは致し方ありません。

初めて人口ピラミッドが描かれた時点では、生活水準の向上等によって「人口転換」が起こり、その形状が変化するという知見までは得られていなかったと考えられるからです。

人口ピラミッドがピラミッド型の社会は望ましいか?

ここまでの調査でわかったことは、ピラミッド型の人口ピラミッドが維持される社会とは、多産多死で、かつ、人の一生程度の時間ではその構造がほとんど変化しない社会だということです。

非現実的ですし、望まれている姿でもないでしょう。

改名は得策ではない

一般に、名が体を表していないとき、「名前を変える」というのも解決オプションの1つではあります。

しかし、ここで名称の変更は主張しません。

世界的にもピラミッドの用語が使われていますし、本当にピラミッド形状である社会が実在する限り、得策ではないと考えます。

まとめ

日本の「人口ピラミッド」には、名が体を表していない問題があります。

社会構造の変化により、その「人口ピラミッド」の形状はもはやピラミッドでなくなり、戻ることはありません。

といって、世界的にピラミッドと呼ばれている図表を、日本国内でだけ別の名前へ変えることも、賢明な判断ではありません。

そこでできることとしては、まず最低限、「人口ピラミッド」がピラミッド型を目指しているわけではないと心得ることです。

もしどうしても、ピラミッドでないものをピラミッドと呼び続けることが気持ち悪くなったら、必要に応じて「人口ピラミッドタワー」とでも呼んでおけばいいと思います。

参考にしたのは、カールしていないカールSTICKです。

ご静聴ありがとうございました。

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