「1ミリもない」という言い方が、明治時代より退化している件

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こんにちは。

以前の「1ミリも許さない」でのミリの単位を定めたことにより、許すという行為の本質に迫れた話の続編的記事です。

はじめに:この記事を書いた動機

自画自賛そのものですが、元の記事は自分ではよく書けた方だと思います。にもかかわらず、あきれるほどアクセスされないので続編を書くことにしました。

あまりに元の記事がアクセスされないので、こんなツイートをしたぐらいです。

その後も状況は変わりません。

続編を書いてもやはり反応がないかを確かめたいです。

要約:Executive Summary

  • 強く否定したいときに「1ミリもない」という言い方をする人がいます。
  • 昔は「毫もない」という言い方がありました。福澤諭吉や夏目漱石も使っています。
  • 「ミリ」は接頭辞ですが、「毫」は接頭辞であり単位でもあります。
  • 「ミリ」に単位の意味はない点で「毫」よりも退化しています。
  • 「ミリ」に単位の意味がないことを意識せずに「1ミリもない」を使う人は、軽率です。
  • 言葉遣いが軽率な人を軽蔑します。

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1ミリもない

何かを強く否定したいときに「1ミリもない」という言い方をする人がいます。テレビの芸人さんが言っていたのが広まったのでしょうか。

そんな過程を調べる気は1ミリもないです。

こんな使い方です。

毫もない

このごろの文章ではめったに見ませんが、いまどきの人が「1ミリもない」と言いたいようなとき、以前は「毫もない」という言い方をしていました。

語法としていつ頃からあったかは探っていませんが、明治期にはごく普通の言い方だったと見られます。

代表例を2つ引用します。いずれもテキストは青空文庫から取りました(下線は引用者)。

風俗の美にして取締りの行き届きたるも学校の一得と言うべしといえども、その得は学校たるもののもっとも賤しむべき部分の得なれば、毫もこれを誇るに足らず。
福澤諭吉『学問のすすめ

尻が冷える、のぼせが下がる、これまた自然の順序にして毫(ごう)も疑を挟(さしはさ)むべき余地はない。
夏目漱石『吾輩は猫である

『学問のすすめ』が出版されたのは明治5(1872)年、『吾輩は猫である』の連載が始まったのは明治38(1905)年です。

上のような「毫も~ない」という形に拡張して数えると、「毫もない」が『学問のすすめ』には10回、『吾輩は猫である』には23回出てきます。

これらの「毫も」を、「1ミリも」に入れ替えても、だいたい通じそうです。

「毫」の意味

「毫」は、字の下が「毛」になっているように、元は「細い毛。」「転じて、筆の穂先。毛筆。」(広辞苑)という意味です。

「揮毫」の毫です。「筆をふるう」という意味ですね。

そこから派生して、こういう意味が生まれています。同じく広辞苑(第五版)から引用します。○囲み文字の表記は適宜変えています。

(2)きわめてわずかなこと。「―も動じない」「寸毫」

(3)毛(もう)(5)(ウ)(エ)に同じ

「毛」についてはこうです。同じく広辞苑(第五版)より抜粋して引用します。

(5)単位の一。

(ア)1の1000分の1。
(イ)歩合・利率等の単位。1割の1000分の1。
(ウ)尺度の単位。寸の1000分の1。毫。
(エ)質量の単位。匁の1000分の1。毫。
(後略)

毫≒毛は、接頭辞でかつ単位でもある

ここからわかるのは、「毫」≒「毛」は「1000分の1」を意味する接頭辞であり、かつ尺度や質量の単位でもあるということです。

それぞれでの用例

接頭辞での毛の用例は、野球の打率「x割x分x厘x毛」が僕にはいちばんなじみがあります。シーズン終盤、首位打者のタイトルが僅差の争いになると耳にする印象です。

一方、単位での用例はちょっと思い浮かびません。

真珠の取引では、国際的に匁が単位だそうですが(参考:Wiktionary momme|Wikipedia Pearl – Momme Weight)、1匁=3.75gだそうですから、その1000分の1である毫や毛の出番は少なそうです。

退化している

その点からみれば、昨今の「1ミリもない」は、昔の「毫もない」よりも退化した用法だと言えます。

事実と評価は別問題

昔と比べて退化しているからどうこう、と言うつもりはありません。

「今」が「昔」よりも進化していないといけない、などという史観も持ち合わせておりません。

「ミリ」に単位の意味はなく、「毫」には単位の意味もある。この点を事実として示しているまでです。

しつこいですが、「ミリ」に単位の意味はないです

くり返しますが、「ミリ」とは「10のマイナス3乗」「1000分の1」を意味する接頭辞です。単位の意味はありません。

別の言い方をすると、「1ミリもない」と言っても、そのミリが何の1000分の1かは、わからないのです。

したがって「1ミリも(~)ない」と言っているだけでは厳密には不十分です。伝わりません。

むろん、文脈から単位を補えるケースもままあります。しかし、それに甘えて「ミリは単位ではない」という事実が意識から抜け落ちているのであれば、思考が雑だと言わざるを得ません。

軽率な人を軽蔑します

たとえば

  • 1ミリも知らない
  • 1ミリも思わない
  • 1ミリも許さない

などと言う人に聞きたいのですが、その「ミリ」の単位って何なんでしょうか?

それすら考えずにこの言葉を使っているなら軽率です。僕は院卒大卒高卒中卒だので人を見ることはありませんが、言葉遣いが軽率な人は軽蔑します

僕の答えは以前の記事に書いておきました。

こちらからは以上です。

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コメント

  1. よしだ より:

    単位を持たない接頭辞だからこそ使えるのだと思います。
    「1ミリも動かすな」と言われれば誰もが単位はメートルだとわかります。
    つまり「1ミリメートルも動かすな」と言われていると。
    では1マイクロメートルなら動かしてもいいのでしょうか?
    もちろんダメでしょう。
    「1ミリも動かすな」というのは少しでも動かしてはいけないという意味だからです。
    単位は関係ないのです。
    だからこそ「知る」「思う」など単位のない言葉に使えるのです。

    またこういう考え方もあるでしょう。
    「1ミリも動くな」-> 単位はメートルだとわかる。
    単位は文脈からわかるのでわざわざ付ける必要はない。
    つまり単位の無いものにも使える。
    暗黙的に単位が付いている様なものなのです。

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