「インスタ映え」の物語―今年の新語「ジラ2017」大賞授賞を記念して【選評】

こんにちは。

「インスタ映え」って、いい言葉ですよね。ひと言で言えば、愛らしい。

短いワードに、本当にいろんなものが詰まっています。そこが愛らしく感じられます。

ヒマなおっさんも、今年の新語「ジラ2017」大賞に選びました。 満場一致での選出でした。ひとりだから。

この記事では、選評を兼ねた「インスタ映え」の物語として、「インスタ映え」をつくる各要素の来歴をたどります。

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  1. 「インスタ映え」はじめて物語(2010-2011)
  2. 「インスタ映え」出世物語(2012-2016)
  3. 愛と狂乱の「インスタ映え」2017
  4. まとめ

以上の3部+まとめの構成でお届けします。

おことわり

当記事は三省堂の「今年の新語2017」とはあまり関係ありませんのでご注意願います。なお諸条件が合えば、講演その他オファーは承ります。

第1部:「インスタ映え」はじめて物語

はじめに、「インスタ映え」をつくる各要素ごとの「はじめて」を綴ります。

2010~2011年が中心です。

Instagram

iOSアプリ「Instagram」の初期リリースがApp Storeで公開されたのは、2010年10月6日(現地時間?)のことでした。

アプリ名の「Instagram」は、instant camera(インスタントカメラ)とtelegram(電報)の組み合わせ語が由来です。

(以上、Wikipedia「Instagram」による)

当初から「こりゃあいいな」と評判になったらしく、公開後1週間で10万ダウンロードを超えたそうです。ソースはこちら:

急成長する写真共有アプリ「Instagram」の舞台裏(鈴木仁士)|現代ビジネス(2010/10/27付)

写真の加工と共有が簡単にできるインスタグラムの「ここがすごい!」も、2010年時点のこの記事で言い尽くされている感があります。

当時のツイートからです。

「インスタ」の名は。

  • 横浜スタジアムが「ハマスタ」に
  • Hi-STANDARDが「ハイスタ」に  
  • おはようスタジオが「おはスタ」に
  • そしてハイスタみたいに「__スタ」と呼ばれたくて「NON STYLE」に

という力学の働く日本語世界で、Instagramが「インスタ」と呼ばれるのに時間はかかりませんでした。

リリースからわずか10日ばかりでTwitter上に用例が登場しています。まさにインスタント。

この軽はずみぶりに、率直に敬服の念を覚えます。

初期型「Instagram映え」

Twitter検索してみると、同じくリリースから10日ばかり経った時期に「instagram映え」の用例が登場していました。

「先代」のインスタ

実はInstagramの登場よりも前に、既に日本語には「インスタ」が存在していたのです。2007年付のツイートでの用例を紹介します。

こちらは2009年。

タネ明かしすると、どちらもインスタレーション(installation)を指す用法と思われます。

Merriam-Webster「installation」からです。

4 :a work of art that usually consists of multiple components often in mixed media and that is exhibited in a usually large space in an arrangement specified by the artist

【拙訳】
アート作品のひとつ。通常複数の要素で構成され、メディアミックス形式も多い。広いスペースにアーティストの指定による配置で展示される。

そんなインスタレーションを、アート界隈では「インスタ」と縮めて呼ぶこともあるようです。


Reorient installation(2006) from commons.wikimedia.org

たとえばこちらのタイムスタンプは、時期的にInstagramのリリースより後ですが、

iOSアプリのことではなくて、きっと「インスタレーション」のインスタですね。

という具合に、2010年の「インスタ」界はまだインスタレーションが優勢でした。両者のシェアが逆転するのは、翌2011年以降のことです。

Instagram映え、ルーツは「写真映え」か?

アプリケーションのリリース直後に早くも「Instagram映え」というワードが出てきたのは、既に「写真映え」の概念・用語があったからでしょう。

「写真映え」、界隈ではごく普通に使われる用語みたいです。こちらは2007年の用例です。※強調・下線は引用者。以下同じ

○藤原美智子のビューティーフォトライフ <事前申込定員制>

ビューティーアドバイザー藤原美智子氏が、自身のライフスタイルを撮影した写真やスクラップブックとともにトークショーを展開するほか、写真映えするメイクアップの実演・解説を行います。また、来場者全員に記念写真のプレゼントなどを実施します。

出典:「キヤノンエンジョイフォトパーク in 品川」開催のご案内|ニュースリリース(2007/10/30付)

フォトジェニックにも脚光

推測を重ねますと、「写真映え」は「フォトジェニック」の訳語の位置づけと考えられます。

「インスタ映え」とコンビで有名になったためか、一部で「フォトジェニック」も新語扱いされてる節がありますが、誤解です。誕生してせいぜい7年ばかりの「インスタ映え」と比べると、フォトジェニックははるかに古い言葉で、1930年代から用例があります。

とにかく文学的の言葉をいわゆるフォトジェニックなフィルミッシな表現に翻訳しなければならない。

寺田寅彦「映画芸術」(1932)

写真は眼に見えるものしか写らない。そして、写真は眼で見るものである。(略)フォトジェニックとは、視覚的世界の徹底的な視覚的処理ということである。

土門拳「総評――画面のあまさとレアリティ」(1953)

当人の主観では「新語」に違いないのでしょうけれど。

フォトジェニックな皮膚炎・バクテリア

ついでにさかのぼると、photogenicは「光」に関係する単語のようです。Merriam-Webster「photogenic」には、

  • photogenic dermatitis(光線性皮膚炎)
  • photogenic bacteria(発光バクテリア)

の用例がありました。皮膚炎もバクテリアもフォトジェニックです。というか、むしろこっちが写真の登場よりも古い、よりオリジナルに迫るフォトジェニックと言えましょう。

実にフォトジェニックです。

「インスタ映え」は2011年後半から

以上述べた「インスタ」「写真映え」「Instagram映え」が融合し、「インスタ映え」の形が登場するのは、2011年の後半からです。

が観測できる「はしり」の用例です。文面のとおり、先行する用例の存在が示唆されますが、見つけられていません。

「インスタ映え」発想も2011年から

なおインスタ映えするかどうかが行動基準になる「インスタ映え」発想は、早くも2011年に見られます。

第2部:「インスタグラム」出世物語

2012年末~2016年末の物語です。

Instagram、“公式に”「インスタグラム」へ

2012年末に「Instagram」は日本語含め25か国語に対応しました。

象徴的に言えば、ここで公式にカタカナの「インスタグラム」になりました。

「インスタ」襲名完了

この時期には、「インスタ」といえば「インスタグラム」を指すのがすっかり標準となっていました。

先代「インスタレーション」からの襲名が完了しています。


以来、インスタは順調にユーザーを獲得していきます。データを拾うのが面倒なので、話を飛ばします。

メディアも注目した2016年

2016年までに「インスタ映え」はマーケティング担当者、ファッション関係者らに発見されました。

賞レースに登場

2016年の「賞レース」で「インスタ映え」が受賞しているのがその証左です。

  • インスタ(映え)が、繊研プラスのバズワードランキング第3位に
  • #インスタ映え消費が、楽天市場の「ヒット商品番付2016」東横綱に

それぞれ選ばれています。

正確には、前者はインスタグラムの「アプリ」ともどもの紹介であり、後者は「消費行動」の名称となっています。そこらとセットでのもの言いです。グループアイドルの一員といった感じです。

そしてマスメディアへ

これらを経て、マスメディアにも「インスタ映え」が注目されるようになりました。 年末の記事の例からです。

第3部:愛と狂乱の「インスタ映え」2017

「インスタ映え」にとって、2017年は狂騒に巻き込まれた1年となりました。

2016年までの「インスタ映え」は、注目はされていてもまだ「知る人ぞ知る」的存在だったのが、一気に知名度が上がった格好です。

Googleトレンドが示す狂乱ぶり

Googleトレンドのグラフがそれを裏づけます。

2016年7月~2017年11月、約1年半の「インスタ映え」のトレンドがこちら。

グラフの折れ線は、その言葉が検索された度合いを相対的に表しています。「インスタ映え」が検索された回数が、2017年、特に7月下旬に入ってから激増していることがわかります。

見つかってブレイク

めざましいほどの伸びを見せた要因はスッキリ、いやハッキリしています。地上波のテレビ番組が相次いで取り上げたからです。次はその一例です。

悪く言えば、騒ぐことが仕事の人たちに見つかってしまいました。

急上昇すぎる注目度

ここでひとつ、面白い事実を紹介します。今でこそさも当たり前のような顔(?)をしてテレビ出演する「インスタ映え」ですが、在京の地上波テレビ放送局各社のサイト

  • nhk.or.jp
  • ntv.co.jp
  • tv-asahi.co.jp
  • tbs.co.jp
  • tv-tokyo.co.jp
  • fujitv.co.jp
  • mxtv.jp

には、2016年以前の「インスタ映え」の用例がただの一例も見つかりません。皆無です。本当です。探しましたがひとつも出てきませんでした。見つけて教えてほしいほどです。

逆に言えば、これほどまで2017年の「今年の新語(ジラ)」にふさわしい言葉もありません。

~8月・注目度急上昇が起こす狂騒

これだけ一気に注目を浴びると、その注目ぶりを含めて、「インスタ映え」を妬んだり疎ましがったりする人も出てきます。新しいようで古い問題です。

耳からこの言葉が入ってくると

と思うようで、「インスタ蝿」は、インスタ映えを求めてどこにでも現れる人のさまを昆虫のハエになぞらえてバカにした言い方となりました。

以下は「インスタ蝿」の用例ではありませんが、このようなもやもやも込められての表現だと感じます。

そしていろいろ経由して1周回ったこの記事が好きです。

インスタ映えするハエ、インスタバエ(林裕司)|デイリーポータルZ(2017/08/25付)

9月

地上波テレビの「インスタ映え」狂乱がピークに達したのが、9月です。

インスタ映えする転落死(4日)

※リンク先は既に消えています。

亡くなった男性はお気の毒ですが、正直「インスタ映え」使いたいだけちゃうんかって思いました。

このニュースで大賞内定です。

インスタ映え学級会(16日)

さらに9月16日には、NHKの「週刊ニュース深読み」のテーマになりました。

タイトルでは、サービス名を外した言い換え語「SNS映え」となっていますが、告知は「インスタありき」を隠していません。

なお放送内容はこちらでテキスト化されています。

ざっとそんなところです。

まとめ

インスタグラムの普及と、それに伴う「インスタ映え」の隆盛によって、大げさに言えば写真の「民主化」がひとつの到達点に至った感があります。

私が「インスタ映え」をなんかいい言葉だなと思う理由は、そこにあります。

プリクラ、写メ、自撮りといったカルチャーを土台にして、ごく普通の人々が、写真の

  • 発信、加工の手段
  • 「映え」の意識

を獲得したのです。これらはいずれも、従来は言わば「特権階級」、すなわちプロと一部の愛好家だけのものでした。

なにせ、かつて土門拳が説いていた

写真は見るものでなく、見せるものとして撮らなければいけないわけだ。

――『フォトアート』1958年7月号 月例選評

この意識が、いまやごく普通の人たちに浸透しているってことですよ。すごくない?

あるいは「撮ってる場合か問題」にしても、新しいようで古い問題です。国内だけでも、昔から

  • 紫雲丸事故(1955)
  • 浅沼委員長刺殺事件(1960)
  • 豊田商事会長刺殺事件(1985)

などをきっかけに再三議論されてきました。同じくこれも、議論の対象となっていたのは主にメディア側の人間でした。

参考:村上孝止『勝手に撮るな! 肖像権がある!』(2002)pp.278-280

しかし昨今、インスタ映えを求めて各地各所に出没し、ときに「インスタ蝿」と疎まれバカにされているのは、プロや従来の愛好家ではなく、これもまた、ごく普通の人たちです。

なんかいいなあと思います。

以上を、ヒマなおっさんの今年の新語「ジラ2017」大賞「インスタ映え」の選評といたします。

ご静聴ありがとうございました。

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