20世紀アメリカにおける偽ダーウィン語録「変化できる者が生き残る」の変遷【対訳付き】

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出典マニアの調査研究ノートです。といっても、すべて孫引きです。すまんのう。

自民党広報アカウント(@jimin_koho)発のツイートから俄然盛り上がっていたので、フェイクとして名高い、例のダーウィンの名を騙った偽語録の文言が、どういう変遷をたどってきたかを追いかけてみました。

前半にあたる当記事では、アメリカ編として英語情報を中心にお届けします。拙訳も付けておきます。

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Image by Harmony Lawrence from Pixabay

※写真と本文は関係ありません

自民党広報(2020)

まず、このフェイクの「現在地」として挙げておきます。

ダーウィンの進化論では
こういわれておる

最も強い者が
生き残るのではなく

最も賢い者が
生き延びるのでもない

唯一生き残ることが
出来るのは、

変化できる者である

@jimin_koho より

なれの果て感も漂います。

偽ダーウィン語録の変遷 1963-1999

現在知られる最も古い用例は、1963年、米国南部のとある定期刊行物にまでさかのぼります。

出典

当記事の情報はほとんどこの両サイトに負います。

1つめ。

It Is Not the Strongest of the Species that Survives But the Most Adaptable – Quote Investigator

It Is Not the Strongest of the Species that Survives But the Most Adaptable|Quote Investigator(2014/05/04付)

極力原典にまで実際にあたっていて、出典マニアの鑑のようなサイトでした。

2つめ。

The evolution of a misquotation(darwinproject.ac.uk)

時系列的にはこちらが先のようです。ですが言及は「初出」のみなので、補完的参照先としました。

Leon C. Megginson(1963)

この記事でもここを出発点とします。

(出典1, 2)

According to Darwin’s Origin of Species, it is not the most intellectual of the species that survives; it is not the strongest that survives; but the species that survives is the one that is able best to adapt and adjust to the changing environment in which it finds itself.

【拙訳】
ダーウィンの種の起源によれば、生き残るのは数々の種のうちで最も知的に優れたものではない。生き残るのは最も強い種でもない。生き残る種とは、その種が置かれたなかにおいて、変化する環境に最も上手く適応・順応できる種なのである。

ポイントは、言い換え(パラフレーズ)の形式であることです。

(出典1より)

1963 June, Southwestern Social Science Quarterly, Volume 44, Number 1, Lessons from Europe for American Business by Leon C. Megginson, (Presidential address delivered at the Southwestern Social Science Association convention in San Antonio, Texas, April 12, 1963), Start Page 3, Quote Page 4, Published jointly by The Southwestern Social Science Association and the University of Texas Press.

Leon C. Megginson(1964)

(出典1)

It is not the most intellectual of the species that survives; it is not the strongest that survives; but the species that survives is the one that is able to adapt to and to adjust best to the changing environment in which it finds itself……so says Charles Darwin in his “Origin of Species.”

【拙訳】
生き残るのは数々の種のうちで最も知的に優れたものではない。生き残るのは最も強い種でもない。生き残る種とは、その種が置かれたなかにおいて、変化する環境に最も上手く適応・順応できる種なのである……チャールズ・ダーウィンは著書『種の起源』でそう述べる。

メギンソンの解釈か、『種の起源』自体の文言かが、あいまいになっています。

1964, Petroleum Management, Volume 36, Number 1, Key to Competition is Management by Leon C. Megginson, Start Page 91, Quote Page 91, Petroleum Engineer Publishing Company, Dallas, Texas.

Kamal S. Sayegh(1968)

(出典1)

It is not the most intellectual or the strongest of species that survives; but the species that survives is the one that is able to adapt to and adjust best to the changing environment in which it finds itself.
Charles Darwin

【拙訳】
生き残るのは数々の種のうち最も知的に優れたものでも最も強いものでもない。生き残る種とは、その種が置かれたなかにおいて、変化する環境に最も上手く適応・順応できる種である。
チャールズ・ダーウィン

ダーウィンの言葉として、第1章のエピグラフとなりました。

1968, Oil and Arab Regional Development by Kamal S. Sayegh, Series: Praeger Special Studies in International Economics and Development, (Epigraph of Chapter 1: Introduction), Quote Page 1, Published by Frederick A. Praeger, New York.

私もGoogleブックスで確認できました。

ひとつ豆知識ですが、著書等のタイトルが消え、人名だけになるのもフェイク名言の特徴です。フェイクにとってどこが大事かがうかがえて、味わい深いですね。覚えておきましょう。

Robert T Moran and Philip R Harris(1982)

(出典1)

It is not the most intellectual or the strongest species that survives, but the species that survives is the one that is able to adapt to or adjust best to the changing environment in which it finds itself.
Charles Darwin

【拙訳】

生き残るのは最も知的に優れた種でも最も強い種でもなく、生き残る種とは、その種が置かれたなかにおいて、変化する環境に最も上手く適応または順応できる種である。
チャールズ・ダーウィン

1968年版の文言から「of species」のofが落ち、「adapt to and adjust」のandがorに代わっています。

1982, Managing Cultural Synergy, by Robert T Moran and Philip R Harris, The International Management Productivity Series, Quote Page 94, Gulf Publishing Company, Houston, Texas.

Terry Glasscock(1985)

(出典1)

Whether we speak of lenders or developers, it is helpful to recall a statement by Darwin, “It is not the strongest of the species that survives, but rather, that which is most adaptable to change.”

【拙訳】
貸し手の話であれデベロッパーの話であれ、ダーウィンの言葉を思い出すことが有用だ。「生き残るのは最も強い種ではなく、むしろ変化に最も適応できる種である」

不動産分野への進出とともに、すっかりダーウィンにされてしまっています。

1985 September 15, Bankers Monthly: The Nation’s Oldest Continuously Published Magazine for Bankers, Volume 102, Number 9, Back to Cash Equity in Real Estate Finance by Terry Glasscock, Start Page 20, Quote Page 21(略), Published by Hanover Publishers, Inc., New York.

John E. Stallworth(1987)

米国議会の証言で、ダーウィンとは別人の語録にされる“珍事件”も起きていました。

(出典1)

To be the first of anything simply means you are a symbol of something greater to follow. Clarence Darrow once said, “It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent, but rather the one most adaptable to change.”

【拙訳】
何事でも最初のひとりというのは、つまるところ、後に続くべき、より偉大な何ものかのシンボルであるということです。クラレンス・ダロウはかつて言いました。「生き残るのは種の最も強いものでも最も賢いものでもなく、むしろ変化に最も適合できるものだ」

つか、元々がダーウィンと別人だよ!あっぶねー。

1988, Congressional Hearing before the Select Committee on Aging, House of Representatives, One Hundredth Congress, First Session, Hearing title: Improving the Quality of Life for the Black Elderly: Challenges and Opportunities, Hearing date: September 25, 1987, Statement of John E. Stallworth, Start Page 27, Quote Page 28, U.S. Government Printing Office, Washington, D.C.

リンクしてあったHathitrust.orgに、会議録が公開されていました。確かに書いてありました。

クラレンス・ダロウ、ではないダロウ

それでももし、その人物が本当に言ってたなら、それは真実です。けれど調べてみるとクラレンス・ダロウの生没年は(1857-1938)でした。発言者の思い違いの可能性が高いですね。

Wikipedia Clarence Darrowを読むと、こんなことが書いてありました。取り締まられた人の弁護を担当したようです。

The act forbade the teaching of “the Evolution Theory” in any state-funded educational establishment.

【拙訳】
その法律は、すべての州立の教育機関で「進化論」を教えることを禁じていた。

進化論つながり!

USA TODAY(1999)

(出典1)

“It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent; it is the one most adaptable to change.”
— Charles Darwin, British naturalist.

【拙訳】
生き残るのは最も強い種でもなく、最も賢い種でもない。最も変化に適応できる種である。
――チャールズ・ダーウィン、英国のナチュラリスト

1999 November 1, USA TODAY, GNS Millennium Special, Page: ARC, Newspaper Location: Arlington, Virginia, Publisher: Gannett News Service, Gannett Company.

証拠が不十分なため全然断定には至りませんけれど、調べていると、1999年という年がこの偽語録の飛躍のターニングポイントになっていそうな感触があります。

まとめ

いかがでしたか?(笑)

私は、断定調の情報へと変質していくさまが、「おべんとうばこのうた」の偽歌詞の話とよく似ているなーと思いました。昔記事にしました。

【指摘用テンプレ】《おべんとうばこのうた》の歌詞が「おにぎりを握り…」だという話はデマ。
こんにちは。用件は件名のとおりです。 標記の話題を見かけたら、デマだと指摘するのにこちらを活用していただければ幸いです。 結論 《おべんとうばこのうた》の正しい歌詞は、「おにぎり おにぎり ちょいと つめて」です。 ときどき、×「おにぎりを...

【指摘用テンプレ】《おべんとうばこのうた》の歌詞が「おにぎりを握り…」だという話はデマ。(2013/10/25)

これはきっと構造的な問題なんでしょうね。ヒトの情報処理能力が、認知も伝達も「正確さ」の点でおしなべて低いことが最大の要因に思います。

ひとつ地味に大切だと思う点ですが、引用した用例はすべて「adaptable to change(=変化に適応できる)」であって「変化できる(changeable?)」ではないんですよね。

次回はいよいよ(?)この偽ダーウィン語録の日本流入と感染拡大ルートをたどります。いつ「変化できる」に変化するか、楽しみですね!

つづく

コメント

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