先行研究まとめ:「変化できる者が生き残る」例の偽ダーウィン語録1963-2020

自民党広報ツイートの「もやウィン」騒ぎに乗り遅れた人も話についていけるように、先行研究をまとめました。ただし、ダーウィンのフェイク語録にのみ特化した、出典マニアの私だけがうれしい視点となっております。

極論すれば、残りの論点はみな、どれも形を変えた自己紹介の応酬みたいなもんです。そこらで戯れたい方は他を当たってください。よそでご自由になさればよろしいです。

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※写真と本文は関係ありません

結論(2020):a final answer

自民党広報アカウント(@jimin_koho)発の2020年6月19日付のツイート

こちらの

ダーウィンの進化論では
こういわれておる

最も強い者が
生き残るのではなく

最も賢い者が
生き延びるのでもない

唯一生き残ることが
出来るのは、

変化できる者である

は、別人の言葉です。

そう述べたのはダーウィンではありません。この言いぐさの来歴をたどると、別人によるダーウィン解釈に基づいた、一種の「共同創作名言」であることがわかります。別の記事にまとめる予定ですので、まとまったらこちらでアナウンスします。

【7/5追記】

アメリカ編をまとめました。

20世紀アメリカにおける偽ダーウィン語録「変化できる者が生き残る」の変遷【対訳付き】
出典マニアの調査研究ノートです。といっても、すべて孫引きです。すまんのう。自民党広報アカウント(@jimin_koho)発のツイートから俄然盛り上がっていたので、フェイクとして名高い、例のダーウィンの名を騙った偽語録の文言が、どういう変遷を...

20世紀アメリカにおける偽ダーウィン語録「変化できる者が生き残る」の変遷【対訳付き】

【7/7追記】

日本へ入ってきたルートを追いました。

「変化できる者が生き残る」偽ダーウィン語録、日本上陸は「1999年・IBMルート」が濃厚説
このもやウィン、シリーズ通してナイツの塙さん顔負けのハイペースでボケまくっているんですが、この記事ではこちらの「偽ダーウィン語録」に焦点を絞り、このフェイクがいつ本邦に上陸し、どのように感染クラスターを形成していったかを追ってゆくことにします。

「変化できる者が生き残る」偽ダーウィン語録、日本上陸は「1999年・IBMルート」が濃厚説

その別人は、メギンソン

その始まりとなった別人とは、レオン・C・メギンソン(Leon C Megginson)というのが通説です。

こちらが最古の用例と目されています。1963年の刊行物に見られるそうです。

According to Darwin’s Origin of Species, it is not the most intellectual of the species that survives; it is not the strongest that survives; but the species that survives is the one that is able best to adapt and adjust to the changing environment in which it finds itself.

Megginson, ‘Lessons from Europe for American Business’, Southwestern Social Science Quarterly (1963) 44(1): 3-13, at p. 4.

The evolution of a misquotation
We gave you six things Darwin never said (despite what you may read elsewhere). None of the fake soundbites is more insi...

出典情報ともどもThe evolution of a misquotation(darwinproject.ac.uk) のまる写しです。孫引きですまん。

原典がここからダウンロードできるようになっていました。有料。
Lessons from Europe for American Business (jstor.org)

英語が苦手な人のために、拙訳も付けておきます。

【拙訳】
ダーウィンの種の起源によれば、生き残るのは数々の種のうちで最も知的に優れたものではない。生き残るのは最も強い種でもない。生き残る種とは、その種が置かれたなかにおいて、変化する環境に最も上手く適応・順応できる種なのである。

というか、この日本語が読めるぐらい語学力があるんなら、きっと英語も読めるようになりますよ!

謝辞

以下、紹介するリンクのほとんどは、Twitter情報をニュースソースにしています。記事にはその一部しか使用しておりませんが、すべての紹介者の皆様にあらためて謝意を表します。

先行研究1(2009, 2018): a real origin

先行研究によって、上記の「偽ダーウィン語録」が別人の言葉であること、ダーウィン本人が遺した著作や書簡に存在しないことは、既に明らかになっています。

私自身が知ったのは2018年のこのツイートがきっかけです。

ツイート画像の書籍は、こちらですね。

松永俊男『チャールズ・ダーウィンの生涯』(2009)です。

タイムライン:多方面から総ツッコミ

ということで、例のもやウィンツイートは、そこらを知る界隈から総ツッコミを浴びていました。代表して、私のタイムラインに最初に現れたこちらを。

次のような煽りもありました。

こうした煽りツイートに焚きつけられた結果、かは定かでないですが、日本人間行動進化学会(なにそれ?)が会長・理事会名義で声明を出す事態にまでなりました。

[PDF]『ダーウィンの進化論』に関して流布する言説についての声明(2020/06/27付)

これはこれであちこち稚拙な点があって大いに改善の余地を残していますが、いまはスルー。

先行研究2(2001, 2008) a denial

本邦でこの偽ダーウィン語録を有名にしたのは、時の内閣総理大臣、小泉純一郎さんの所信表明演説でしょうね。「平成13年9月27日」といいますから、西暦にすると2001年のことです。

首相演説に登場(2001)

第153回国会における小泉内閣総理大臣所信表明演説|kantei.go.jpから。※下線は引用者。以下同じ

私は、変化を受け入れ、新しい時代に挑戦する勇気こそ、日本の発展の原動力であると確信しています。進化論を唱えたダーウィンは、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」という考えを示したと言われています。

ここをスタート地点として、研究状況を時系列に再現してみます。

「ではない」の歴史(2001, 2008)

その言葉が「ではない」ことは、早くから明らかになっていました。

『種の起源』ではない(2001)

ネットに残る当時の痕跡をたどると、「小泉演説」の直後に検証され、『種の起源』には載ってなかったとの情報が寄せられています。

ダーウィンは「変化に最も対応できる生き物が生き残る」と言ったか?(natrom.sakura.ne.jp)

ダーウィンではない(2008)

遅くとも2000年代後半には、「それはダーウィンではない」ことも明らかになっていました。2008年付の記事から。

False quotations

There are many attributed to Darwin. Probably the most common is: “It is not the strongest species that survive, nor the most intelligent, but the ones most responsive to change.” Versions of this catchy phrase adorn many a book and website. But it was never written by Darwin. There is no longer any excuse for taking someone else’s word about or misquoting Darwin, because all of his publications are available for free at darwin-online.org.uk/.

John van Wyhe explodes some myths about Darwin
Everyone has heard of Charles Darwin. Yet a good part of what most people believe about the man is wrong, writes John va...

出典:It ain’t necessarily so … | Charles Darwin(John van Wyhe)|theguardian.com(2008/02/09付)

要約すると「それ、ダーウィンじゃないから」と述べています。

引用の中でも触れられていますが、その著作すべてはもちろんのこと、ダーウィンの遺した書簡も大半がデータベース化されてオンラインで参照できるようになっていますから、「そこになければないですね」のダイソー論法が成立します。

先行研究3(2009) an evolution

もっとも、『チャールズ・ダーウィンの生涯』の刊行時点ではまだ「ダーウィンではない」どまりの研究状況であったと推察できます。

「である」の歴史(2009)

その2009年に、第一発見者が現れます。Nicholas J Matzkeさんです。Darwin Correspondence Projectから。

Nicholas J. Matzke, of the Department of Integrative Biology, University of California, Berkeley, worked out its history.  As you can read on Nick’s blog, the source is the writings of Leon C. Megginson, Professor of Management and Marketing at Louisiana State University at Baton Rouge. The quote started out as a paraphrase. Megginson wrote in 1963:

【拙訳】

カリフォルニア大学バークレー校・統合生物学部のNicholas J. Matzkeがその歴史を割り出した。彼のブログにあるとおり、その発生源は、バトンルージュにあるルイジアナ州立大学の経営学・マーケティング教授のLeon C. Megginsonによる著述である。この引用はパラフレーズ(言い換え)として始まった。1963年にMegginsonはこう書いた。

という経緯です。

「2009年」としたのは、引用に挙がっていたリンクのタイムスタンプからの判断です。なお当該のリンク

Survival of the Pithiest

ですが、残念ながら私のネット環境からは「応答時間が長すぎます。」となり、内容は未確認です。

2009年はダーウィン生誕200年にあたる年でした。ダーウィンへの注目が高まった結果、偽ダーウィン語録の研究もまた大きく進展をみせたと言えそうです。

「である」日本語文献(2011)

日本語文献の中にも、比較的早い段階でこの研究成果を取り入れたものがありました。

御立尚資『変化の時代、変わる力―続・経営思考の「補助線」』(2011)です。

Amazonの商品紹介から。

「より強いものが生き残るのではなく、より賢いものが生き残るのでもない。より変化できるものが生き残るのだ」
という言葉がある。
 よくダーウィンの言葉として引用されるのだが、実際には、米国の経営学者がダーウィンの思想をパラフレーズしたもののようだ。(「はじめに」より)

全然ボケてないですね。つまらん。ボケろや。とつい思ってしまいました。

「ダーウィン警察」ひとくちメモ

名前で探すと同名のTwitterアカウント(@NickJMatzke)があったので追ってみました。

今回の「もやウィン」騒ぎを伝える朝日新聞デジタルの英文記事をシェアされていました。

2015年には、偽ダーウィン語録を見つけて取り締まる「ダーウィン警察」みたいな活動もされていました。

きっと、発見者ご本人のアカウントですね。

まとめ:a summary

以上駆け足でしたが、先行研究をたどってみました。

「唯一生き残ることが出来る者は、変化することができる者」うんぬんに相当するテキストは、Wikiquote「Charles Darwin」の項にも、Misattributed欄に載っていました。要は「それ、ダーウィンじゃねえ」枠としておなじみ、ってことですね。

ところで、自民党もやウィンのおとぼけから盛り上がっていたなか、『種の起源』の一節を持ち出して「似たようなことは言っている」とのコメントも一部で出ていました。

結論だけ書きますと、類似性があるかないかを論点にすれば「ある」でしょう。しかしメギンソン語録と比較すれば、類似性の程度ははるかに弱いですよね。

ダーウィンのつもりでフェイク語録を掲示していて、Twitter上でMatzkeさんの“取り締まり”を受けたミュージアムのリプライを紹介します。

【拙訳】

われわれが変化に適応できると示す機会をくれて、どうもありがとうNickJMatzkeさん
Leon C. Megginsonにはすまんことをした。

これが、ごく素直な反応な気がしますけどね。

ぺこぱの松陰寺太勇さん語録になぞらえれば、間違いは故郷のごとく誰にでもあるわけで、「そうなんですか知りませんでした直しときます」で済む話じゃないでしょうか。


日めくり 毎日ぺこぱ(2020)

別人の言葉である事実を明らかにされてもなお、うっすらかすっているだけの叙述を根拠にダーウィンに結びつけたがるその心性こそが、検討に値する事柄に思います。

次回以降、このフェイク語録について

  1. 英語圏での文言の変遷
  2. 2001年の小泉演説に入り込むに至るまでの日本流入と感染拡大ルート

をたどってゆきます。お楽しみに!

20世紀アメリカにおける偽ダーウィン語録「変化できる者が生き残る」の変遷【対訳付き】
出典マニアの調査研究ノートです。といっても、すべて孫引きです。すまんのう。自民党広報アカウント(@jimin_koho)発のツイートから俄然盛り上がっていたので、フェイクとして名高い、例のダーウィンの名を騙った偽語録の文言が、どういう変遷を...
「変化できる者が生き残る」偽ダーウィン語録、日本上陸は「1999年・IBMルート」が濃厚説
このもやウィン、シリーズ通してナイツの塙さん顔負けのハイペースでボケまくっているんですが、この記事ではこちらの「偽ダーウィン語録」に焦点を絞り、このフェイクがいつ本邦に上陸し、どのように感染クラスターを形成していったかを追ってゆくことにします。

つづく

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