真の問題点は「名前かぶり忌避」信仰―反・キラキラネーム批判(2)

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こんにちは。名前を研究しています。

「キラキラネーム」に関する議論のスタートラインを揃えるためのシリーズです。

シリーズ要旨

キラキラネームについて何か言うなら、せめて次の2つをふまえてからにしてください。

  1. 漢字はキラキラ読むもの
  2. 真の問題は「名前かぶり忌避」という信仰

でないと建設的で有益な議論ができません。

※photo by Dick Thomas Johnson from flickr.com

前回のあらすじ

前の記事:

漢字はキラキラ読むもの―反・キラキラネーム批判(1)(2014/11/22)

で、漢字の読みはすべて事後的に決まるのだから、「読めない」を理由に世のキラキラネームを批判することはすべて的外れだと述べました。

この記事に書くこと

この記事では、後者の

  • 真の問題は「名前かぶり忌避」という信仰

について詳しく述べていきます。

記事要約:Executive Summary

親はなぜ、子の名をキラキラさせたがるのでしょうか?

それは、子の名が「かぶること」を異様に嫌う「名前かぶり忌避」信仰があるからです。そこにキラキラネームの真の問題があります。

キラキラネームについては、その点をふまえたうえで問題解決の糸口を探る必要があるのではないでしょうか。

「名前かぶり忌避」という信仰

多くの日本の親たちは、次のような「かぶりネーム」を意図的に(また無意識に)避けています。

  • 親かぶり・親戚かぶり
  • 昔の人かぶり
  • 偉い人かぶり

日本独自では?

しかし国外に目を向けてみれば、これらは決して避けるべきタブーではありません。

全世界の事例と比較したわけではないですが、「名前かぶり」を嫌がるのは日本に特に強く見られる傾向のように思えます。

現代日本の感覚にはない付き方をした名前と対比させてみることで、当世の名前の付け方がどれだけ「名前かぶり」を忌避しているかを確認していきましょう。

1.親かぶり―ブラジルの人、聞こえますかー?

突然ですが「名前を呼んで」クイズです。

この人、ブラジルのサッカー選手なんですが、名前を知っていますでしょうか。

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※画像はen.wikipedia.orgより

そうです。ネイマール選手です。

フルネームは「ネイマール・ダ・シウバ・サントス・ジュニオール」といいます。

解読・ネイマールのフルネーム

Wikipediaには、こう書いてあります。 ※下線引用者

ネイマール・ダ・シウバ・サントス・ジュニオールは、ネイマール・ダ・シウバとナディーン・サントスとの間に(略)一男一女の長子として出生

「ネイマール」は彼の父の名前でもあります。「サントス」は、母の姓です。そして「ジュニオール」というのは、ポルトガル語で「息子」のことです。英語なら「ジュニア(Junior)」です。

つまり、ネイマール選手のフルネームを解読すると、こうなっています。

  • ネイマール ←父の名前
  • ダ・シウバ ←父の姓
  • サントス ←母の姓
  • ジュニオール ←「息子」
ネイマール分析

姓が親と一緒なのはいいとして(というか日本も基本そう)、名前まで一緒という「親かぶり」です。

しかもこの人の名前には、自身に付いたオリジナルなパートがどこにもありません。辛うじて「ジュニオール」という属性を表す言葉があるだけです。

現代日本で暮らす自分の感覚からすると、「なにそれ」です。

日本人でたとえると

ネイマール選手の名前の付き方を日本人に適用させてみると、ちょうど、この人のことを、

2014-12-04_2208

※画像は、sangaria.co.jpより

さんま・明石家・大竹・二世

と呼んでいるのと変わりません。

彼女に限らず、日本人ならきっとこう言うでしょう。

けれどもネイマール選手がそう言ったという話は聞きません。あまつさえ、連名でこんな本まで出しています。

ブラジルでは、たぶん違うのです。「親かぶり」上等なのです。

ブラジルの人聞こえますか?

余談:「親→子 vs. 親←子」目線方向の違い

話は脇にそれますが、「ネイマール…ジュニオール」式の命名法は、「親ありきの子」です。目線の方向が「親 → 子」です。

しかし日本での目線の方向は、真反対の「子 → 親」です。「子ありきの親」です。

日本人の家族間での呼称は、子供中心の子供基準です。子ができた夫婦は、いつしか互いを「パパ/ママ」「お父さん/お母さん」と呼び合います。

日本のママ友が「○○ちゃんママ」「○○くんママ」と呼び合うのもまた、同じく「子ありきの親」「子 → 親」目線です。

この事実はなんなのか、別途考えてみたいところであります。余談でした。

2.昔の人かぶり

次に、より長い時間的スパンで見ていきましょう。

キリスト教世界に限定しますと、付ける名前の傾向は、世紀をまたいでも変化が少なく、おおむね保守的に推移しているようです。

たとえば現代のこの人も

20141205_310px-LeonardoDiCaprioNov08

from en.wikipedia.org

15-16世紀のこの人も、

334px-Francesco_Melzi_-_Portrait_of_Leonardo_-_WGA14795

from en.wikipedia.org

ついでにこの人も、

名前はみな同じ「レオナルド」です。

昔の人とかぶらない日本

ところが日本はそうではありません。

家持、人麻呂、運慶、世阿弥、家康、門左衛門、博文、莞爾

と、時代時代に諸ジャンルからランダムに挙げてみましたが、今日びこういう名前を付ける親はほとんどいないと思われます。

実際、自分にも「なんか古い」感があります。

日本人の名前は、おおよその時代測定が多少はできるような付け方になっています。意識的または無意識に「昔かぶり」の名を避けた結果に思えます。

3.偉い人かぶり

キリスト教世界の場合、名前が偉い人とかぶっても気にしない、というか、むしろそこに寄せていっている感があります。

たとえば新約聖書の「福音書」に冠された使徒の名前である、

マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ

にしても、それぞれ英語表記にすると

Matthew、Mark、Luke、John

です。いずれも、現代の一般信者にも普通に付けられている名前と言えます。

日本の宗教で可能か?

一方、日本の場合は様相が異なります。「偉い人かぶり」は避けるのが、ジャパニーズスタンダードです。

たとえばもし、熱心な創価学会員の夫婦に男の子が産まれたとして、その子に「大作」と付けるか? を考えてみましょう。

あいにく該当者へのアクセスを持ち合わせておらず、なんの根拠もありませんが、たぶん、答えはNOだと思います。仏罰があたりそうです。

あやかりネームはあるが

たしかに日本にも、時代時代の「時の人」からいただいた「あやかりネーム」のパターンは実在します。

たとえばフィギュアスケートの浅田選手の「真央」、2015シーズンにNPBへ復帰する松坂投手の「大輔」も、そのタイプの名前だと思われます。

しかし言ってしまえばこれも、あくまであやかれる範囲の人をなぞって付けた名前でしかありません。

「時の人」枠を超える「偉い人」ゾーンに入ってしまうと、あやかれない気がします。「畏れ多い」となってしまうのです。

「名前かぶり」忌避対象:皇族

「あやかり命名」パターンの存在は認めつつ、それでも日本人のあいだには「偉い人かぶり」を避けるエリアが明確にあります。

それは、皇族です。殊に男性の場合です。

明治以後(徳川以前は未調査)の男子皇族の名は、漢字2文字で後ろに「仁」の字が付きます。

これにあやかろうとして今上陛下、あるいは過去の天皇と同じ名前を付けた、という例は皆無と言いませんが、まれでしょう。「ふつう」は避けます。

また、かぶっていなくても、「○仁」というパターンの名前の人がいると、「お、そっち攻めるか?」と軽くチャレンジャーだなと感じます。

逆に、後から皇族に男子がお生まれになって、かぶってしまうパターンもありえるからです。

事後的にかぶる「逆パターン」の例も

2006年、悠仁さまの命名がされた際、読みは別なのに字が同じというだけで、ゆずの北川悠仁さんが何かコメントを求められていた記憶があります。

もしも私が北川さんの立場だったなら、自分になんの責任もないのに、なぜだか気まずく思えます。

皇族側も同様のルールで運用?

一方内親王・女性皇族の場合、男子のときほど強い「名前かぶり忌避」は感じません。しかしそれでも、昭和・平成の女性皇族のお名前を思い浮かべてみると、命名に際し、「子」を必須としながらも、ややマイナーなところを選び出している感もあります。逆に皇族側が一般市民となるべくかぶらないような名付けを考慮されているのではないかとも言えそうです。

次回予告

ではなぜ日本人は、そこまであちこち念入りに気を回して「名前かぶり」を避けるのでしょうか?

簡単に述べると、日本語を使う日本の社会では名前も「自分」の一部だからです。

大げさに言えば、誰かと名前がかぶってしまっていると、その誰かと個性や人格までもがかぶっていると見なす/されるのです。それではまるきり自分と区別が付きません。そんなのイヤ。

それが名前かぶりを避けて、「かぶらない名前」を求める発端です。

つづく

参考文献

この記事の執筆に際し、次の書籍から多くのヒントを得ました。

参考にしているのは「名前をつけてやる」の章です。単行本の時とは章の並び方が変わって、6番目になっていました。

当記事の内容の骨格にしているアイデアも、次の

「日本では、ちかごろヘンな名前をつけたがる親が増えた」のではありません。「日本では、いまだにヘンな名前をつけたがる親が多い」。これが正しい歴史認識 (p.142)

「かぶらないこと」こそが、日本の名付け習慣における重要な隠れキーワード (p.152)

からいただいています。

以上です。いったんお返しします。

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