「納品のない受託開発」という温故知新

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こんにちは。どうでもいい老人の昔語りです。

『「納品」をなくせばうまくいく』

少し前にこちらの本を読みました。

読了後にこんなツイートをしたら、著者の倉貫さんにもリツイートされました。ありがたいことです。

以来、倉貫さん(@kuranuki)と、彼がCEOを務める株式会社ソニックガーデン(@sonicgarden_bot)のTwitterアカウントをフォローして動向をウォッチしています。

IT業界でこういう働き方のできる会社も地位を得つつあるということは、社会全体としてハッピーな話です。

「斬新」みたいな形容だけが不満

「納品のない受託開発」というビジネスモデルって非常にいいなと思ったのですが、老人の私にとってはただひとつだけ、このモデルにしばしば付けられる修飾語に不満があります。

それは、「納品のない受託開発」が、時に「画期的」「斬新」みたいに形容されることです。

株式会社ソニックガーデンのウェブサイト(納品のない受託開発 > コンセプト ほか)でもそんなふうに謳っているわけでもないですから、必ずしも同社の責任ではありませんけれど。

不満な例

2つ例を挙げます。

1)本の内容紹介

たとえば『「納品」をなくせばうまくいく』について、Amazon.co.jpでの「内容紹介」にはこうあります。 ※下線引用者

◆ソフトウェア業界の常識をくつがえす「納品のない受託開発」というビジネスモデル
…これはユーザー企業と顧問契約を結ぶことによって月額定額を受け取り、納期を廃するソフトウェア開発における常識破りとも言うべき画期的なビジネスモデルである。

2)出版告知

もうひとつ挙げておきます。

同社のニュース > 代表倉貫による著書“「納品」をなくせばうまくいくーソフトウェア業界の"常識"を変えるビジネスモデル”が出版されました(2014/06/12付)では、こんな表現でした。

IT業界のソフトウェア開発で起きる様々な問題に対して、「納品をなくす」という斬新なアプローチで解決できるのではないかと考えて経営し実践してきたことを、一冊にまとめました。

新しくない。むしろ「温故知新」

どうでもいいことですが言っておきます。「納品のない受託開発」は全然新しくありません。むしろ「温故知新」と呼ぶのがふさわしいスタイルです。

なぜなら、そもそもわが国における情報処理サービス業、とりわけ、データ通信を伴うコンピュータシステム開発は、「納品のない」スタイルが基本だったからです。

Webで参照できる「古文書」をひもといて確かめてみましょう。

通信白書(昭和48年版)ひろい読み

ひもとくのは、郵政省の通信白書(昭和48年版)です。

2014-09-25_2054

総務省のサイトで参照できます。

第1回らしい

この年に初めて刊行されるようになった白書のようです。

「巻頭言」として、昭和49年3月付で第1回通信白書の発表にあたってという郵政大臣名での一文が付いていました。

データ通信の法的はじまりは、1971年

まず周辺知識として、白書の第3部 各論 > 第4章 データ通信 > 第1節 概況 からです。

データ通信のための電気通信回線の利用制度は,特定通信回線の利用については[引用者注:昭和]46年9月1日から,公衆通信回線の利用については47年11月12日から電話料金の広域時分制の実施とともに逐次実施されている。

電電公社の提供するデータ通信は,従来,試行役務として実施されてきたが,この法改正によりその利用制度が法定され,46年9月1日から実施されている。

ざっと40有余年の歴史があることになります。

利用形態は「クラウドのSaaS」だった

「最大公約数」的な情報として、当時の商用タイムシェアリングサービスの料金体系が示されていました。下に転載します。

20140925_s48a030423h

※画像は、白書3-4-2 2 民間の情報通信事業 より

ざっくり要約すると、こんな感じでしょうか。

  1. 初期費用
  2. 月間固定経費
    - 基本使用料金 etc.
  3. 月間変動経費
    - 回線接続料金
    - CPUタイム料金 etc.

いまの言葉で言えば、どこからどう見てもクラウド利用のSaaSです。
※SaaS:Software As A Service(サービスとしてのソフトウェア)

「納品」の発生していそうな気配は見られません。

データ通信設備使用契約

当時、国内データ通信事業の牽引役だったのが、電電公社です。白書でも「3 日本電信電話公社の情報通信事業」と独立の項目が設けられています。

引用します。※下線引用者

電電公社は,データ通信設備使用契約に基づき,電気通信回線及びこれに接続する電子計算機等からなる電気通信設備を一体として設置し,利用者にサービスを提供している。このサービスを電電公社は「データ通信設備サービス」と称している。

これも「サービス」の提供です。設備もアプリケーションプログラムも納品しません。

40年前は「納品のない受託開発」が主流

3 日本電信電話公社の情報通信事業」からつづきです。

このサービスは,[1]一般利用者が共同利用するシステムサービス,[2]特定利用者の特定業務を対象としたシステムサービス,に大別される。

後者の「特定利用者の特定業務を対象としたシステムサービス」が、まさに「納品のない受託開発」です。

電電公社がユーザの求めによりその対象業務に応じたサービスを提供するいわばオーダー・メイド型システムであり,「運輸省自動車検査登録データ通信システム」,「全国地方銀行データ通信システム」などがその例である。

金融オンライン化に乗って

電電公社が,47年度末現在提供しているこのタイプのシステムは17システムあるが,これを対象業務別にみると,第3-4-39表に示すとおり,15システムが金融業務を対象としたものである。

第3-4-39表も転載しておきます。

20140925_s48a030439h

※画像は、白書3-4-3 3 日本電信電話公社の情報通信事業より

共同利用システム「DRESS」と「DEMOS」

ちなみに、前者「一般利用者が共同利用するシステムサービス」の両輪が

  • DRESS:Dendenkosha REal time Salesmanagement System
  • DEMOS:DEndenkosha Multiaccess Online System

の2つです。

以下引用元はいずれも、白書3-4-3 3 日本電信電話公社の情報通信事業です。

販売在庫管理システム「DRESS」

このシステムは,利用者が日々の営業活動において発生する多種多様の売上げ,入金あるいは入出庫等の変動データをデータ宅内装置(端末装置)からインプットすることにより中央処理装置にあらかじめ記憶してある商品台帳,顧客台帳等の内容を常に現状に維持し,販売・在庫管理上必要な各種の伝票や資料を作成するサービスを提供するものである。

科学技術計算システム「DEMOS」

このシステムは技術計算及び経営科学計算を大型電子計算機によりタイムシェアリング方式で処理するサービスを提供するものであり,46年3月に東京,同年6月に大阪,47年8月に名古屋でそれぞれサービスが開始されている。

このサービスは,建築構造計算,橋りょう計算,土木計算,熱伝導計算,混合率計算,各種機械設計計算,車両船舶設計計算,レンズ設計計算,スプリング設計計算,電線弛度計算,天体観測計算,照度計算,写真測量計算等の技術計算及びLP,PERT,シミュレーション等の経営計算に適用される。

くり返しになりますが、完全にクラウドのSaaSです。

余談:DEMOSの方がより古い?

さらにひとつ余談です。

Wikipedia「電電公社」によれば、DRESSのサービス開始は1970年、DEMOSは1971年といいます。

しかし2つのサービスのうち、先に研究開発に着手されたのは、DEMOSの方なのかなと推理しています。

というのも、「DEndenkosha Multiaccess Online System」という(和製英語感ばりばりの)正式名称では、「マルチアクセスのオンラインシステム」という方式についてのみ述べられており、名前の中に「科学技術計算」という応用分野に関する情報が入っていないためです。

これは、名前を付ける際に応用分野の件は重要でなかった、すなわち、別の応用分野と区別する必要がなかったことを意味します。いつ名前が付いたかはっきりしないので、はっきりしない議論ですけど。

なおWeblio辞書・コンピュータ用語辞典によれば、DEMOSのサービス終了は1995年、DRESSは1996年とのことです。

まとめ

以上のとおり、歴史的に見れば「納品のない受託開発」というスタイルは何ら画期的でも斬新でもありません。むしろ老人の目には、「結局ここに戻ってきたか」と映ります。

むろん、いま従事するプログラマの方々がここで書いたような話を知らなくても全然大勢に影響のないことです。ソニックガーデン社も「新しいから」でなく、「よい」から「納品のない」モデルを実践しているのでしょうから。

今後の課題:歴史の転換点はどこか?

産業の黎明期にはむしろ常識的だった「納品のない受託開発」が、今日「画期的」「斬新」とも呼ばれるということは、時代の中で「常識」が移ろっていったことになります。

では、転換点はどこなのでしょうか?

2004年にはすでに転換後っぽい…

探してみると、2004年付でこんな書きぶりのページがありました。My News Japan > NTTデータ(2004/10/27付)からです。

強みの一つ目は、電電公社時代から官公庁に食い込んでいたという過去の実績。

もう一つのカラクリとして、「データ通信サービス契約」と呼ばれる独特の契約方法がある。NTTデータが設計、開発、保守・運用、ハードウェアのリース料まで全てを負担する。その上で毎月のサービス利用料を受け取るという仕組みである。

システム構築を行っている間は金が入ってこないので、当初の負担は大きいが、一度食い込めば、毎月金が入ってくる上、継続的にシステム発注を受ける可能性も高くなる。

「カラクリ」「独特の契約方法」「一度食い込めば」といった語法から見るに、「納品のない受託開発」であるデータ通信サービス契約に批判的なトーンと解せます。

現在では、新規にこうした契約はほとんど結ばれないが、依然「データ通信サービス契約」は公共分野の強さの源泉である。

かつての「納品のない受託開発」の類型であったデータ通信サービスが、時を経てまるで「悪の枢軸」的な書かれ方をされるようにまでなってしまったのは、どういうわけでしょう。その経緯をもう少し追いかけて考察を深めたいところですが、この記事ではここまでにします。

そんな、納品のないブログ記事でした。

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