検証:アドラーの三角柱、日本製説

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こんにちは。

自信はあっても根拠が弱い、雑な調査の経過報告です。

アドラーの三角柱に「日本製」疑惑が浮上

「アドラーの三角柱」って、日本製じゃないんですかね。

幸せになる勇気』(2016)の著者のひとり、岸見一郎さんがたぶん発祥で。

たから、アドラーとは無関係のアイテムでは?

アドラー含め、西洋人って字を横に書くので、本に書かれていたように三角柱を使うのは無理です。

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※画像は、Triangular_prism|commons.wikimedia.org

有意なレベルで当たってるはずです。なので「精度95%」(当社比)。

そう疑問に思って、検証を始めました。

好意的な解釈:「アドラーの三角柱」は省略形

「アドラーの三角柱」という表現を好意的に解釈するなら、省略形の一種だとは言えます。

復元してみると、

  • アドラー心理学の知見をベースにした本に紹介されていた、カウンセリングで使う小道具の三角柱

ぐらいになるでしょうか。これがぐっと縮められて「アドラーの三角柱」となっています。

ひとつ用例を挙げます。たとえば、こちらの記事がそうです。

「アドラーの三角柱」ってなに? という方向けの、いい回答にもなっています。

リンク先にあったような話を「アドラーの三角柱」とまとめてしまうのは、正直はしょりすぎて精度が悪いです。けれどコンテキストに対する人の認知能力からすれば、そんなもんでしょうね。

検証:「アドラーの三角柱」はアドラー発か?

以下、ヒマな人向けの調査経過レポートです。

「アドラーの三角柱」の発見

ある日Twitterでハッシュタグ#水曜日のダウンタウンを見ていましたら、月並みな感想が並ぶ中に、こんなツイートがありました。

「アドラーの三角柱」。はじめて見るワードです。アドラーが心理学者の名前、という程度は知っていましたけど、なんですかそれ。

「アドラーの三角柱ってなに?」とほぼ同時に、本当に「アドラーの」なんだろうか?との疑問が起こりました。出典マニアの悪い癖です。

読んでみた

ネット検索で情報の出どころをたどると、だいたい『幸せになる勇気』に集約されました。

読んでみました。「青年」と「哲人」の対話形式で、こう書いてありました。

哲人 (略)では、これを試してみましょう。われわれがときおりカウンセリングで使用する、三角柱さんかくちゅうです。(p.70)

カウンセリングで使用するらしいとわかりました。

それはそれとして、まず「われわれ」とは、誰でしょうか。端的に、アドラーを含むのでしょうか。

英語でググってみた→ソースなし

英語で検索することにします。

まず「三角柱」を英語で何て言うかを調べました。結論は「triangular prism」です。上位に出てきたページは中学高校あたりから学ぶ幾何学まわりを扱ったものばかりで、日常語としてどんだけ使うかは不明でしたが、そこは日本語の「三角柱」を検索しても似たようなもんだったのでOK。

で「Alfred Adler triangular prism」と検索してみたのですが、めぼしい情報は何も出ませんでした。もしアドラー発のそれなりに(少なくとも日本国内並みに)知られたエピソードなら、何か出てきていいはずですね。ということでアドラーと「三角柱」、関連性は低そう。

アドラー心理学がベースになっている本ですが、アドラーは関係ない感触です。

「英語で検索する」というのは、「舶来」とされている何かを調べるいいやり方です。覚えておきましょう。

「三角柱」は、岸見一郎さん発の小道具では?

『幸せになる勇気』よりも古い情報があるか探しました。

ありました。

過去や他者のせいにしても何一つ解決しない!「今、自分にできること」にスポットを当てよ|和田裕美×岸見一郎 対談【前編】|ダイヤモンド・オンライン(2014/10/08付)

和田 私が岸見先生にお聞きしたカウンセリングのなかで一番印象的だと思ったのが、先生が相談を受けるときに使う三角柱の話です。

『幸せに―』の出版は2016年です。著者の岸見さんが以前から使っていることは確定的です。

ほかに使っている人がネットには見あたりませんので、この三角柱は「岸見一郎さん発」という見方が有力です。

さらに、「三角柱」に記されている第三の文言が、書籍と比べると少し違っていたことも傍証になります。具体的には、

  • 2014年版(上記記事)「私には何ができるのか」
  • 2016年版(書籍)  「これからどうするか」

でした。

アドラーがオリジナルだとするとこう安易に?変わらないと思いますし、仮にここらを安易に変えているのであれば、出典の扱いの甘い、気の毒な人という結論になります。

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さらに古い「三角柱」情報:吉田尚記さん

さらにたどると、1年さかのぼった2013年時点で、三角柱の話をされている方がいらっしゃいました。「よっぴー」こと吉田尚記さんです。

吉田 アドラー心理学の実験で、こんなものがあります。事故などの悲劇、トラブルに遭ったときに、人間がとる立場って、アドラー的に言うと、「悪いあの人」「可哀想なわたし」「これからどうするか」の3つしかないというんですね。で、約9割の人が、前の2つの立場をとる。つまり、自分の不幸やうまく行かないことを、誰かのせいにするか、こんな不幸な自分をあわれんで! というわけです。

出典:cakes > 人生を変える劇薬 「アドラー心理学」がいまの日本に必要なワケ|吉田尚記×柿内芳文『嫌われる勇気』特別対談|(2013/09/20付)

紙でつくった三角柱のそれぞれの面に、この3つの立場を書いて、「これからどんな話をしてもいいけれど、自分がどの立場で話すか、必ずサイコロの面で示してください」と言って渡すと、ほとんどの人が「これからどうするか」の話をするらしいんですね(笑)。

吉田さんがどこでこの「アドラー心理学の実験」を知ったのか、追って要調査ですね。

今のところ、これが私が見た中での「ネット最古」の三角柱です。

「三角柱」をアドラーが使えない理由=欧米人だから

となったところでふと、論理的に考えて、『幸せになる勇気』にあったようなやり方でアドラーが三角柱を使うわけがないことに気づきました。

なぜなら、西洋人は字を横に書くからです。要は「横書き」の文化じゃ無理です。

オーストリア出身でのちに米国に渡ったアドラーもまた、横に書いていました。いちおう、証拠。

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※rice.edu > Letter from S. Alfred Adler to Sir Hall Caine(1917) よりキャプチャ

なんでそれが根拠になるかは、次項へ。

検証:「三角柱」の作り方

狭くて広いネット世間には、三角柱を「作ってみた」方もいらっしゃいました。

と悦に入っておられましたが、残念ながら、この三角柱は大事なところを間違えています。

何を間違えているかというと、字の書き方、書く向きです。その筋の用語で「書字方向」といいます。横書きじゃないです。

横書きにすると、次の記述と矛盾するからです。『幸せになる勇気』から。

哲人 (略)いま、あなたの座っている位置からは、三つある側面のうち二面だけが見えるはずです。それぞれの面に何と書かれていますか?(p.70)

哲人が示した、三角柱に折られた紙。青年の位置から見えるのは、三面のうち二面だけだった。(p.72)

三角柱の「柱」の面3つそれぞれに横書きで何か書いて、ふつうに字が読めるように置くと、示された側から見えるのは一面です。

ちょうどこんな具合です。

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Black Marble Triangle Desk Name Plate – Brushed Gold Plate|nametagcountry.com より

ですから二面だけ(だけ?)が見えるようにするには、このように書かないといけません。

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アドラーのカウンセリング三角柱作っちゃいました♪11/27プレゼントしよ!|こころのつぶやき(TAN-TANメモ)  by びぃ・すまいる(2016/11/13付)より

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【習慣】とある三角柱を作った話 ~悩むのは暇な証拠!〜|hidepon’s channel(2018/03/18付)より

はい。縦書きです。大ざっぱに言って、漢字文化圏の東洋人スタイル。

こうすると、めでたく二面だけ(だけ?)が見えます。

こんな小さいところに、情報処理能力の差って出てくるのですね。侮れません。

反対材料

ただ、先述の記事での吉田尚記さんは、「悪いあの人」を横書きしていました。

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人生を変える劇薬 「アドラー心理学」がいまの日本に必要なワケ(2013/09/20付)より

先ほどのテキストを再掲して検討しておきますと、

紙でつくった三角柱のそれぞれの面に、この3つの立場を書いて、「これからどんな話をしてもいいけれど、自分がどの立場で話すか、必ずサイコロの面で示してください」と言って渡すと、ほとんどの人が「これからどうするか」の話をするらしいんですね(笑)。

このやり方なら、示すのは「二面同時」である必要はなく一面だけでいいので、横書きでも大丈夫ですが。

現段階での検証まとめ

  1. 出所がだいたい岸見一郎さんにたどり着くこと
  2. 『幸せになる勇気』でも直接アドラーと関連づけていないこと
  3. 西洋文化圏では「三角柱」の二面を同時に示せないこと

以上の調査検証結果から、「アドラーの三角柱」の、少なくとも二面を示す手口は日本オリジナルです。吉田尚記さんの知った「アドラー心理学の実験」の出所次第ではありますが、カウンセリングに使う三角柱の考案者は岸見さん、もしくはその周辺である可能性も高いです。

アドラー心理学入門の本と位置づけられている『幸せになる勇気』に書いてあったから、受け取り手の側が短絡してアドラーと結びつけちゃってますけど、まあ人間ってそんなもんですわね。同書は出典マニア言うところの「そっち系(=出典を示さないタイプ)」の本だったんですが、本件に関しては示したところで無用かつ無意味だった気が強くします。

最後に、書字方向について私の知る唯一かつ至高の文献『横書き登場』(2003)を紹介します。

こういうとこ他に誰も研究してないみたいで、類書がないです。

そんなところです。

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