「デンバー市が冬季オリンピックを返上するまで」の既視感に震える【東京五輪問題】

こんにちは。英文読みますデザイン芸人、第2弾です。

につづき、英文ドキュメントを右から左へ書き写した記事でございます。

この記事に書くこと(アバンタイトル)

札幌の次、1976年の冬季オリンピック開催予定地だった米国コロラド州の州都、デンバー。

しかし1971年初頭より当地での開催を問題視する声が上がり、ついに翌1972年11月には、開催都市の権利をIOCに返上しました。

theguardian.comのレポート記事

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こちらを元ネタに、デザイン芸人がその顛末を記します。

英文を読むのにさして不自由しない方は、元記事を直接読むのもお勧めです。抱腹絶倒です。

「元ネタ」タイトルの日本語訳

タイトルと、副題的なヘッドラインだけ逐語で訳しておきます。こんな感じでしょうか。

When Denver rejected the Olympics in favour of the environment and economics

【拙訳】
デンバーが自然環境と経済事情を優先し、オリンピックを拒否したその時

Colorado’s biggest city won the bid to host the 1976 Winter Games, but its citizens decided they had other priorities

【拙訳】
1976年冬季オリンピックの招致競争に勝ったコロラド最大の都市。だが住民の判断は「五輪以上にもっと大事なことがある」だった。

そんなデンバー「パイセン」の事例をひもとき、本籍だけは東京都民の田舎者が学びます。

以下、元記事のクオリティを無闇に信用し、さして裏を取らずに進めます。

この記事で言いたいこと:Executive Summary

デンバー先輩!「オリンピックのやめ方」ご指導お願いします!

幻の"Denver 1976"のストーリーを読むと、次の2大「オリンピックあるある」が半ば普遍的であることがわかります。

  1. 招致の時と話変わりがち
  2. 予算やたら膨らみがち

「あるあるの大家」が示す次の懸念すら、些末なレベルへ退くほどです。

2大「オリンピックあるある」に破滅の危機を感じたデンバーは、開催自体を返上した。

さあ、東京はどうする?

公用車に乗って、考えてみよう!

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別荘でもOK。

画像は、舛添氏の湯河原の別荘 細川氏の自宅から直線距離で2km以内|NEWSポストセブン(2014/01/30付)より

「デンバー先輩」に学ぶオリンピックのやめ方

パラグラフごとに要旨を綴ります。ポイントで適宜、原文の語句を付け加えておきます。

見出しの数字は、原文記事のパラグラフに対応させています。

1.デンバー、冬季五輪招致決定(1970)

1976年の冬季オリンピック開催地が米国コロラド州デンバーに決定したのは、さかのぼること6年前、1970年5月のこと。

盛り上がったね~

なにせ1976年といえば

  • アメリカ合衆国建国200周年
  • コロラド州創立100周年

ですよ。このタイミングでの開催って、なんかカンペキって感じじゃない?

2.実現しなかった「デンバー1976」

けれどもデンバー開催は幻と消えた。

1972年11月、デンバーの五輪組織委員会(DOOC)は、興行の胴元IOCに対しこう告げた。

無理っす。お金足りないっす。
できましぇん。

そこでIOCは協議の末、4か月後(1973年3月?)に、1964年に開催実績もあり、既存の施設が使用できたインスブルック(オーストリア)へ開催地を変更すると決定。76年大会はその地で開かれた。

3.コロラド住民の心配ごと

どうしてこうなった?

一般コロラド民が心配したのはこの2つ

  1. まずは財源(coffers)
  2. そして、デンバーの豊かな自然環境(the rich environment in Denver)

心配したのは政治家も同じ。

招致決定から1年も経たない時点で、州選出の下院議員Bob Jackson氏が以上2点を指摘している。

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Robert "Bob" Jackson, image via krdo.com credit by the Pueblo Chieftain

4.野党議員「いつやめるか? 今でしょ!」

「決断の時は今だ」

1971年1月、Jackson議員はAP通信の記者にこう語った。

われわれコロラド州民は、合衆国と世界に向けてこう言わないといけない。

「すんません。やっぱり自然環境のことが心配です。ウチら間違ってました。オリンピックはよそでやってください

出典マニアの補足

出典としてリンクされていた当時の記事も読んでみました。読んでわかりましたが、Jackson議員の主張に対して否定的なトーンでした。

見出しの語句は

Denver Olympics
termed wasteful

日本語にすると、さしずめ

デンバーオリンピックを「ムダ遣い」呼ばわり

ってところでしょうか。えぐい。

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The Montreal Gazette(1971/01/12付)|Google news

記事本文もなかなかえぐかったです。

Jackson下院議員の主張

記事画像(赤枠部)内の要旨です。

  • これ以上オリンピック計画にカネを使うべきではない
  • 教育、自然環境保全、老人福祉などをより優先すべき(higher priorities)だ
AP通信の否定的見解

AP記者の筆によると思われる記事後半は、否定的論調です。こんなことが書いてありました(黄色マーカー部)。


一方、デンバー五輪組織委員会(DOOC)はここまでの7年間に75万ドル以上を費やし、州議会との合同予算委員会に対し、今後2年間でさらに67万ドルの追加支出を求めて事前の顔つなぎ(made an appearance)もした。

共和党の州知事また共和党優位の議会が、五輪開催の危機を招くような行動を取るようには思えない


【参考】他紙の紙面

AP配信なので他にも掲載紙がないかなと探すと、ありました。掲載日付はこちらの方が2日古いです。

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Daytona Beach Morning Journal(1971/01/10付)|Google news

一部で語句が違います(マーカー部)が、内容的には同一です。

1971年時点では半ば「妄言」扱いしているこのAP配信記事は、話の顛末と照らし合わせるとなかなか「ネタ振り」が利いていて愉快です。

補足はここまで。「元ネタ」記事に戻ります。

5.五輪の「エコ軽視」に疑問の議員も

Dick Lamm下院議員(後の州知事, 在任: 1975-1987)は、コロラド州当局がオリンピック担当者たちに一杯食わされている(being taken for a ride by Olympics representatives)と感じていた。というのも、彼らが自然環境に対し無頓着(with no respect for the environment)だったからだ。

Lamm議員のコメント:

エコの質問をするとオリンピックの連中は決まってこう言うんです。「大丈夫ですって、ちゃんとケアしますよ」って。

ですがね、環境向上のため看板ひとつ撤去すらしない状態で、エコロジストも支持するオリンピックなんてほんとにやれんのか、でしょ?

補足

ここで内容にまでは触れませんが、出典のGoogle Books > 「SKI」誌1971年12月号の記事に書いてある話も、「オリンピックあるある」満載でえぐいです。

元記事に付いた出典の内容だけを別途記事にしたいぐらいです。する、かな?

6.五輪組織委、競技会場をめぐり迷走

地元の環境活動家らがPOME(Protect Our Mountain Environment)を結成しIndian Hillsでの競技開催に抗議。

するとデンバー五輪組織委員会(DOOC)は、競技予定地を15マイル郊外のEvergreenに計画。しかし諸条件で不適切と判断され、最終的にスキー競技はデンバーからそれぞれ97マイル、156マイル離れたVail、Steamboat Springsで開催することで合意となる。

7.分散開催によるコスト増大

開催地が分散されたことにより、輸送コスト、とりわけ空輸のコストが増大。

1970年代に入ってからの米国内の景気後退も伴い「コンパクトな五輪」計画を圧迫。

付記:東京から「長野五輪」「福島五輪」レベルの変更

ちなみに変更後の競技会場の距離を、東京都庁からの直線距離に換算すると、だいたい

  • 97マイル(≒156km):
    静岡(142.8km)・長野(172.8km)
  • 156マイル(≒251km):
    福島(238.9km)・富山(249.4km)・名古屋(259.1km)

レベルに相当します。大陸で国土が広いとはいえ、えぐい。

データ出所:都道府県庁間の距離|国土地理院

8.「SAPPORO 1972」で問題拡大

1972年、札幌冬季五輪が開かれると、「7000万ドル」というその開催費用が部外者の関心をも集め、デンバーの問題に拍車をかける。

高騰する費用に、IOCのブランデージ会長(当時)も「今後、これだけの費用をかけて冬季五輪を開催しようという都市が出てくるのか」と疑問を表明。

ちなみに1972年当時、夏季と比べて冬季五輪の参加国数は3分の1、参加者総数は7分の1だった。

9.大甘の予算見積もり

デンバーの計画サイドは3000万ドルでやれると主張する。

しかし1972年1月の時点で、組織委員会(DOOC)は施設(facility)ひとつ建てず、委託先(contractor)ひとつ契約せず、既に110万ドルを使ってしまっていた。

Jackson議員はこう糾弾する。

「その110万ドルで組織委が手に入れたのは、開催都市の権利だけ。用地、施設、交通網の整備にはびた一文使っていない」

「他の開催地の出費が10倍20倍になっているのに、コロラドがそんな金額でやりくりできるなんて思うのは妄想(unrealistic)だわ」

10.「泥縄」のコスト削減

1972年も半ばに入ると、Jackson議員の指摘どおり、デンバー組織委の見積もり額が実際のコストより大幅に不足していることが明らかとなってきた。

5月、組織委は「コースの安全に万全を期する(issues securing a suitable course)ため」、4人乗りボブスレーの開催中止をIOCに正式に要請する。実のところは「安くあげる(suitably cheap)」ってことなのだが。

これにはイタリアのボブスレー連盟代表がキム兄ばりに激怒。

「は?(おのれの不手際は棚に上げて)4人乗りなしで? 考えられへん!(unthinkable)」

組織委の「場当たり体質」も露呈

この時点ではっきりしたのが、組織委員会の「場当たり対応(scrambling to make things work)」体質。施設は「8割方仕上がっている(80% in place)」って、招致のときは言ってたのに。

1971年には、招致を確実にするため「ちょっと盛りました(We lied a little)」とコロラド州副知事が認める始末。

全然、アンダーコントロールじゃなかった。

11.「コンパクト」も嘘

ほどなくして、いわゆる「コンパクトな五輪(economical Games)」も、招致に勝つために必要な「小さな嘘(the "little lie")」のひとつだったことがはっきりしてきた。

資金繰りプランにも疑問符

1972年、特別課税あるいは公金支出を明確に禁じることにする州法改正案が提出される。阻止したい組織委員会(DOOC)はデンバー開催の支援につなげようと、その是非を問う住民投票を辛うじて開くことができた。

DOOCの言い分は「あと400万ドルだけ必要(only needed another $4m)」だったが、それまで使ってきたであろう金額にさえ全然届かない。

連邦政府は既に納税者の資金(要は税金)から1550万ドルを拠出済み。AP通信のレポートによれば、それでもなおデンバー五輪の成功に必要な金額には「全然足りないだろう」。

DOOCは400万ドルという数字が過少であると認めたが、残りは大会の運営収入(operating revenue)とテレビ中継のライセンス料でまかなえるという。

住民投票実施の支持者も、五輪開催の費用は最終総額で1億1000万ドルにのぼるだろうと議論していた。

12.「大甘見積もり」の伝統芸

実は、オリンピック開催都市が当初の段階でそのコストを過少に見積もるのは、デンバーが初めてではない。

「The New Republic」誌1972年の記事によれば、

◆米カリフォルニア州・スコーバレー(1960)

税負担額

  • 当初想定:100万ドル
  • 実際の額:1350万ドル

◆フランス・グルノーブル(1968)

  • 総費用:2億5000万ドル
  • うち、税負担額:5000万ドル

負担する債務の増大により、グルノーブル市は資産税(property taxes)を125%引き上げている。

ある意味伝統芸である。

また、施設の残存価額も高く見積もりがち。

スコーバレーの会場使用地は州によって売りに出されたが入札はわずか1件、金額はたった2万5000ドルだった。

13.コロラド州住民、五輪開催に「ノー」の意思表示

オリンピック問題が「燃料」となり、1972年の選挙は75%を超える記録的な投票率となるだろう。州の選挙関係者はそう予測した。

そして一般コロラド州民は、改正法案を圧倒的に支持した。五輪の開催拒否に有利に働く方向への改正である。法案は住民投票で6割以上(over 1.5 to 1)の支持を得て可決された。

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Ludington Daily News(1972/11/08付)|Google news

デンバー市レベルでも同様の住民投票が行われ、同じく「改正を支持」の結果となった。

これで公金の支出は事実上停止されることとなったが、民間の出資者がデンバーオリンピックに資金提供する分には差し支えなかったので、事業担当者はあくまでも「五輪開催」を守ろうとした。

だが、他のオリンピック開催都市がどれだけ多額の負債を積み上げたかを十二分に知ると強硬派もなりをひそめ、住民投票から1週間後、五輪組織委員会はデンバーでの冬季大会開催を公式に撤回する。

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Beaver County Times(1972/11/15付)|Google news

(囲み枠内を引用)

The DOOC was forced to relinquish the games because of an overwhelming vote by Coloradans Nov 7 not to spend further tax money on the 10-day sports event.

【拙訳】
10日間のスポーツイベントにこれ以上税金を使わせない―コロラド州住民による11月7日の圧倒的な投票結果により、DOOC(デンバー五輪組織委員会)は冬季大会開催の断念を強いられた。

14.唯一無二のパイセン

今日に至るまで、デンバーは招致したオリンピックの開催を拒否した唯一の都市である。

2009年、Lamm氏は地元紙ColoradoDaiLY.comのインタビュー記事においてこう述懐した。

「デンバーの組織委が抱えた問題は、彼らの対応能力を超えていた(in way over their heads)」

「ベネフィットを過大に、コストを過少に見積もっていた。ざっくり言えば、あのときコロラドは適切な数値を把握していなかったし、底知れない額の超過コスト分(dramatic cost overruns)の資金調達を間違いなく迫られるだろう(very much liable to have to fund)と思い知らされたわけだ」

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Dick Lamm(2014) from blogs.denverpost.com; Boulder Daily Camera/ Mark Leffingwell

補足

ヘッドライン画像を載せた前記2つの新聞記事を読み進めると、実に味わい深いです。

  • 「オリンピック開催」の支持層
  • 住民投票に敗れた推進派のコメント
  • その後の行動

どれもがまるでテンプレどおりだからです。

15.変わったのは金額のケタだけ

以来、違いはといえばミリオンズ(millions, 100万単位)がビリオンズ(billions, 10億単位)になっただけだ。

開催費用の予実比較

◆バンクーバー(2010)

  • 当初の公称:5億5400万ドル
  • 実際:最終的に、少なくとも10億ドル

◆ソチ(2014)

  • 当初の公称:120億ドル
  • 実際:230億ドル~510億ドル(合計算出方法による)

16.都市と諸国のオリンピック離れ

収入格差の解消が世界的に一段と重要な問題となるにつれ、開催希望国がオリンピック招致を慎重に検討するようになってきた。

2022年の冬季大会開催地として望ましいのはノルウェーかスウェーデンあたりだろうが、いずれも立候補を取り下げ、招致合戦からは撤退している。残っているのはアルマトイ(カザフスタン)と北京(中国)。気候といい設備といい、どちらの都市も冬季競技の開催に理想的な土地だとは言えない。

米国五輪委員会が2024年夏季大会の招致都市に指名したボストンも、その出費をめぐり、市民による大規模な反対運動が見られる。

補足

のち、ボストンは招致を断念しています。

参考記事:“費用オーバーに税金使えない”ボストン、24年五輪招致断念 「市民の完勝」と現地誌|newsphere.jp(2015/07/31付)

17.総括:デンバーの教訓

IOCとオリンピック村(IOC and the Olympic community)的には、デンバーがオリンピックを拒絶したことは開催都市の名誉を永久に傷付けるものだったかもしれない。米国にも悪い影響はあっただろう。

実際、2018年冬季大会にデンバーが立候補しかけると、米国五輪委員会(USOC)は2016年のシカゴ招致に集中するためとして却下した(結果的にシカゴ招致も失敗)。

だが、1976年デンバー大会の提唱こそが大失敗(the disaster)であり、また、他の数多くの五輪開催都市に降りかかった財政的惨事(financial catastrophes)が何かの暗示(any indication)であるならば、今日のデンバーっ子(Denverites)は、自分自身を自ら救済せずに済んでよかったと、先人に感謝してもいいだろう。

まとめ

当代の奇才お2人のツイートを借り、まとめに代えさせていただきます。

いろいろ込みで、本当にありがとうございました。

from Tokyo 2020 team celebrates their election|Olympic.org(2013/09/07付)

あとは森喜朗さんへ、2020年の後始末の件、各国へ根回しのほど切にお願い申し上げます。殊にイスタンブール・マドリード・リオデジャネイロ方面の各位には、くれぐれもよろしくお伝えくださいませ。

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まさに、2016年は「いまココ」ですね。

おわり

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