ハンガリーまで「逃げ恥」を追った話

こんにちは。好きな恋ダンスは恭兵柴田の走り方です。

ざっと検索したところ誰もネタバレさせていないようなので、書いておきます。

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調査結果:Executive Summary

Szégyen a futás, de hasznos.

『逃げるは恥だが役に立つ』のヒットですっかりおなじみとなったハンガリーのことわざについて:

  1. 2012年、新連載のタイトルを探していた『逃げ恥』作者の海野つなみさんが、NAVERまとめの世界のおもしろことわざ名言集から取った説が濃厚です。
  2. 恐らく海野さん(または編集の方)が、日本語訳を「逃げるのは―」から「逃げるは―」に変えました。
  3. ハンガリー語でもそこそこ使われているようです。
  4. 2009年に、既にハンガリーで「二次創作」が出ていました。

タイトル表記について

当記事では、ハンガリーのことわざを「逃げ恥」、コミックスおよびそのドラマ化作品を『逃げ恥』と表記します。どうぞよろしく。

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0.『逃げ恥』の登場(2012)

『逃げ恥』の掲載誌は講談社「Kiss」です。

連載スタートは2012年の22号(11月9日発売)です。

海野つなみ新連載「逃げるは恥だが役に立つ」Kissで開幕|コミックナタリー(2012/11/09付)

その表紙画像です。KISS(キス)11/25号|Fujisan.co.jp より

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待望の
新連載
開始!!!!

海野つなみ[逃げるは恥だが役に立つ]

1.『逃げ恥』タイトルの誕生(2012)

発売2日後には、作者の海野さん自身がタイトルの由来を明かされていました。

2015年のインタビューによれば、

普段の妄想で考えてるネタをいくつか話してる中に、契約結婚の話があったんです。そんななんとなくな感じで始まったんですけど、

出典:海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」インタビュー(1/5)|コミックナタリー(2015/12/11付)

──最初はラストも考えていなかった?

最初は決まってなかったですね。

出典:同(2/5)|コミックナタリー(2015/12/11付)

という状態でタイトルをつけたことになります。

では、海野さんはこのことわざをどこでどうやって知ったのでしょうか?

結論から述べると、このページがネタ元である可能性が濃厚です。

2018-01-17_2116

世界のおもしろことわざ名言集(naochiss)|NAVERまとめ(2012/03/15付)より

まとめが作成された時期も整合が取れます。

また、まとめ中の「逃げ恥」の出典として示されていたのは、2006~07年のこちらのアーカイブです。

2018-01-17_2105

世界のことわざ・名言 アーカイブス|eigo21.com

原語表記も載っていますね。

根拠

海野さん、上記のまとめページ見て「逃げ恥」をタイトルにしたんだろうなーとは思います。思いますが、その確証までは得られていません。

根拠の段になって言い訳めいて恐縮ですが、以下の情報からその蓋然性が高いと推定したものです。

それまでハンガリーとの接点は特になかったのだろうなと感じました。
これは完全主観。

次に、2017年のインタビューでの海野さんの発言です。※下線は引用者

……本作を描くのに苦心された点はどのあたりですか?

何かと言うといろいろ調べものが多かったですね。なんだかずっと調べものをしていた気がします

最初はインターネットで調べてみるのですが、

出典:『逃げ恥』原作者・海野つなみインタビュー【前編】ページ4|otoCoto(2017/03/13付)

タイトルづけも同様のスタイルで臨んだものとし、「契約結婚の物語」である新連載に『逃げ恥』のタイトルが与えられるまでのプロセスを復元してみると、

  1. 何らかの経緯で「ことわざ」にしようと決まった
  2. タイトルに使えそうなことわざを、最初はインターネットで探した
  3. そして上記ページにたどり着いた
  4. なんやかんやあったりなかったりを経て
  5. 「逃げ恥」採用

と考えて、特段の破綻は生じません。加えて、これより無理のない推定も自分の力ではひねり出せません。

たとえば、もし『世界のことわざ集』的な書籍で見つけたのならば、これもあくまで感覚的な話ですが、

こういう書き方にはならない気がします。

自分だったら「ことわざ集をめくってたらハンガリーで見つけました。」ぐらいになります。根拠にはなりませんが。

なお、Wikiquoteに「ハンガリーの諺」というページもありますが、各種情報のだいたいのところを信用して総合すれば、海野さんがこのWikiquoteページから選んだということはありえません。変更履歴によると、この項目ができたのは2014年(2月1日)ですので、『逃げ恥』連載開始よりもあとです。

そんなところで結論づけました。

タイトルロゴについて:コミックス版 VS. ドラマ版

つなみに、『逃げ恥』のタイトルロゴにも「Szégyen a futás, de hasznos.」のハンガリー語表記が入っていますね。

逃げるは恥だが役に立つ|kisscomic.comより

「逃げるは」と「恥だが役に立つ」のあいだにあります。

さらに余談となりますが、『逃げ恥』コミックスの装丁デザインは、小室杏子さんによるものです。
『逃げるは恥だが役に立つ』装丁も手がけたデザイナー・小室杏子さんに、ブックデザインのお仕事の秘訣をたっぷり聞きました!|コルクのブログ(2016/08/19付)

ドラマ版『逃げ恥』(2016)のロゴも、コミックス版を踏襲したスタイルなんですが、まん中の原語表記の部分が変わっています。

20180117_ogp

www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/ より

「We married as a job!」と、サブタイトル的な内容の英語表記に差し替えられていますね。より多くの衆目にさらされますから、ベタへ振る判断をしたんでしょうかね。知らんけど。

コミックス版『逃げ恥』のタイトルロゴの話に戻りますと、連載開始直後、単行本第1巻の刊行前の段階で作っていたようです。マンガ業界の事情に疎いのでそういうもんだと受け取ります。

Twitterに連載第3回目の扉画像がありました。

告知のタイトルミスってるって指摘されていましたが。

間違われた方が気を遣っていたという不条理もありつつ、続けます。

2.「のは」から「は」への変更(2012)

大半の人にはたぶんどうでもいいことなので誰も書いていないんだと思いますが、私にとってはとっても重要なのでここで書きます。ただし、あくまで推測です。


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先ほどの「世界のおもしろことわざ名言集」のまとめを思い出してください。

再掲します。よく見てくださいね。

逃げる「のは」恥だが役に立つ、です。

こっちも。

これらの「の」を取ってタイトルを『逃げるは―』にしたのは、海野さん、または担当編集者の鎌倉ひなみさんである可能性が非常に高いです。というのも、『逃げ恥』より古い「逃げるは」の用例が見つかっていないからです。

また、「逃げるは―」にした方が音のリズムもいいですよね。

くり返しますが、あくまで推測です。担当の鎌倉さんとのエピソードがいろいろ載っていた『逃げ恥』原作者・海野つなみインタビュー【前編】|otoCoto(2017/03/13付)にも記載はありませんでした。

今後覆される文献資料が見つかれば訂正します。情報お待ちしております。

3.ハンガリーの「逃げ恥」たち(2006-2018)

そもそも、ハンガリーの人は本当に

Szégyen a futás, de hasznos.

を知っていて、さらに実際使ってもいるんだろうか。ネットの内外ともにフェイクであふれる昨今、念には念を入れておこうと捜してみました。

結論を書くと、実際「使われている」として問題ない程度の量で用例がヒットしました。いくつか、拙訳とコメントを付けて紹介します。

まず、記事タイトルにまんま使われた例。

Szégyen a futás, de hasznos(MIKLÓSNOVÁK)|Magyar Nemzet(2006/02/21付)

【拙訳】逃げるは恥だが役に立つ。

本文をChromeで英訳させて読んでみると、フットボールの協会人事で何やらもめていたようです。そんな次元でのもめ事からは逃げてしまうのが、恥だけど役に立つよねといった趣旨なんでしょうか。

次も「逃げ恥」まんま事例。

Tényleg igaz, hogy: szégyen a futás de hasznos?|gyakorikerdesek.hu(2008/11/06付)

ハンガリーのYahoo!知恵袋、かは定かでありませんが、Q&A形式の掲示板でした。

Tényleg igaz, hogy: szégyen a futás de hasznos?

【拙訳】本当に「逃げるは恥だが役に立つ」の?

まんまの質問です。ネット掲示板にこういう書き込みが出るほどに、「逃げ恥」はハンガリーの人口に膾炙していると判断してよさそうです。

で、もっとも支持スコアが高かった「ベストアンサー」がこちら。

Egyszer hárman mentünk az utcán, a kocsmából pedig tízen kijöttek, és megakartak verni minket. Mi pedig inkább elfutottunk, hasznos volt.

【拙訳】前に3人で道を歩いていたらパブから10人出てきて殴りかかってきたことがあった。だから逃げた。かなり役に立つ。

なるほど。

「まんま」でなく、一部の文句をアレンジさせたパターンもそこそこありました。ハンガリー語の「futás」は、英語の「run」と同様に「逃げる」と「走る」のどちらの意味でも使えるようで、そこにひっかけた例が目立ちました。

以下の拙訳では、両者をかけてるパターンは「ラン」と訳しています。

【拙訳】ランは恥ではなく、カルチャーだ。

スポーツのランニングの話です。

Webサイトにもこのパターンは見られます。

Nem szégyen a futás!|www.szentistvanisk.hu

【拙訳】ランは恥じゃないよ!

サッカーで言うところの「ボールはともだち」ですね。

【拙訳】逃げるのは、恥ではない。

海軍出身キャラのコーチが指南していました。

【拙訳】逃げるのは恥ではないが、次に備えるための手段でなければ、それは無意味だ。準備せよ。

ここだけの話ですが、Twitterから見つかったハンガリー語の「逃げ恥」のほとんどが、日本語ツイートの文中に出てきました。

ノイズなんだよ!と陰で毒づいておきます。

4.『逃げ恥』以前の「二次創作」(2009)

という具合ですから、『逃げ恥』以前の2009年に、既にハンガリーで「逃げ恥」の「二次創作」が出ていました。

Galambos Ádám『Nem szégyen a futás, de hasznos – Gyakorlati tanácsok futóknak, kidolgozott edzéstervekkel』(2009)|bookline.hu

メインタイトルの拙訳は、
『ランは恥でなく、役に立つ』です。

副題も訳してみましょう。

Gyakorlati tanácsok futóknak, kidolgozott edzéstervekkel

【拙訳】走力レベルに応じた実践的アドバイス

とでもなるでしょうか。

「逃げ恥」二次創作が薄い本かどうかは、調べてません。

ひとつ豆知識。

ハンガリーでは日本と同じ姓名の順で名乗ります

なんでそうなのかは、ハンガリーの姓|Yahoo!ジオシティーズの説明が詳しかったです。

以上、ハンガリーまで「逃げ恥」を追った話でした。

続編の予定はありません。あしからず。

おわり