驚いた。国の基準では、出張も「観光」だぞ。

こんにちは。用件は上のとおりです。

官僚の手にかかると、ときに日常語ですら難解な用語と化してしまう、そんな話です。

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要約:Executive Summary

国(正確には、観光庁)による「観光」の定義を素直に読めば、仕事での出張も観光になります。

旅行の目的に「ビジネス」が入っているからです。

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変なの。

奇妙な「観光」との出会い

以下に、世にも奇妙な「観光」との出会いまでを記します。

ミニ調査:京都の年間観光客数は?

原稿に「京都の年間観光客数」を入れたくなり、Googleで検索しました。

新聞社サイトのWeb記事に答えが

FAQだったらしく、Google「先生」は既に囲み情報を用意していました。

京都市は18日、2013年の市内観光客数が5162万人となり、5年ぶりに過去最高を更新したと発表した。

京都市の観光客最多 13年5162万人、円安で外国人増加|日本経済新聞(2014/06/19付)

ほかにも同様の記事がありました。見出しだけ並べます。

京都市の元ネタ文書

私は出典マニアなので、より原典に近い情報を求めます。

検索結果の中に、情報を発表した京都市産業観光局のPDF文書もありました。

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京都観光総合調査 平成25年(2013年)(PDF)

はじめから目を通していきます。

「観光客」の斬新な定義

いきなり「ん?」となりました。冒頭の「観光客の定義」にこう書いてあったからです。※下線は引用者

観光客とは,市外在住で通勤,通学以外の目的で入洛した人を指し,仕事,買物の目的で入洛した人を含みます

へぇ、仕事目的も含めちゃうんですね。

私も2013年当時は会社に属していて、商談で何度か京都に足を運びましたが、その分も5100万人余りの中にカウントされている格好になります。

斬新な考え方です。

私、一昨年の京都の観光客だったのですね。知りませんでした。

そういう数字だと、使う際には注意が必要です。

ついでに:「入洛」?

ついでに、本題と関係なくザワつくとこを片づけておきます。

京都にやってくる人を指して「入洛した人」と書いています。わしゃ木曾義仲か。

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from commons.wikimedia.org

もしかすると、「入洛」の読み方も、今様の「にゅうらく」ではなくて、平家物語感覚の「じゅらく」なのかもしれません。

参考:weblio古語辞典「入洛

国の基準があるようだ

それはさておき、「京都観光総合調査」内の「観光客数調査」には、こうありました。

観光客数については,「観光入込客統計に関する共通基準(平成21年12月観光庁策定)」に基づく手法により調査し,各月及び総数を推計しています。

観光庁の定めた統計基準があるようです。そいつをあたることにします。

観光庁の基準

観光庁(mlit.go.jp配下)のサイトに文書がありました。

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観光入込客統計に関する共通基準(PDF)(2009/12策定、2013/03改定)

斬新な「観光」の定義

「2-1 用語の定義」での「(1)観光」には、こう書いてありました。※下線は引用者

本基準では余暇、ビジネス、その他の目的のため、日常生活圏を離れ、継続して1年を超えない期間の旅行をし、また滞在する人々の諸活動とします。

旅行・滞在の目的に「ビジネス」が入っています。

京都市の独自基準ではないらしいとわかりましたが。

が。

が。というか、この定義なら、仕事で旅行・滞在する人の活動も「観光」に入りますから、出張のビジネスマンも「観光客」です。

さらに言えば、野球・サッカーなどプロスポーツの外国人選手・監督・スタッフまでもが「観光客」になってしまいます。

びっくりです。

なんだそれ。

観光庁の「観光」偽装問題を考える

この「観光」の定義、私自身はものすごく気持ちが悪いです。

ビジネスは「観光」じゃないです。

私の感覚で言えば、観光庁の基準は、観光でない「別もの」を一緒に混ぜて「観光」にしている、観光のかさ増し偽装表示です。

私の「観光」

もし私が、基準での言い回しを借りて定義するなら、「観光」の定義はさしずめこうなります。

  • 日常生活圏を離れて移動する人の行う諸活動のうち、業務でないもの

くり返します。ビジネスは観光じゃないです。

確認:国語辞典の「観光」

国語辞典で「観光」はどう説明されているでしょうか。いくつか見て確認しておきましょう。

コトバンク > デジタル大辞泉 > 観光とは

他の国や地方の風景・史跡・風物などを見物すること。

三省堂Web Dictionary > 観光

風景や名所を見物すること.

いずれも、おおむね私の感覚と合う、しっくりくる解釈です。

ただし、ネット等での用例を見るに、近年では加えて「陶器作り」「そば打ち」といった体験型イベントもまた「観光」の範疇に入っているようです。

広辞苑(第五版)

一方、広辞苑では、

他の土地を視察すること。また、その風光を見物すること。観風。

「視察」という、「見物」よりもビジネス寄りの語感のする言葉も使っています。

ですがまあ、総じてあまり「業務」のニオイはしません。

検討:観光庁はなぜ、ビジネスも「観光」にしているのか?

さて、観光庁はなぜ、私に言わせればキテレツな定義の「偽装観光」を、「観光」としているのでしょうか。

言いがかり的決めつけ

根拠のない100%邪推の説ですが、答えは簡単です。

予算を多くぶんどるためです。

「観光」の意味を、国語辞典が述べるような日常語の範疇に限定して「ビジネス」部分を外してしまうと、経済産業省に管轄を取られます。さらに、ある特定分野の事業ならば、農林水産省、厚生労働省、文部科学省、総務省、警察庁etc. に権限(と、うま味)を取られてしまいます。

観光庁・国土交通省としてそれは避けたい。むざむざ省益を減らすようなまねはしたくありません。

ということで、「観光立国」と大きく出ておいて、こっそり「観光」のなかにあれこれ混ぜ込む。

総論では文句を言いづらい大きな看板を出して、目立たないところで「それ違うでしょ」というものも忍ばせるのは、官僚たちの伝統芸、常套手段です。

「官僚あるある」に基づいて、官僚的な発想をしてみると、こんなところではないでしょうか。

完全にクソ庶民の邪推なので、違っていても説明しにこなくていいです。

「観光」に代わる用語の検討

ビジネスでの旅行・滞在を含めて「観光」と称するのは、不適切に思います。ラベリングのエラーです。

ビジネスも込みで定義したいなら、「観光」ではない別の言葉にしてほしいです。

良案が見つからない

しかしながら、対案を示そうにも、基準で言うような

  • 移動を伴う、人のあらゆる活動
  • ただし日常生活圏での活動(例:通勤・通学)は除く

をひと言で言い表せるいい言葉は、なかなか見つかりません。

  • 「旅客」というと通勤・通学も含まれるし、
  • 「旅人」というと、路線バスに乗る蛭子能収さんとか、途中下車する舞の海さんのことだし。

困りました。

「ビジター」でよくね?

困ったときにはアメリカの動向を参照するのが、官僚的発想です(適当)。

NYC statisticsでは、

Visitors (international and domestic) to New York City in 2013:
54.3 million

となっています。

まねして、「ビジター」でいいんじゃないの?

カタカナ語を避けるなら、訳して「訪問客」ぐらいでしょうか。

まとめ

観光庁のいう「観光」には、出張・視察など、ビジネスで発生する人の動きも含まれていることがわかりました。

クソ庶民の私には気持ち悪いですが、そういうことになっています。

この点、観光庁が一枚噛んでいそうな統計や、それに基づく報道に接する際に心得ておく必要があります。

国のお役人にとって、出張と観光の2つはさして差がないから、違和感を覚えないのでしょうかね。

と、最後は安い官僚批判でしめくくってみました。

次回予告:意外な結末

さらに調査を進めてわかったのですが、本件は、上で書いたような安い官僚批判をして溜飲を下げておけば済む案件ではありませんでした。

「観光」の基準がこんなことになっているのは、縦割り官庁の縄張り争いに原因を求めるような低劣なレベルの話ではなく、大げさに言うならば、近代になって西洋から流入した新しい概念(ここでは「観光」)の「受容」と「記述」の問題だったのです。

つづく

コメント

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