2022年の地味すぎる急上昇ワード「元旦2日目」の話をしよう

2022年の年頭から、ネット世間は相も変わらぬ地獄ぶりでした。やれ元旦は1月1日のああだとか、旦の字の横棒の意味はこうだとか。毎年くり返される不毛なマンスプレイニングにもう飽き飽きです。

また不毛な元旦うんちくかよとなってしまったそんなあなたに本日ご紹介したいのは、とってもクリエイティブな日本語、「元旦2日目」です。いやー実に新しいですね。といってもTwitterでの用例は遅くとも2010年からありましたけれど。

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※写真と本文は関係ありません

「元旦2日目」ブーム到来の予感

実は「元旦2日目」、地味に地味すぎる急上昇ワードなんです。

Twitterで1月2日に「元旦2日目」が何回ツイートされたか、過去4年分を大ざっぱに数えてみました。結果は次のとおりです。大ざっぱなカウントなので10の位までで示します。

1月2日の「元旦2日目」ツイートの回数

  • 2018年(火) 40回台
  • 2019年(水) 20回台
  • 2020年(木) 50回台
  • 2021年(土) 30回台

それが2022年の今年はなんと!

  • 2022年(日) 160回台

過去4年分全部合わせた数よりも多いのですよ。驚きました。でも地味~

そしてこちらは、2022年1月2日午前0時を過ぎて最初にTwitterに届いたと認められる「元旦2日目」のみのツイートです。

おめでとうございます。2022年、元旦2日目の「一番福」です。

この「元旦2日目」チャレンジ、近年はコロナ禍の影響もあって見送られている西宮神社の福男選びに代わって、新たに福をもたらすイベントとされています(いません)。

どうですか、ブーム到来の予感がしませんか? しませんかそうですか。

この記事では「元旦2日目」急上昇の秘密、さらには「元旦2日目」自身の謎へと迫ってまいります。

この記事で言いたいこと:Executive Summary

  1. 「元旦2日目」は、2022年の地味すぎる急上昇ワードです。
  2. 急上昇の要因にあのコラボイベントが関わっていそうです。
  3. 「元旦2日目」の意味は、最低4種類あります。
  4. 一見アホっぽい「元旦2日目」ですが、検討すると筋の通った日本語でした。ありです。

1点目は冒頭で既に述べました。以下、2番目の話から続けます。

拡散要因は2021年のコラボイベント?

なぜ2022年になって「元旦2日目」使用例が急増したのでしょうか。今年の2日目が日曜日だったから? それほど関係ありそうな気がしません。

検索でヒットした年頭の160あまりの「元旦2日目」ツイートを眺めていると、その一部がある「書式」に従っていることに気づきました。“元ねた”がわかりやすかったものがこちらです。

「エイプリルフール2日目」。ナンセンスで面白いですね。

こちらがその発信源だったもようです。

全貌はわかりませんでしたが、総合すると2021年4月の「エイプリルフール限定イベント」が好評につき延長となったことから「エイプリルフール2日目」が生まれたって話と理解しました。

全部ではなくとも、2022年の「元旦2日目」急増をもたらした要因の一端であると言ってよさそうです。

元旦2日目の多世界解釈

ところで皆さんは、「元旦2日目」を何とおりの意味に解釈できますか?

私は4通りでした。うち自身で想定できたのが3つ、想定外だったのが1つです。

次の順に「元旦2日目」の多世界解釈を切り分けてまいります。

  1. 複数形;元旦と2日目
  2. 単数形;元旦の2日目
  3. 単数形;元旦から2日目
  4. 単数形;元旦が2日目

複数形2daysの「元旦2日目」

最初に、複数形と読む解釈を取り出します。すなわち「元旦2日目」とは、「元旦」と「2日目」の合計2デイズであるとの解釈です。

歌の文句で言えば、

十五、十六、十七と
私の人生暗かった

――《圭子の夢は夜ひらく》(1970)

圭子の夢は夜ひらく
藤 圭子
¥255

のような列挙パターンですね。この例なら、人生暗かったのは足かけ2年ないし3年です。

ですから表記的には、「元旦2日目」も元旦と2日目の間に「、」「,」「・」みたいな区切り符号か、せめてスペースを入れておいてほしいところです。とはいえ「元旦2日目」表記のままでも「元旦&2日目のツーデイズ」の意味に読むことは可能です。少ないながらそう読める用例も実在しました。

このツイート主が用意するのは、元旦と2日のお雑煮だと解釈できます。

「元旦の2日目」―集合論的解釈

しかしこの用例はどうでしょうか。

「元旦2日目の日曜日」となってますんで、明らかに単数ですね。それに「エイプリルフール2日目」のように面白がって使っているふうでもありません。

「元旦2日目」を特にふざけもせず普通のマジに使っていると、一見アホっぽく見えます。実際元旦2日目ってなんなの?的トーンのツイートもありました。

先に結論を述べると、偏狭なものの見方です。


なぜ「元旦2日目」が一見アホっぽく見えるのでしょうか。

アホっぽく見る側が、「2日目」を集合「元旦」の一要素=部分集合と解釈しているからです。

たとえば「撮影2日目」「テスト2日目」「出張2日目」「大相撲初場所2日目」、まあなんでもいいんですけど、このパターンの「2日目」はいずれも、前に置いた「ほにゃらら」に属します。複数日にまたがる日程のうち、day#2 あるいは the 2nd dayぐらいの意味ですね。

この「ほにゃららに属する2日目」パターンの解釈を、当記事では集合論的解釈と呼ぶことにします。「ほにゃらら2日目」とされた2日目がほにゃららの部分集合に該当するからです。2日目はほにゃららの一部です。

数学的タームを多く混ぜて言い直すと、集合論的解釈におけるほにゃらら2日目とは、期間として自然数n日間(n>1)連続(または不連続)する「ほにゃらら」の部分集合です。そして世の中の「ほにゃらら2日目」の大半は、この集合論的解釈が成り立ちます。

では「元旦2日目」とは、集合論的な2日目なのでしょうか。いいえ。集合論的2日目と解釈するのは無理があります。

日を単位とするならば、周知のとおり「元旦」とは単数です。元旦とは1月1日のみを指す単数ですし、1年スパンで考えると元旦は年に1日だけですから、2日目が続くこともありません。元旦が連続する日数nは通常1なので、前掲の条件(n>1)にも反します。

※ただしトリッキーな例外として「n年分の元旦を数える」みたいな形での2日目ならありえます。それでもn年分の元旦の集合に属する(2番目の)一要素を指したいのならば、「元旦(の)2日目」より「2年目の元旦」とする方が自然でしょう。

そこで次の解釈です。

「元旦からたどって2日目」―グラフ理論的解釈

「元旦2日目」を「元旦からたどって2日目」とする解釈も可能です。

このパターンをグラフ理論的解釈と呼ぶことにします。

この解釈では、「元旦」「2日目」のどちらもノード(点)です。「元旦2日目」とは、2つのノード(点)を1つのエッジ(線分)で結んだ表現です。こんなイメージです。

(元旦)→(2日目)

不可逆的なので有向グラフで表してみました。無向グラフの図示でもいいかなとは思います。ともかく比喩として持ち出しているので理論の側へはこれ以上深入りしません。

集合論的2日目の場合と違い、グラフ理論的2日目の2日目は元旦に属さず、互いに別々の存在です。ともに独立したノードなのですから当たり前です。

このようなグラフ理論的解釈が成立する「ほにゃらら2日目」は日本語ボキャブラリーの中に実在するのでしょうか。結論から言えば、あります。「元旦2日目」もその一例だということです。

簡易的振り分けテスト:入れ替え法

集合論的2日目もグラフ理論的2日目も、日本語での語形はどちらも「ほにゃらら2日目」です。

両者の見分け方として簡易的ながらそこそこ汎用性のある方法は、「語順を入れ替えてみる」です。

テスト手順です。

「ほにゃらら2日目」を「2日目のほにゃらら」の形に入れ替えます。

入れ替えた「2日目のほにゃらら」を判定します。

  • 意味的に成り立つなら、集合論的2日目です。
  • 成り立たないなら、グラフ理論的2日目です。

たとえば

  • 「カレー2日目」は集合論的2日目です。「2日目のカレー」が実存として成り立つからです。
  • 「正月2日目」も集合論的2日目です。「2日目の正月」が実存として成り立つからです。言い回しとして多少不自然ですが、意味は通じます。
  • 「元旦2日目」はグラフ理論的2日目です。「2日目の元旦」が実存として成り立たないからです。

「元旦2日目」が「あり」となるしくみ

大ざっぱな一般法則に還元すると、

  • ほにゃららが「何かの起点となるワード」であるとき

これがグラフ理論的「ほにゃらら2日目」の要件(のひとつ)です。元旦2日目もこのパターンです

「出社2日目」VS.「入社2日目」

いろいろ検討してみていちばん違いがわかりやすかったのは、出社と入社のペアです。語順を入れ替えてテストしながら確認します。

  • 「出社2日目」は、集合論的2日目です。「2日目の出社」が成り立つからです。その人が職場へ出勤する勤務形態ならば、出社とは勤務のたびに毎回くり返す行為です。
  • 「入社2日目」は、グラフ理論的2日目です。「2日目の入社」が成り立たないからです。入社とはある一時点(通常1日目またはそれ以前)に1回のみ行うことであって、連日くり返す行為ではありません。

そして「出社2日目」「入社2日目」のどちらも、表現としてごく自然です。

ノード間は独立だが「気分」は受け取る

一般則と呼べるほど強い要件ではなさげですが、

  • 起点から何かしらの「気分」がノード間で伝わる

ところに、グラフ理論的2日目が適用される傾向があるのかなとは感じました。

ヒントとなったツイートを2つ引用します。

ふむ。実存としての「2日目の元旦」が成立せずとも、元旦と寸分たがわぬ2日目がやって来た。まるでそう言いたくなるような朝だったってことですね。

なるほど。元旦や大晦日やクリスマスが持つ何かしらの縁起の良さをそれぞれ受け継いでの、2日目3日目9日目ってことですね。

どちらも勉強になる用法でした。

まとめると、「2日目の元旦」や「3日目の大晦日」は実存として成立せずとも、気分としてなら成り立ちます。たとえば旅行「気分」ならば、たとえまったく旅行しなくても味わえるのと同じです。

思い立ってツイート検索してみると「誕生日2日目」もたくさん用例がありました。一見アホっぽいですが、コンテキストをたどれば十分に筋の通った、理に適った表現です。

「年中オッケー」に検討の余地はありますが、「2日目」なら全然オッケーだと思います。

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ノードから「気分」を受け取った「接種2日目」

それで気がついたのですが、2021年から2022年にかけての「ワクチン接種2日目」の十中八九は、グラフ理論的2日目だと言えます。

なぜなら現今の社会通念に照らすと、今日びの「接種2日目」とは「接種から数えて2日目」が通常の解釈であり、「接種の2日目」ではないからです。文脈上「接種2日目」の主が接種を受けたのは当日のみであって、「当日に接種、2日目もまた接種」と解釈するのは無理がありすぎるでしょう。

何度もくり返していますが、「元旦2日目」もまた、「入社2日目」「接種2日目」と同じく、グラフ理論的2日目の仲間です。

もし「元旦2日目」になんくせつけたいのなら、入社とワクチン接種の2日目も否定してかからないと、筋が通りませんよね。

まとめ

日本語の場合、語形から要素同士の関係が読み取れるケースは相対的に少ないです。当記事で検討した「ほにゃらら2日目」もそうです。それは逆に言えば、同じ語形でも多様な読み方が可能だということでもあります。

「元旦2日目」になんくせつけられた時は、「何か問題でも?」と受けていったん相手の主張を確かめ、「なるほど。でしたらあなた、接種2日目にもワクチン打ったんですね?」とでも言い返しておけばよいでしょう。

ほんの一瞬ながら「元旦2日目ってなんやねん」と思ってしまった自身の浅はかさは棚上げしました。

4つめの「元旦2日目」

自身では思い至れなかった4つめの「元旦2日目」の説明をまだ残しておりました。それは「元旦」「2日目」両者が重なっているケースです。

元旦=2日目の関係です。言い換えると、「元旦に2日目」「元旦が2日目」となりましょうか。グラフ理論的に言えば、このパターンでの「元旦」と「2日目」は、単に呼び名が違うだけでどちらも同一のノードを指します。

具体例を示した方が早いかもしれません。こういうパターンです。

確かにそれも「元旦2日目」ですね。その発想はありませんでした。

ではまた来年、または来月、お目にかかりましょう。

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