【出典情報#3】すべての恋愛は多少なりとも人を賢くする(ロバート・ブラウニング)

2013年9月15日「あすなろラボ」での林修さんの恋愛論授業で使われた名言・格言の出典調査報告です。

ずいぶん前に情報をいただいていたのに、自身の怠惰のせいで久しく記事にできずにいました。

一覧はポータルページにまとめています。他の名言はそちらからどうぞ。

名言(整理番号 3)

すべての恋愛は多少なりとも人を賢くする

イギリスの詩人 ロバート・ブラウニング/Robert Browning(1812-1889)

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"Robert Browning" by George Frederick Watts / image from wikiart.org 

出典

詩劇『パラケルスス(Paracelsus)』(1835)です。

パートIIIのフェストゥス(Festus)のセリフに出てきます。

原文

archive.org にある『The Paracelsus of Robert Browning』(1911)という書籍を紹介していただきました。

フィーチャーされているパラケルススの人物像はじめ、著作の背景も含めた総合研究書でした。

該当する部分を、その前後と一緒に引用します。

Nought blinds you less than admiration will.
Whether it be that all love renders wise
In its degree; from love which blends with love —Heart answering heart — to love which spends itself
In silent mad idolatry of some
Pre-eminent mortal, some great soul of souls,
Which ne’er will know how well it is adored:

2014-08-15_0019

訳文に不満が

原文を知ると、「名言」として流通しているらしい訳文に不満が出てきました。対照してみると、英文読解の不得意な受験生の答案のように見えてくるからです。

どこが気に入らないかというと、まず、訳文に対応する原文表現が使われているのは、Whether it be that ~という仮定法の中であるにもかかわらず、「~であれ、(~~だ)」と続いていくはずの文脈を無視した切り取り方をしているところです。

それに、原文はin some degreeではないのに、「多少なりとも」と訳されているのも頭が悪いです。

原文は所有格の「In its degree」ですから、いろんなloveそれぞれの程度に応じて、といった意味合いです。それが訳に出ておらず、腹立たしいです。

さらに、ここでのloveを「恋愛」と訳しているのも頭が悪いです。ここのloveは恋愛以外の愛も含めた、もっと広義のloveを意味していると解せます。

総合すると、上の画像で赤線を引いた部分のみを正確に訳そうとするならば、

あらゆる愛は、その程度に応じて人を賢くすることがあろうとも…

といったニュアンスになります。

<試訳例>

前後も合わせた訳例を作ってみました。

敬愛する心こそが人を盲目にさせるのだ。

あらゆる愛、すなわち、恋愛と一体化した心に心が答えるような愛から、卓越した不朽の偉大なる魂といったものを偶像視して、ひそかにかつ尋常でなく崇拝してしまうことで使い果たすような愛に至るまで、人が愛それぞれの程度に応じて賢くなることがあろうとも、そうした愛がいかに適切であるかを知ることはない。

といったところでしょうか。

こういった文脈のパーツにすぎない一部分を切り取って「名言」に仕立てるのは、捏造に近い所業に思えます。

邦訳

あまりまじめに探していませんが、探した範囲では公刊された邦訳が見つかりませんでした。

エリザベスではなかった

番組では、ロバートの夫人である、エリザベス・ブラウニング/Elizabeth Browning(1806-1861)の言葉と紹介されていましたが、間違いです。

エリザベスはこの言葉を使っていません。たぶん、な。

もしエリザベス・ブラウニングによる用例をご存じであれば追記しますのでお知らせください。ロバートより先に使用していたことが確認できるものが実在すれば、訂正いたします。

謝辞

松原様より出典をご教示いただきました。ありがとうございます。

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