拾い読み「正社員」(1)―1920年, 1913年の新聞記事から

こんにちは。

この記事では、大正期における「正社員」の用例を2つ紹介します。

  • タイピスト(1920)
  • 活弁士(1913)

の「正社員」です。

「正社員」用例収集プロジェクト

きっかけ

『「正社員」の研究』(小倉一哉, 2013)を読んでいたら、こんなことが書いてありました。

朝日新聞の記事データベース「聞蔵II」で「正社員」を検索されたそうです。その結果からです。

初めて登場したのは1920年3月28日に、タイピストが団結し、官庁における「本官」または会社における「正社員」として、賃金等の待遇を向上する要求をした、という記事である。(p.25)

これが日本で最初の「正社員」に関する記事だと思われる。(p.25)

へー。そうなんだ。

調べてみた

そこで、自分も調べてみることにました。調査に使うのは、出不精で貧乏でどうしようもない出典マニアの強い味方、神戸大学附属図書館の新聞記事文庫です。

有料DBを利用するカネのない貧乏人のくせに図書館に向かう気力がないときにも、自宅で調べられて重宝しています。

1:タイピスト(1920)

新聞記事文庫で「正社員」を検索すると、『「正社員」の研究』で触れていたのと同じ集会の模様を報じる記事がありました。

2014-11-04_2341

役所では本官に会社では正社員としての待遇を与えよと決議した/タイピスト組合の創立総会|時事新報(1920/03/29付)

1920年=大正9年の記事です。

ピアノのキイを叩く如く、横文字、邦文字を音楽的に叩き出す職業のタイピスト、其タイピスト組合の発会式が昨廿七日夜六時から大手町私立衛生試験所て挙げられた、

会場の様子です。

何が仭[さて]、荒くれ男の職業と異って大部分は若くハイカラな婦人の事とて集まった千人の会衆の八分迄は若い婦人十八九から廿四五が最も多いから、近来流行の何々組合の集会よりも余程和か味と美し味が漂って居る

「正社員」はここに出てきます。 ※下線は引用者

二、雇主は人の職業に対する因襲的差別観を一掃しタイピストに就ては官庁は速かに本官に営利会社は速に正社員に其他は之に応ずる待遇向上の手続を取られん事を求

  • 「因襲的差別観」てどんなだろう?
  • 「本官」「正社員」に対置されると思われる、見習い・臨時職の当時の割合、呼称や待遇は?

とか、あちこち追求していきたいところですが、先へ進みます。

2:日本活動写真株式会社所属の弁士(1913)

『「正社員」の研究』では、1920年に開かれたタイピストの集会を報じる記事を、

日本で最初の「正社員」に関する記事と思われる。(p.25)

としていました。

残念ながら、違います。さらに古い用例がありました。こちらの記事です。

2014-11-05_0010

日活弁士の総辞職詳報△会社側の取扱に憤慨せる結果△昨日日比谷公園三橋亭に会合|読売新聞(1913/10/08付)

1913年=大正2年10月の記事です。

日本活動写真株式会社所属弁士森鴎光を初め市内各館の主任弁士四十余名は会社の取扱に対し不平を抱き一昨日午前八時より日比谷公園三橋亭に集合し連判状を作り左の決議を為して会社に提出せり

「正社員」がこう出てきます。

…別に要求事項を左の如く定めたり
一、日活所属の弁士は爾後正社員とすべし

2014-11-05_0023

7年さかのぼれました。

「正会社員」とも

また、

一、弁士を正会社員とする事但し其れは同盟会の推薦に依る

と、「正会社員」という用語も使われています。ただし新聞記事文庫でのヒット件数は、この一例のみです。

付記:読売新聞の記事DBは大丈夫か

先述の『「正社員」の研究』では読売新聞の記事データベースを検索した結果も記されており、最も古い「正社員」の用例を1937年としていました。この日活弁士の記事はヒットしなかったことになります。

同社の記事DBのレコードがどうなっているか、検証が要りそうです。

わかったこと:どちらも絶滅

興味深いのは、社員としての「タイピスト」「活弁士」の両者とも、21世紀の今日には絶滅していることです。(いたら教えてください)

弁士は伝統芸能的職業としてなら存在しますが、正社員として雇われている人など皆無でしょうし、タイピストに至っては職業自体が消滅しています。

はかないねえ。

つづく予定

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