出典マニアが(今さら)英ガーディアン「安倍マリオ」記事を徹底解説したぞ。

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こんにちは。出典マニアによる調査レポート、またはエアクソリプ大会です。

既に旧聞に属した感のあるニュースですが、英ガーディアンの「安倍マリオ」記事:

Why Japanese PM Shinzo Abe was dressed as Super Mario in Rio|theguardian.com(2016/08/22付)

がネット世間に理解されないまま流れ去った感があるのがどうにも気持ち悪く気に入らないので、遅まきながら出典マリオがひと騒ぎします。

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スーパーマリオ マリオ 衣装セット (Tシャツ/パンツ/帽子/髭) コスチューム

要約:Executive Summary

端的に述べます。ひとしきり騒いでおきながら、英ガーディアン「安倍マリオ」記事最後の一文

Don’t say: “Thank God you’re here. The toilet block has flooded again.”

この「Don’t say:」以降を日本のネット世間の誰ひとり完全には読み切れていませんでした。そこがマジキツい。あるいは誰か読み切っていたかもしれないけれど、手前どもまでその声は届かなかった。だったらなおのことキツい。

オーストラリア発のテレビ番組「Thank God You’re Here」をいっぺん見て、出直してこい。誰にともなくそう言いたい気分です。

たぶん無許諾の非公式動画だけど、何をやってるかが比較的わかりやすい回を埋め込んでおきます。こういうことをやる番組です。

Thank God You’re Here-Shaun Micallef-Children’s presenter(Season 1 Episode 2, 2006)

ここふまえとけよ。

解説:Commentary

世界的に称賛トーンの多かった報道の中、異彩を放っていた感のあるガーディアンの「安倍マリオ」評にひととおり騒いだ日本語世界のネット世間でしたが、出典マニアに言わせれば、記事の骨格となっていた出典を誰も把握できていたようには思えません。

していなくても構わないんですが、それがために、例示した最後の一文を含め件の記事全体がその「出典」に沿って組み立てられていることをまるで認識できておらず、その結果として珍解釈ばかりが流布されるという、世にも悲惨な光景がくり広げられていました。

マジキツい。

元ネタは世界的テレビ番組

先に答えを言います。ガーディアン「安倍マリオ」記事のベースとなっているのが、オーストラリア発のテレビ番組「Thank God You’re Here」、略して「TGYH」です。

20160906_Episode_ThankGodYoureHere

Thank God You’re Here 番組ロゴ from en.wikipedia.org

先ほど紹介したように、あるコスチュームをした出演者が何も知らされずにドアの向こうに用意されたシチュエーションに向かい、待ち受けている相手のフリに即興でボケていく趣向のコメディです。

で、リオ五輪閉会式の「安倍マリオ」に出くわしたイギリス人(たぶん)の記者がですね、第一印象できっと「TGYHかよ」となったわけですよ。何かボケてくれるのかと。

そこが記事のすべての出発点です。構成も文体も、全部TGYHを起点にして仕上げられています。

自選・「同一」手法の過去記事

手前味噌ですが、当ブログでは過去に別の番組をベースにして、まったく同じ構成の記事を書いたことがあります。ご参考まで。

大改造!!劇的「大沢あかねに対してどういう感情を抱くのが正解なのか?」ビフォーアフター(2014/06/16)

おなじみのテレビ番組のフォーマットに載せて、ぜんぜん違う話をしました。今回ガーディアンの「安倍マリオ」記事も同様のスタイルでした。オレ、イギリス人に生まれた方がよかったか?

「予選落ち」の日本

よってTGYHを知っていれば「ああ、あれベースね」と読み方がわかります。というか、元記事はTGYHを知ってる前提で書かれています。だってオーストラリアで人気に火がつき、これまでのべ21か国(Wikipedia Thank God You’re Hereによる)で制作 and/or 放映されている世界的コンテンツですよ。US版もUK版も、はては中華版《谢天谢地,你来啦》まであるんだから、当然みんな知ってるでしょ?

「そんなもんわかるかぁ!」っていう話ですよね、はい。

ともかく元の記事の筆者が日本の読者を露ほども意識しちゃいなかったか、よもや通じないとは思いもしなかったか。どちらかがその最大の理由でしょうけれど、趣向を凝らせすぎて一般の日本人には記事のそこらのコンテキストがまったく見通せなくなっていました。日本の一般読者は「予選落ち」して読解のスタートラインにも立てていなかったわけです。ことごとくみなコースアウトしていました。

文脈の日本語訳=「あれ、スジナシ?」

このコンテキストを一般の日本人に通じるような日本語に置き換えてみましょう。言うならば、

でしょうか。これすらご存じでなければ各自で救済してください。後ほど少し触れますが。

など偉そうに語っていますが、私も最初まるでわかりませんでした。意味がわからんので知りたかった。知りたくて求めてみた。運良く知れた。なにも認知できずに流されるこの世の地獄に伝えたい。で書いてます。

ガーディアン「安倍マリオ」記事を読めていないツイートにクソリプ大会

ここで突如、クソリプ地獄のコーナーです。

出典マニアが、当該の「安倍マリオ」記事を読めていなかった数々の珍解釈ツイートにエアでクソリプを返していきます。

違います。順を追って説明します。

「The toilet block」とは?

大別すると2つ意味があるみたいですけど、

そっちと思っちゃったか。違うよ。

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Toilet Blocks 6 x 50g|groceries.iceland.co.ukより

それじゃないから。

洗浄剤的に解釈して主語に置くんなら、「ブロックがトイレを詰まらせた」という事実関係を記述しなきゃいけなくなる。よって文型が変わる。The toilet block has flooded the bathroom again. みたいな感じかな。

じゃなくて、文章はSV文型だから、こっちのtoilet blockですね。

20160906_toilet-block

Portable Toilet Block|bunkabin.co.ukより

簡易式であれ移動式であれ、この一式がThe toilet blockです。これを主語に置き、has floodedとブロックの状態を記述しています。

ついでに言うと、あとの解釈も全部間違い。

「漫談」というよりも「コント」

見てみた。最後の一行、もう一息だった。

言うべからず
「うーわほんま助かるわ。トイレがまた溢れてきてん。」

出典:ガーディアンの傑作漫談記事を日本語訳してみた。→(2016/08/23付)

文面をなぞると、だいたいそういう趣旨です。訳としては合ってます。でも他の訳文を読むと、これがどんな意味になるかまでは、把握されていないみたいですね。

筆者の脳内に広がる「コント世界」

最後の一行を再び引用します。

Don’t say: “Thank God you’re here. The toilet block has flooded again.”

分解してまず答えを書いておくと、これは

  • Don’t say:」が、後ろへのセルフツッコミ
  • 「Thank God you’re here.」が、TGYHで必ず最初に言う定番のあいさつ
  • 「The toilet block has flooded again.」が、今回のお題

になっています。

くり返すと、この一行って「安倍マリオ」をTGYHの出演者に見立てて彼に投げかけている「お題」なんですよ。そういうUKジョークです。で、「Don’t say:」が(違う)のセルフツッコミになってるという寸法。

だから正確に言うと、記事は「漫談」じゃなくて、「(漫才的)コント」のスクリプトとして書かれているんです。

TGYHの即興シチュエーションコントになぞらえて、誰か2人、ないしはそれ以上の複数人が安倍マリオを評し合っている。そういう文体を採用した記事なんです。

日本なら、さながら漫才コント

日本でなら、漫才コンビがこんな感じでやりそうです。

「どうも~」
「見ましたか、リオデジャネイロオリンピックの閉会式?」
「見ましたよ。安倍マリオ」

以下 中略

「ところで何が困るって、トイレが詰まるほど困っちゃうことはないね」
「間違いないね」
「じゃ、ぼくがトイレ詰まって困っている人やるから、きみがマリオの格好になって、修理に来る人やって」
「興奮するね」

(漫才コントスタート)

で元の記事に戻すと、

  • マリオコスプレのShinzo Abe登場
  • 皮肉屋の英国人、「TGYHかよ」とツッコミ

というのが共有すべき基本認識です。わずかだった安倍マリオの登場時間だけで、元記事の筆者にはそこまで脳内妄想が広がっていたことが読み取れます。

好意的?

だから

「皮肉を込めた」「いかにも英国らしい」は同感ですけど、記事のトーンを「安倍さんに好意的」と解するのは非常に疑問です。これを好意的とするならば、その対象は安倍さんではなくて(モヤッときた安倍マリオも込みの)「トーキョーショー」全体、でしょうね。

総合すると、私には「TOKYO 2020予告編にどっか文句付けてやろうと手ぐすね引いて閉会式見てたけど一本取られたなチクショー」という文意に読めます。この記事で語ってるようなコンテキストまで読み取った上で「安倍さんに好意的」と言えますかね。どうかしら。

はっきり言わないのが英国紳士淑女のたしなみ

次のこちらもまた、最後の一文の伝え方としていまいちです。

先述のとおり、溢れているのはあくまで架空の状況設定です。最後の一行は、表向きコントの場面設定を示しているにすぎませんから。

「トイレまた溢れちゃったよ」という場面設定の「お題」なのですから、そこで「福島のブロックは溢れてるけどね」と含意を表に出すのは下層階級のやり口です。

直接には福島の名前を出さずに、againのたった一語だけで招致最終プレゼン(2013/09)直前に持ち上がった福島第一原発の汚染水問題を思い出させるいやらしさ。それが、英国紳士淑女の流儀なのであります。

from commons.wikimedia.org

「トイレがまた溢れちゃった」という「お題」は、「それ福島のこと?」と詰められても、「いやトイレの話だし」とかわせる遊びがあります。その遠回しが英国流です。

訪問してきた中国の首脳に1989年産のワインをふるまう、あのいやらしさこそがイギリス上流階級のライセンスなのだと心得ましょう。

参考記事:英晩餐会、習近平に1989年モノのワインを出した深い意味|プチ鹿島の『余計な下世話!』|東京BREAKING NEWS(2015/11/10付)

伝わる階層にだけ伝わればよし?

あいにく日本の一般人向けにはそんなニュアンスまで伝わってなかったぽいけど、当のガーディアン記者は問題にしていないかも。一般化しすぎのきらいも込めて言えば、英国人ははなから下層階級を相手にしない節もありますから。

淋しい珍解釈

ここからは珍解釈のオンパレードです。まるで読めていません。

「散々言われて」るんじゃなくて、TGYHのスタイルに則った会話形式になっています。読み取れずに「ネタにマジレス」の方がよほど恥ずかしい。

元の記事が(最低)2人の会話形式になっていることが読めてませんね。形式上会話は両者の間で閉じていて、どこにも向かってません。乙です。

「国内の難題から逃れるようとしてるみたいな冷ややかな1文」って、どこだろうか。そんなとこあったか。

考察:日本でTGYHが通じない理由

英ガーディアンの「安倍マリオ」記事は、「TGYH」すなわち「Thank God You’re Here」がベースとなっていました。英語圏&欧州諸国のみならず、驚いたことに中国語版まで存在する世界的な即興コント番組です。日本は完全に蚊帳の外、わかりやすいジャパンパッシング事案です。

なぜでしょうか? 思うに、これには理由があります。

日本にTGYHは「いらない」んです。とっくに「その先」まで逝っちゃってますから。

というのもTGYHの場合、舞台上に必ず1人は「スジフリ」を行う役者さんがいて、そのフリで話が進みます。即興にチャレンジする出演者を誘導し、ときには軌道修正を行う役回りです。

ガーディアンの記事で言うと、ボールド(太字)で

That’s not what he looks like, is it?(そんな外見じゃないよね。そう見えるの?)

とか

When?(いつ?)

とか言ってる側がそうです。

ところが日本はとっくに「その先」に進んでしまっていて、設定と役柄だけ決めて(ときにはそれすら定めず)あとは呼吸と流れで、というスタイルの番組が過去にいくつも放送されています。

出演者ですら話がどこに転がるかわからず、そこがときに、見ている側にもひりひりするほどの緊張を生みます。

知る中で具体例を挙げると、それはたとえば

ここらを視聴者として経験すると、TGYHの舞台設定が素朴で牧歌的な光景にすら見えます。

参考までに、それぞれの番組動画を一例としてリンクしておきます(どれも非公式なのでテキストで)。

これらと比べると1周遅れて見えるスタイルが人気を博している欧米アジアの多数派の目には、手前ども日本の姿はある種クレイジーな領域に逝っちゃってるように映る気がいたします。

ことほどさように、われわれはとんだ「お笑い先進国」に生きているわけですが、一般の日本人はそんなことは意識すらせず、ただただクレイジーな環境で日々を送ってゆけば大丈夫かと存じます。

むすび

「わからない」を粗末にする奴が嫌いです。特にオチはないです。

ご静聴ありがとうございました。

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