NHK「受信料長州力」を10倍楽しむためのプロレス的教養

こんにちは。出典マニアが話題のアレに乱入します。

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この記事で言いたいこと

NHKの「受信料長州力」に、みんなぎすぎすしすぎです。

2016-03-01_2246

※画像は、www.nhk.or.jp/freshers/より(2016/03/04現在)

加えて反応が表面的すぎます。

長州力がパワーホール全開で
NHKのド真ん中に立つぞ!

こちらを完全スルーしている人があまりに多くて驚きました。

「受信料長州力」のアレに書いてあるアレをもう少し詳しくアレすれば、ひとつ高い次元で楽しめるのに、もったいないったらありません。

「半信半疑」「虚実の間」を味わうのが、教養ある生き物のふるまいだと思います。

参考文献(謝辞)

先に、当記事の作成にあたり参考にした諸文献を挙げます。謝意を表します。

ネット騒然!「受信料長州力」

Twitterのタイムラインにこんなツイートがやってきました。

www.nhk.or.jp/freshers/ で順次展開されるようです。

この告知をきっかけに、ネットの一部がまるで後楽園ホールをひっくり返したかのような騒ぎとなっております。主にこのあたりです。

これらを見ると「徴収」に引っかかっている人が相当数いることがわかります。

「長州?徴収?」問題については、後ほど見解を示します。

疑問:「パワーホール全開でNHKのド真ん中に立つ」って、どういう意味?

それよりも出典マニアの私が気になったのは、

長州力がパワーホール全開で
NHKのド真ん中に立つぞ!

この文言です。どういう意味なんでしょうか。

「受信料長州力」を面白がる方向で取り上げていた記事

にも、「SNSでアレしろ!」とセットで

どちらも長州力が好きな人ならばニヤッとしてしまう、いわゆる「長州ワード」だが、これだけではサッパリ意味がわからない。

単純に考えれば「受信料を長州(徴収)」とかかっていると思われるが、NHKのど真ん中とは一体……?

としか書いてありません。

出典を調べてみました。

報告:「パワーホール全開でド真ん中に立つ」とは?

先に調査結果を要約して述べます。

長州力がパワーホール全開でNHKのド真ん中に立つ」を、細かな違いは無視して別の表現に置き換えてみるならば、ちょうどSMAP×SMAPの次回予告が

「森且行が《はだかの王様》全開でスマスマのド真ん中に立つ!」 Coming soon…

となっている。

20160304_VIDL-10770

※はだかの王様(1996/05/05発売) jvcmusic.co.jpより

それぐらいのインパクトを持った言葉でした。

2004年10月9日@両国国技館

「パワーホール全開でNHKのド真ん中に立つ」の“元ネタ”は、2004年10月9日の両国国技館リング上での長州力さんの発言

次にこのど真ん中に立つときには俺のパワーホール全開でこのど真ん中に立ってやる。分かったか

です。

2年前(2002年)にそれまで所属していた新日本プロレスを退団し、新団体「ファイティング・オブ・ワールド・ジャパン(WJ)」を旗揚げしていた長州さんは、この日、両国国技館で開かれていた同団体の興行に「乱入」します。

前掲の『真説・長州力 1951-2015』(田崎健太, 2015)に発言が採録してありました。

まずは発言中の個別の用語について説明しておきます。

「パワーホール」とは?

長州力選手のリング入場曲です。当記事の冒頭にも付けました、iTunes Storeプレビュー用のリンクを再掲します。

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こちらはアナウンスを再現しての、ギターアレンジ版です。

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「ど真ん中」とは?

「ど真ん中」、それは、長州力さんを語るうえでの重要キーワードです。

『真説・長州力 1951-2015』の「まえがき」にはこうあります。

長州力を描くことは、吉田光雄という、本質的に慎ましい、店に入ると隅に座ってしまう在日朝鮮人二世の人生を描くことだ。

長州はプロレスが最も華やかな時代の「ど真ん中」を駆け続けてきた。

事実、同書によると、2004年10月9日の両国国技館のリング上で、長州力さんは合計4回「ど真ん中」を使っています。

再現・長州力 10.09両国発言

真説・長州力 1951-2015』の第十五章「再び、ど真ん中に」に採録してあった発言を引用します。

「てめぇら、この状態が何を意味しているか分かるか。俺は今、新日本プロレスのど真ん中に立っているんだぞ」

ここで永田裕志選手がリングに上がります。同書によれば、長州さんが新日本プロレスの現場監督を務めていた時期の1992年に、日体大から団体入りした方です。

「永田、よーく、お前だけは上がってきたなぁ。天下を取り損ねた男がよく上がってきた」

「一つだけ聞いとけよ。中にいる人間が信頼されなくて、外に出た人間がこのど真ん中に立ったっていうことは、分かるか。俺を上げた人間が罪を背負うのか。今までこういう状態になった、お前らが罪を背負うのか」

新日本プロレスは近年でこそ息を吹き返してはいますが、2000年代は格闘技ブームに押され、傾向としては経営の苦しい時代でした。

などあっての、

「最後に一つだけ言ってやろうか。もし、見たくもねえ、聞きたくもねえ、次にこのど真ん中に立つときには俺のパワーホール全開でこのど真ん中に立ってやる。分かったか」

この元ネタ発言となるわけです。

味のあるフレーズ満載でした。長州小力さんを筆頭に、いろんな芸人さんがマネしたくなるのもわかります。

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「半信半疑」を楽しもう

先述の「長州?徴収?」問題については、「半信半疑を楽しむ」というスタンスを取るのが肝要だと考えます。

長州力さんを起用したNHKサイドの意図はそこにあるものと解釈するのがポジティブなあり方です。

真説・長州力 1951-2015』を著した田崎健太さんは、その「エピローグ」で

プロレスを描くことは、果実を求めて森に行ったつもりで、マングローブの密林に踏み込んだようだった。取材を進め、資料を集めてもどこまで信用していいのかはっきりしない。

この本は彼の言葉を手がかりに“なぞなぞ”を解いていったようなものだった。

取材相手とは距離を保ちつつ、信頼関係を築かなければならない。そして、正しく疑いながら話を聞く必要がある。

としています。

田崎さんのほかにも、「プロレス者」の諸氏は

そもそもプロレスとはいかがわしいものである。昭和のプロレスファンは「信」「不信」の両極端な立場を常に意識せざるを得ない珍しい人種だった。

「半信半疑」がいちばん精神的にもバランスが取れ、遊び心がある立ち位置だと思った。そしてその見方はプロレスどころか、日常の様々なモノの見方や考え方にも有効であると知った。

「関心のないものを否定する」ことは危険だ。否定するなら全力でそのジャンルや人物を知ったうえで否定しないと失礼だ。

無駄があってよい。行間があってよい。半信半疑を楽しめ。

出典:プチ鹿島『教養としてのプロレス』(2014)第2章 半信半疑力を鍛える

プロレスを見ていても表面的なものだけを見ちゃだめだな、ということがよくわかるなと思います。

出典:プロインタビュアー・吉田豪に聞く! 「どんな相手でも話を引き出す極意」|リクナビNEXTジャーナル(2016/03/03付)

と述べています。

楽しめるアングル

以上をふまえれば、たとえば

NHK広報局に話を聞いてみると、「長州」と「徴収」は全く関係ないという

出典:NHKは受信料を力ずくで「徴収」する気か HP「長州力」画像に「宣戦布告だ!」と批判殺到|J-CASTニュース(2016/03/01付)

NHK定例会長会見が3日、都内の同局で行われ、「長州問題」への質問が出た。

籾井勝人会長に代わり広報局長が対応し「検討段階。まだお答えできない」と詳細を明かさなかった。ただ会見後、広報担当者が長州力が受信料制度などの案内役を務める特設サイトと説明した。

出典:「受信料長州力」って何すか?NHKサイト話題|日刊スポーツ(2016/03/04付)

これら一連の報道について、ニヤニヤして見守ることができるようになります。そこはかとなく臭ってくる、マスメディアの「共犯関係」もかぐわしくなってきます。

おまけ:吉田豪さんTwitterアカウントの豆知識

本件に関して、プロインタビュアーの吉田豪さんもいくつかツイートを出しています。

ここで

  • 「吉田光雄」が長州力さんの通名であること
  • 吉田豪さんのアカウントIDである@WORLDJAPANが、2002年に長州さんらが旗揚げした団体名「ファイティング・オブ・ワールド・ジャパン」に由来するであろうこと

の2点は、ふまえておいていい話でしょう。『真説・長州力』の帯にも半分書いてありました。

本名・郭光雄、通名・吉田光雄
“端っこ”の男は、時代の“ど真ん中”を駆け抜けた。(後略)

という具合です。

まとめ

「受信料長州力」は、出典となる発言をふまえて

NHKの

中にいる人間が信頼されなくて、外に出た人間がこのど真ん中に立ったっていうこと

俺を上げた人間が罪を背負うのか。今までこういう状態になった、お前らが罪を背負うのか

などと展開させつつ、半信半疑で楽しむのが教養ある生き物のふるまいと言えましょう。

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以上、iTunes Storeで聞ける《パワー・ホール》全5バージョンの紹介も兼ねてお届けしました。

【3/5追記】中止になっちゃいましたね。

生きにくい。

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