亀倉雄策の「オリジナリティー」を読んで(また)腰が抜けた話【エンブレム問題】

こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。

亀倉雄策の文章は、悪口になるとひときわ冴えます。キレッキレの魅力を放ちます。

そう心得ていてもなお、亀倉が1966(昭和41)年のエッセイに書いた悪口のキレっぷりには、のけぞってしまいました。そこらの悪口とはもう格が違う。

要約:Executive Summary

このところ切手の盗作問題で、世は騒然とデザインに関心を寄せ出した。寄せ過ぎたといってもよい。

と始まるエッセイ「オリジナリティー」(初出:毎日新聞 1966/07/27付)で、亀倉雄策が放つ悪口が冴えまくっていました。

というのも、

  1. 「公募」全否定
  2. 「役人」「政治家」「思想運動をしている連中」を、「デザインに対する感覚が絶無」とこき下ろし

だったからです。身もふたもないというか何というか、とにかくハンパない破壊力でした。

読んだ私のリアクションです(イメージ)。

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Asphyx(2008) from commons.wikimedia.org

これまでのあらすじ

この9月に、亀倉雄策『曲線と直線の宇宙』を読んで腰が抜けた話【五輪エンブレム騒動】(2015/09/02)を書いたら、思いがけず多くの方に読んでいただけました。タイミング的に、五輪エンブレムのパクリ・盗用疑惑→白紙撤回も追い風になったのでしょうか。

記事へのはてなブックマークでもらえたコメントをセットにすると、より楽しめるかもしれません。

でもって、その後も収蔵図書館を回って亀倉の著作を順に読んでおりました。そこで目に留まった「切手の盗作問題」ってなんだろうと調べ始めた結果を、こちらの記事に書きました。

非常に興味深く、またいろいろ「闇」を感じるパクリ元事例でした。

(2)永井一正さんの見解(3)岡本太郎の苦言(4)亀倉雄策のエアリプ反論と、全4回のシリーズ記事となりました。

亀倉雄策の「オリジナリティー」(1966)でまた腰が抜けた件

亀倉の著書『デザイン随想 離陸着陸』(1972, 新装版2012)に収録された「オリジナリティー」のテキストを引用しつつ進めます。

分量は、単行本の体裁でわずか2ページです(pp.290-291)。しかしそこに詰まった悪口レベルが半端ではありませんでした。もはや人体への悪影響が懸念される水準です。

1.「公募」全否定

亀倉の矛先は、「盗作」よりも「公募」に向かっていました。悪口のキレがすごかった。

私にいわせれば、盗作する方も悪いが、こんな半人前以下の連中に懸賞金をつけて「公募」と称してつった役人の方がずっと悪くて、どだい無知すぎる。

こんな半人前以下の連中」とか、役人が「どだい無知すぎる」とか。やべー。

切手デザインの良し悪しが国家の威信にかかわり、日本人の美意識のバロメーターになるというのなら、なぜしろうとみたいな連中から公募するのだろう。

しろうとみたいな連中」とか。やべー。

いままでの日本の切手のデザインにはろくなものがなかった。写真みたいなバカ写実のものしかなかった。(略)文句がどこからも出そうもない図柄ばかりで、いかにも役人の責任回避の感じがよく出ていた。

バカ写実」て!!!

閲覧スペースで読んでいて、図書館が「笑ってはいけない図書館」になりました。やばすぎです。

暴れまわる大怪獣「カメクラ」

亀倉の真骨頂はここからです。

『ゴジラ』 (1954) メインタイトル (M1)
伊福部昭
¥250

さらに一段ギアを上げてきた感じがあります。※下線引用者

こんな連中が、公募すれば日本中のデザインの傑作が集まるし、しかも宣伝にもなると考えたのはケタはずれの無知というほかはない。

「公募」全否定です。

続けて、そんな公募案件へ応募する人たちへも毒舌放射能を吐いています。もはや政府から避難命令が出るレベルです。

募集に応ずる連中はデザイナーと呼ぶのは恥ずかしいような半人前以下か、学生か公務員ばかりである。

やめて~

20151115_341px-Gojira_1954_Japanese_poster

ゴジラ(1954) from commons.wikimedia.org

その連中からどんなことをしても国家の威信に値するような作品は生まれるはずがない。

やめて~ みんな逃げて~~

新聞は半人前以下の大阪のデザイナーを責め立てたが、これはむしろ役人根性の方を責めてもらいたかった。この事件でこりてますますクソ写実の無難な切手図案に固まってゆくに違いない

また出た「クソ写実」!!!!

そんなモダン大怪獣カメクラ、いや、モダンデザインのレジェンド亀倉雄策も、しかし一方で、上のように「むしろ役人根性の方を責めてもらいたかった」と重要な指摘もしています。

※イメージです

そんなこんなで、ヘビメタライブかと思うほど何度ものけぞってしまいました。頭くらくらした。

やばいぞ亀倉雄策。

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Angus Young, BN Madrid, 2009  by Ed Vill(flickr.com)

帰ってから嫁に「すごいもん読んできた」と話したら、ウケまくっていました。「バカ写実」が嫁のお気に入りです。

2.「役人」「政治家」「運動家」、全部まとめてdisる

「オリジナリティー」の後半、3段落目で、

日本ではデザインに対する感覚が絶無なのは役人と政治家である。それに思想運動をしている連中もひどい。この三者はお互いに仲が悪くて、お互いにデザインに無知なところがおもしろい。

と、亀倉はデザインセンスゼロの面々をまとめてこき下ろしています。

これはひどい!政治家:

どの政党を問わず、選挙の時のポスターはひどい。まるでドサ回りの浪花節かたりのポスターである。

と亀倉が書いてから45年後、2011年のポスター掲示板です。

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2011年4 月|いけぶくろネットより

評価は各位にお任せします。

これはひどい!運動家:

ベタベタやたらと赤い色で街を汚すばかりで、文化的な希望感など全くない。ストライキの風景のうそ寒いきたなさ、デモの時の景気の悪そうな視覚混乱。

私の記憶が確かならば、たとえばこんな感じでしたか。

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※画像は、春闘 あの時から35年|在りし日(2008/01/23付)より

これじゃちょっと気のきいた精神の持ち主はついてゆけない。

それを「気のきいた精神」と呼ぶのかは定かでありませんが、「ついてゆけない」にはまったく同感です。みなさんはいかがでしょうか。

そんなクソダサいセンスで一般大衆にアピールできると思ってんの?(大意)

私が思うに、ひどい悪口であるにもかかわらず、亀倉の主張がどこかすがすがしくも響くのは、同時にすごく大事なことを言っているからです。

集団行動するときはそれだけの美しさが、きりっとしてなければ、だれも共鳴しないだろう。これに気がついていないとしたら、集団指導する資格がない。デザインを巧みに利用することを知らなければ、現代的な政治家とはいえない

一般国民を動かすための重要な心得です。

ケネディしかり、ヒトラーしかり、レーニンしかり、みんな心得た人たちだった。

というのが、亀倉の評価です。

そして亀倉雄策も、「心得た人」でした。

当時既に神クラスの評価となっていた感のある「TOKYO 1964」のシンボルマークの前に、一般クソ国民はただひれ伏すしかありません。「さすが上級国民のデザインは違いますな」などと揶揄しても無力感に苛まれるばかりです。

from mag.sendenkaigi.com

このシンボルマークのもと、当時の日本国民がどれほど一致団結したことか。

図書館に当時の資料映像がありました。

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※DVD「東京オリンピック 資料映像」より

「TOKYO 1964」が、自分が生まれるずっとずっと前の「歴史上の出来事」である方はぜひ、祖父母の方など身近なご老人に当時の話を聞いてみてください。

余談:おすすめ「表紙パクリデザイン」書籍

あるいはこちらの書籍からでもよくわかります。

表紙デザインのパクりっぷりからして、推して知るべしです。

一般国民の動かし方に関しては、こちらも参考になります。

優れたプロパガンダは、政府や軍部の一方的な押しつけではなかった。むしろ、民衆の嗜好を知り尽くしたエンタメ産業が、政府や軍部の意向を忖度(そんたく)しながら、営利のために作り上げていった。(p.58)

ここ↑きっと試験に出ますよ。

そして本書の表紙もまた、アレクサンドル・ロトチェンコ(Aleksander Mikhailovich Rodchenko, 1891-1956)のポスターのパクリです。読んでから知りましたが。

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※画像は、ロトチェンコ+ステパーノワ ロシア構成主義のまなざし 東京都庭園美術館(2010)|ミュージアムカフェ より

ともあれ、表紙デザインだけでしっかり「自己紹介」できているのは良書のにおいだということが、このごろわかってきました。余談でした。

付記:亀倉も筆の誤り?

さて、いろいろヤバすぎる亀倉雄策のエッセイ「オリジナリティー」ですが、最後のくだりに対してだけは認否を留保しないといけません。

史実によれば豊臣秀吉もうまかったそうだ。(略)秀吉の陣羽織は真っ赤なシカ皮で、背中に大きな丸が金箔で押してあった。見事なデザインである。

確認のため「秀吉 陣羽織」を画像検索してみたのですが、それらしきデザインのものは見当たりませんでした。

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あるいは亀倉が、

  • デザインを間違って覚えている
  • 別の武将のものと勘違いしている
  • 複数の陣羽織デザインがごっちゃになっている
  • 話のノリででっち上げている

そんな可能性も考えられます。

はたして、亀倉雄策がいうような「秀吉の陣羽織」は実在するのでしょうか。斯界の碩学にご教示いただきたいところです。

画像検索が発達した時代もよしあしです。

まとめ

とにかくすさまじい文章でした。当時世間が騒いだ「がん征圧切手」の盗作問題に対して、毒舌という名の放射能を吐きつけ、案件ごと焼き尽くすかのような勢いです。

というわけで弊社では、この「オリジナリティー」を亀倉雄策「悪口エッセイ」の最高傑作と勝手に認定いたします。

脳内特撮大作:大怪獣「カメクラ」対「エンブレム委員会」(2015)

ところで、デザイン芸人の脳裏にイヤでも浮かんでくるのは、五輪エンブレム白紙撤回後の動きです。

『怪獣大戦争』 (1965) メインタイトル (M1)
伊福部昭
¥250

9月29日(火)、東京2020組織委員会は、みなさまから広く支持されるエンブレムを、オープンな形で早期に選定するため、 「東京2020エンブレム委員会」を設置いたしました。

エンブレム選考特設ページ #東京2020エンブレム|tokyo2020.jp

とそこへ忽然とよみがえり暴虐の限りを尽くし「公募」を全否定する、モダン大怪獣「カメクラ」が現れたわけです(デザイン芸人の主観的に)。

公募全否定の毒舌放射能光線を吐きつけるモダン巨大怪獣「カメクラ」に、

亀倉雄策  YUSAKUKAMEKURA 1915-1997 ggg Books 別冊4』(2006)

「イルカおじさん」宮田亮平隊長以下、第2期に入ってメンバーを一新したエンブレム委員会はどう立ち向かい、対峙/退治していくのでしょうか。

そして大会組織委員会に、大怪獣カメクラの息の根を止めるような「オキシジェン・デストロイヤー」的デザインを発掘し磨きあげることは、はたしてできるのでしょうか。

頭の中で対戦シミュレーションを行って、ひとり楽しんでいます。

現場からは以上です。

関連動画:この記事を書いた人は、こんなプレゼンも見ています

そんな折、偶然にもこんなプレゼン動画が回覧されてきました。

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ローマン・マーズ:街の旗が、誰にも気づかれない最悪のデザインになる理由|TED.com(2015/03撮影)

亀倉のエッセイに共通するメッセージが多く込められています。しかしずっと穏健です。

笑えて泣けて考えさせられる、人情派喜劇のようなプレゼンでした。デザイン芸人からもおすすめします。気が向いたらこの件は別途また。

つづくかも

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