【近未来SF短編】人工知能の歌2016

平成27年12月x日

「宮内庁です」

電話の相手は、たしかにそう名乗った。

「宮内庁です」

「あの、どういったご用件でしょうか?」

「詠進歌が最終選考に残っています。いくつかご確認を」

(あぁ、そういえば…)

ここでようやく、ケイ氏は自分が翌年の歌会始に短歌を送っていたことを思い出した。

「まだ正式決定ではありません。口外しないよう願います」


10日ほど経った頃だろうか、入選が正式発表されたようだ。

(意外に早かったな)

歌会始の入選を一生の願いとする者も少なくない。

しかし初めての入選にも、これといった感慨を覚えなかったのは、ケイ氏にとっても意外なことだった。

平成28年1月x日

歌会始の儀がとり行われる皇居正殿・松の間に、ケイ氏の姿があった。

今年の題は「人」。

入選歌が順に朗誦される。ケイ氏の番となった。

その人の読む法華経を聞きながら
眠りについて そしてそのまま

松の間に朗誦の声が響き渡った。

実は、ケイ氏は入選歌の作者ではない。ケイ氏が作ったのは、短歌ではなく傍らの人工知能(AI)である。

西暦2016年は、人ではない人工知能が「人」を題に歌を詠んだ年として、後世語り継がれることだろう。


ついでケイ氏の人工知能は、他の入選者ともども両陛下に拝謁し、ご下問を賜る栄誉に浴した。

―法華経はどうですか?

「発信中です」

―おつらいことでしたね

「一致するものが見つかりませんでした」

初めて皇居に参内した人工知能の話である。

(終)

資料集

以下の題材から想像した「目の前にある未来」を、小説の形式で表現してみました。

形態素解析エンジンMeCabにて文章中から短歌を抽出|inaniwa3’s blog(2015/01/01付)

20151014_356px-SAKURAMA_Banma_001

SAKURAMA Banma(1836-1917)

1917年(大正6年)、6月に入ってからは己の死期を悟り、死の4日前には菩提寺の僧を呼ばせて読経を受けた後、息子・金太郎が「誓願寺」を謡うのを聞き、「もうこれで安心した。思ひ残すことも、気にかかることも、何もない。私の胸ははればれした。何時死んでもいい」と繰り返した。同月24日はかねて信仰していた加藤清正の縁日であり、信心仲間に代わりにお参りに行ってもらった後、その人の読む法華経を聞きながら眠りについて、そしてそのまま静かに息を引き取った[48]。83歳。

以上、Wikipedia「櫻間伴馬」より。

平成28年の歌会始のお題

「人」と定められました。

Web魚拓・「歌会始の詠進要領(平成28年)」(翌年用に更新されるまでは宮内庁サイトで参照できるかと思います)

天皇陛下の深い憂慮 「歌会始の儀、詠進歌」秘話|日立大好き(2013/06/11付)


こういう未来のつくり方はわかっているのに、お金も時間もありません。

なので、誰かやってください。それか、お金ください。

おわり

コメント

タイトルとURLをコピーしました