「マイナンバー」の全体主義【日本語的に】

こんにちは。みなが素通りしてしまいがちなもの言いにいちいち引っかかっていくのが、マイブームです。

というわけで、この記事で述べるのは政策の話ではなく、日本語の話です。

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from commons.wikimedia.org
※写真と本文は関係ありません

「マイ」ナンバーの不思議

「マイナンバー」制度というのは、つくづく不思議な名前です。

誰にとっても、ほとんど全部がmy(私の)ナンバーではないからです。

全体では億千万と付与されるであろうマイナンバーのうち、リアルなmy(=私の)ナンバーは、1つだけです。

なのに、それら全部が「マイ」ナンバーです。

変なの。

イメージソング?

そんなマイナンバーのイメージソングかも。

私()以外私()じゃないの|(ゲスの極み乙女。, 2015)YouTube

事実:内閣官房サイトの英語

事実、内閣官房も、英語での発信は、

The Social Security and Tax Number System

です。直訳の「my number」では意味不明だからでしょう。

参照:http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/english.html

固有名詞にしても残りそうな違和感

「マイナンバー」制度を英訳する際、"My Number" system のように、固有名詞として扱うやり方もあるにはあります。いくつかの日本発の英文記事に用例もありました。

としても(自身は実感できるレベルにいませんが)、英語話者にとっては奇妙に映るでしょう。仮に日本語の事情に通じていても、釈然としないのではないかしらんと思えます。

日本語の「マイ」、エリア広すぎ問題

英語をかじって、わずかでも英語的な発想がわかり始めてくると、外来語「マイ」の用法がとってもへんてこりんに映ってきます。

なぜなら、「マイ」は英語の「my」に由来しているにもかかわらず、決定的に違う点があるからです。

それは、ちょくちょく「一人称」でなくなるところです。

わかり始めた《My Revolution》(渡辺美里, 1986)

類例:マイカー

同様の問題構造を持つことばが「マイカー」です。

全然「私の」車ではありません。

こんなブログ記事を見つけました。「ノーマイカーデー」の奇怪さを指摘する内容です。

同じ趣旨の内容が英日の両言語で書かれたエントリでした。

日本語パートから抜粋しておきます。

「My」は他の人の物には使いません。

「No my car day」はネイティブスピーカーには意味が通じません。通じるなら、「No Car Day」です。

「ノーマイカーデー」は日本語の単語です

英語的発想からは「まあ、そうなるだろうな」という、きわめてまともな意見です。

確認:英語のマイカー

中高年の「マイカーといえば」ソング代表:

Baby you can drive my car ♪~

というこの歌の車も、歌の主人公である「私」の車です。

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おことわり:和製英語のジャパングリッシュ上等

念のためおことわりしておきます。「my」と「マイ」で意味が食い違うこと自体を問題視するつもりはありません。

「違い」自体は否定しません。訛り・方言の一類型だととらえておけばいいだけのことですし、そこに生まれている「差」「ずれ」が、興味をそそる点でもあります。

私の目標は、そうした差異・違いが生じる仕組みの究明です。

"私の"「マイ」セレクション

ここから、不思議な日本語の「マイ」を挙げていきます。

と言いつつ、自力で思い浮かべられたのは既に述べてきたこの2つでした。

  • マイナンバー制度
  • マイカー

あとは意外と出てきません。

そこで、英語を母語とするネイティブスピーカーの力を借ります。

こちらに、英語発想からは「なんだこれ?」な「マイ」がたくさん載っていました。

  • マイホーム
  • ゴーイングマイウェイ
  • マイブーム
  • マイ箸
  • マイバッグ

どれも"私の"「my」ではありません。奇妙です。

英語的発想からの違和感が、こう表明されていました。

You might think it just means “my” but it actually means “one’s own”and it can be used to mean  yours, his, hers, etc. in Japanese.

【拙訳】

「マイ」は単純に「"my"=私の」と思うでしょうけれど、実際には「その人の(one’s own)」という意味であり、日本語では「みんなの/彼の/彼女の/etc.」の意味で使えるのです。

こうしてみると、結構あるものですね。さすがです。

私の英語使用ポリシー

私個人は、1つを除いて上のような「マイ」をどれも使いません。わかり始めたMy Revolutionな私には、「my」じゃないところが、どこか気持ち悪いからです。

唯一の例外は、「私の」を指すときのマイブームです。記事の冒頭で使いました。

英語はなるべく訛らずに使いたいです。

「マイ」でわかる日本語の全体主義

ではなぜ、(オリジナルの)英語発想からすれば奇怪きわまる「マイ」が、日本語では通用してしまうのでしょうか?

ひと言で言ってしまえば、日本語世界が「全体主義だから」です。私でないものを私してしまっています。

細密な考察は後回し。

おわり

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氣志團

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