昭和天皇実録に登場する“謎の遊び”「クロックノール」の正体を調べたら、1時間弱でわかった話

こんにちは。用件はタイトルのとおりです。

世間的にも既に答えが出ているようですが、重複をいとわずにまとめておきます。

謎の遊び「クロックノール」

「昭和天皇実録」が公開されたこと、そこに「クロックノール」という“謎の遊び”が登場することを、毎日新聞のWeb記事で知りました。

宮内庁は9日、昭和天皇の87年の生涯を記録した「昭和天皇実録」を公開した。百人一首、木登り、椅子取り−−。実録は昭和天皇の幼少期の遊びを細かく記している。

クロックノールについて、記事では

実録には例えば、8歳当時、沼津御用邸の学習院仮教場で3学期の授業が始まった1910(明治43)年1月、「午前は学習院の授業、午後は御用邸内においてジャーマン・ビリヤード、人取り、玉鬼、相撲、クロックノールなど種々のお遊び」との記述がある。

学習院初等科入学前後は「クロックノール」という遊びが少なくとも4回登場するが、どのような遊びなのか、四半世紀かけて実録を作り上げた宮内庁も「分からない」としており、「公開で知っている人が出てくるかもしれない」と謎の解明に期待する。

とあり(下線引用者)、僕も知りたかったので調べてみました。

ネットだけの調査で、1時間弱でわかりました。

「クロックノール」調査結果報告

「クロックノール」とは、こちらの道具を使って行うボードゲームです。

20140909_File-Crokinole_01

※画像は、Wikipedia「Crokinole」より

「Crokinole」です。現代日本語では「クロキノール」と表記するようです。

クロキノール|呆老冷水録-Don’t be silly Grand’pa!(2005/06/09付)によると、

直径3センチほどの木製の円形のコマをひとつずつ指先ではじき、交互に相手のコマを盤上から落とし合って残りゴマの点数を競う

というゲームだそうです。カナダでは現在も愛好されているとのこと。

明治期の表記も確認

このCrokinole、明治36(1903)年発行の『クロック術』という書籍では、「クロックノール」と表記されていました。

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※画像は、『クロック術』(1903)序文|近代デジタルライブラリー より

また、同書の「第一章 緒言」の書き出しはこうでした。

クロック術は原名クロック、ノール、テーブル、といふ室内遊戯である。

以上から、昭和天皇実録に登場する「クロックノール」とは、「クロキノール(Crokinole)」のことで間違いないと言えそうです。

2013年「クロックノール」世界選手権決勝

「クロックノール」の現在も少し追いかけてみました。

前掲のWikipedia「Crokinole」に、World Crokinole Championship(WCC)について記述があったので、動画を探しました。

2013年のシングルス決勝(Singles Championship Final)の模様を収めた動画がYouTubeにありましたので紹介します。

Jon Conrad選手と、Ray Haymes選手との息詰まる攻防をお楽しみください。

2013 World Crokinole – Conrad vs Haymes -Singles Championship Final 1/3(2014/04/13付)

残り2本はリンクのみ示します。

For more information,

「クロックノール」の最新事情など、詳しくはWikipedia「Crokinole」のほか、こちらで情報を得ればよいかと思います。

報告としては以上です。

今回の調査方法

多くの方にはさして興味ない話でしょうけど、今回の調査手順を記しておきます。

1.公開文献の調査

明治、大正、昭和(敗戦まで)の文献調査なら、まずはここです。

ここで「クロック」「ノール」と検索して、何かヒットしないか探してみました。

2.関連資料の抽出

前者では不調でしたが、後者の近代デジタルライブラリーで、次のような資料が見つかりました。

クロック術』(花王居主人編著, 1903)

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この書籍で「crokinole」という原語の綴りがわかりましたので、ネット検索により現代でのカナ表記「クロキノール」も裏づけが得られました。

3.記述内容の整合性確認

「クロックノール」が明治期の皇族の遊戯にふさわしいかだけ、資料の記述から確認してみました。

前掲の『クロック術』序文には、こうあります。漢字は現代のものに置き換えています。

近来我松本地方に於て、盛に行はるゝ室内遊戯にして、最も余の意を得たるもの二あり。一つはピンポンなり。一はクロックノールなり。何れも近年英国より輸入せしものなるが、其用具軽便にして、演技法も亦簡単なり。老幼男女の別なく行ふを得、而も入り易くて進み難く、行ふに随て趣味益加はる、淫なく邪なく、(略)実に最良遊戯たり、(略)
就中クロックノールは、今や非常の勢を以て、全国各地に伝播せんとする有様なり。

問題なさそうです。

学芸員にもおすすめ:『クロック術』

30ページ少々の本でしたので『クロック術』をざっと通読してみました。たぶんですが、ルールも現代と大きく変わっていない気がします。

いずれにしろ、当時の事情をうかがえるよい資料でしたので、宮内庁および「昭和天皇実録」に関係する学芸員の方も、詳しくはこの本を参照してもらえればよいかと思います。

こちらからは以上です。

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