「カモシカのような脚」の元祖はブッダであった

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こんにちは。「英語のように日本語を書く」練習も兼ねて。

この記事の要旨(Executive Summary)

  • 広辞苑などの国語辞典では、「カモシカのような脚」というときのカモシカは、実は「レイヨウ」のこと、みたいに書かれている。
  • しかし、以下のことから「カモシカレイヨウのような脚」説は正しくない。
  • 「カモシカのような脚」の用例を探していると、仏の身体に備わっている特徴であるとされる「三十二相」の1つにたどり着いた。恐らくだが、その「伊泥延腨相」が、「カモシカのような脚」という比喩の起源であろう。
  • 「伊泥延腨相」について説明している漢文の仏典を読むと、その喩え方は「レイヨウ」よりもむしろ「カモシカ」に当てはまっているように思われる。

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ニホンカモシカ(画像はwww.city.tonami.toyama.jpより)

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インパラ(レイヨウ)(画像はhttp://www.kcc.zaq.ne.jp/dfbgx603/newpage17.html より)

それは「カモシカのような脚」の英訳の試みから始まった

英語というのはきわめて理屈っぽい言語だなあと思ったとき、昔、ダウンタウンが漫才をしていた頃のネタに、
「カモシカのような脚」はおかしい。それを言うなら「カモシカの脚のような脚」やろ。
といったくだりがあったのを思い出しました。

そこで、「カモシカのような脚」を英語でどう書き表せばいいのだろう、英語だったら「カモシカの脚のような脚」になるのだろうか、と気になってきて、少し調べてみました。

カモシカは「氈鹿(serow)」か「羚羊(antelope)」か

まず、カモシカを英語で何と言うのかから始めました。

「カモシカのような脚」のカモシカは、実はレイヨウのことだと聞いたことがあったので、確認のため手持ちの電子辞書で「かもしか」と引いてみました。

(2)レイヨウ(羚羊)の俗称。「―のような脚」(広辞苑)

▼「―のような足の選手」などと、ほっそりとした俊足にたとえる「かもしか」は、アフリカなどにすむ羚羊(れいよう)の通称。(明鏡国語辞典)

一般の日本人が「カモシカ」と聞いてイメージするであろう、日本に生息するカモシカを漢字表記すると、「氈鹿」となりますが、そちらのことではないように書かれています。

レイヨウだとすると、英語ではan antelope といいます。
ちなみに氈鹿であれば、a serow です。

やはり英語は理屈っぽい

きわめて理屈っぽい英語では、ダウンタウンが漫才で指摘したように、「カモシカのような脚」ではなくて、「カモシカの脚のような脚」となるはずです。さて、どうでしょう。

結論を言えば、どちらでもよさそうでした。Google の検索窓に、legs like an antelope と、手がかりになりそうな単語を入れて用例を探ったところ、以下のような両方のタイプの用例が、どちらも一定数見つかりました。

She has long legs like those of an antelope.
―「カモシカの脚のような脚」タイプ

She has long legs like an antelope.
―「カモシカのような脚」タイプ

ただし、「カモシカのような脚」タイプの文例には省略があると考えられます。それを補うと、こうです。

She has long legs like an antelope (has long legs).

「レイヨウは脚が長いのと同じように、彼女は長い脚をしている」という対比構造ですね。

これがもしも、long などの何の形容詞も付かない

She has legs like an antelope.

だったとしたら、
「レイヨウに脚があるのと同じように、彼女は脚がある」という意味になるはずで、なんで彼女に脚があることを説明するために、レイヨウと並べ立てて話しているのか、発言意図が不明な文になるでしょう。

やはり、英語は理屈っぽい。

「カモシカのような脚」の元祖はブッダ

検索した結果、「カモシカ(の脚)のようなlegs」の用例には、圧倒的に形容詞long が付いていました。前段に書いたように、喩えられる方の脚の特徴を形容していないと、意図不明な文になってしまうからです。

しかし、検索結果の中に、

8. He has legs like an antelope

と、long が付いていない用例がありました。番号付きのリストになっています。何のリストかと思って上にスクロールすると、見出しには「32 Marks of the Buddha」とあります。なんだろうこれ。

ブッダのことなら何か手がかりがあるだろうと、今度は日本語で「ブッダ 32」と検索すると、Wikipedia の三十二相八十種好の項がヒットしました。

三十二相八十種好(さんじゅうにそうはちじっしゅこう)とは、仏の身体に備わっている特徴。見てすぐに分かる三十二相と、微細な特徴である八十種好を併せたもの。「相」と「好」をとって相好ともいう。

で、「legs like an antelope」に対応するのは、第八相の「伊泥延腨相」だそうです。

「カモシカのような脚」とは、仏の身体に備わる特徴の1つだったのですね。

伊泥延ってこんな動物

上記の三十二相八十種好の項に、「伊泥延は鹿の一種」とあったので、今度は「伊泥延」を調べました。なかなかWikipedia 以上の情報がなかったのですが、検索結果の中に

(術語)佛之三十二相中,第八相。言佛膝似彼鹿王之膝也。智度論四曰:「八者伊泥延腨相,如伊泥延鹿王腨,隨次[月庸]纖。」慧苑音義下曰:「伊尼延者鹿名也,其毛多色黑腨形[月庸]纖,長短得所,其鹿王最勝,故取為喻。腨字又作[尃]。」(zh.wikisource.org 佛學大辭典/伊泥延腨相

とするページが見つかりました。

漢字だけで推測するテキトーな読み方ですが、引用の下線部は

「伊泥延は鹿の名前で、その毛は多く色は黒く、ふくらはぎは盛り上がり細い」

とでもなるのでしょうか。

とすると、こういう特徴を持った鹿って、いわゆる「カモシカ」じゃないの。

英訳でずれた

ここまでに述べてきた事柄を踏まえますと、「カモシカのような脚」のカモシカはantelope(レイヨウ)のことだとする説は、「伊泥延」を英訳したときのずれに起因するように思えてきました。『明鏡国語辞典』が「ほっそりとした俊足にたとえる」などと説明しているのも、伊泥延をantelope とした英訳時のずれを拡大した結果にしか見えません。

なお英語版Wikipedia のPhysical_characteristics_of_the_Buddha では、第八相は

8. thighs like a royal stag

となっていました。thighs(太もも)じゃなくてcalfs(ふくらはぎ)だろうとは思いますがそれはさておき、royal stag で画像検索した結果がこちらです。wild animals も検索語に足しました。

2013-05-22_royalstag

a royal stag も伊泥延と同様に、レイヨウよりはカモシカに近いように思います。

まとめ

まとめます。

  • ダウンタウンの漫才と英語的発想では「カモシカの脚のような脚」。
  • 「カモシカのような脚」は、ブッダの三十二相の1つ。漢訳の仏典では、「伊泥延のような脚」。
  • 伊泥延の特徴は「カモシカ」に近い。
  • 伊泥延が英訳される段階で、antelope になったのではないか。
  • だから、「『カモシカのような脚』というときのカモシカは、実はレイヨウのこと」などと説明している国語辞典は、おかしい。

それでは。

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