今一度《You’d be so nice to come home to》を逐語解釈しておくと

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はじめに

《You’d be so nice to come home to》というタイトルの楽曲があります。この曲の邦題が誤訳だという話を何度か耳にしたことがあります。どういう意味になるか、あらためて整理しておきます。

参考文献

ネットで紹介されていた、関係者による証言です。

 この歌に、当時<帰ってくれたらうれしいわ>という邦題をつけた私の父は、最近テレビや文章のなかで、しきりにそれが若かった自分の誤訳で、正しい訳は「貴方が待つ家に帰っていけたら幸せ」という意味であると伝えている。
―大橋美加『唇にジャズ・ソング』(1998) p.31

大橋さんのいう「私の父」とは、大橋巨泉さんのことです。

事実関係として間違ってはいないだろうと思いますが、いずれ一次資料にあたって、邦題をつけたのが大橋巨泉さんであることと、後年、この邦題が誤訳である旨に言及していることを、確認しておきたいです。

結論

You’d be so nice to come home to. という英文は、「帰っていきたい素敵なあなた」といった意味です。

「あなたの元へ帰っていけたら、どんなに素敵なことでしょう」という話し手の気持ちを表す文意です。

当時の邦題《帰ってくれたらうれしいわ》は、英文解釈としては誤りです。「帰ってくる」のは相手ではなく、話し手です。

楽曲情報

《You’d be so nice to come home to》(1943)
Lyrics & Music: Cole Porter

前掲の『唇にジャズ・ソング』には、

コール・ポーター(1893~1964)は1942年にこの歌曲を作り、1943年のミュージカル映画「Something to Shout About」で紹介された。(p.32)

とあります。

日本ではこちらの演奏が人気のようです。

ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン
ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン

You’d be so nice to come home to. の逐語解釈

極力文法用語に頼らずに語ろうとする、無茶な試みです。後ろから順に進めます。

前後の半分に分けて、後ろの半分からいきます。

後半:to come home to

最後の to

このto があるため、come home の主体は明確に話し手になります。to you と続くyou が略されているというか、文の頭に出されて主語になっています。

このto が読み切れなかったことが、邦題の誤訳につながっています。

come home

come を単純に「来る」としてしまうと意味的にこぼれ落ちてしまうものがあるので、僕はcome という動きを大ざっぱに「外から内」とイメージして理解しています。別の言い方をすると、何らかの意味での“本拠地”への動きです。

ここでのhome は、話し手のhome です。なので意味としては「自分の家に帰る」となります。

最初の to

文の前半で言ったことについて、「何が」を補足説明する記号ぐらいにとらえています。独自すぎる用語ですが、僕にとってこのto は「概念を作るto」です。

前半:You’d be so nice

nice

「いい」「快適」といった肯定的感情を表現する形容詞です。日本でこの語を最も多用するのは村西とおるさんだと思いますが、英語では女性っぽい語彙に聞こえます。自分が十分な用例に触れていないだけかもしれず、実際のところは知りません。

so

程度を表す副詞です。ここでひとつ重要な指摘があります。so は、ただ「とても」と強調するだけの意味ではありません。

「程度を表す副詞のso」は,“so~that…”=「…するほど~である」という使い方が基本である.
―マーク・ピーターセン『実践 日本人の英語』(2013)p.162

つまりso を使えば、その語によって修飾した物事がどれぐらいであるかを説明する義務が(暗黙的にでも)生じます。そこがvery との違いでもあります。

よってここでは、you がどれぐらいnice かをもっと説明しなければなりません。その説明役を担っているのが文の後半です。

be

前後にある ‘d  とnice をつなぐのに、原形のbe が来ます。

‘d

would の省略形です。would なので、仮定法の文章となります。つまりこの文で述べているのは、事実ではない話です。come home to you という動作も、そのときのyou がso nice であることも、全部仮定の話です。

You

文の主語です。ここでの役割は、仮定の話の主体です。

全体の文意

他の言動によって、このYou がnice な人とわかっていたかは定かでないですが、第三者的に説明すると、ともかくcome home to you することが、話し手にとって進んで行いたいぐらいにnice なことであるのは想像に難くないほどであった。ということです。

短い文でも、きちんと読めばそこそこの情報が読み取れるものです。

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コメント

  1. yuuta より:

    御説の通りとすると、歌詞はyou’d be so nice to go home to
    であるべきではないでしょうか???

    • ヤシロタケツグ より:

      コメントありがとうございます。

      いいえ。
      ここのhome は話し手のhome なので、come がふさわしいです。
      仮定法という世界の中で、あなた(You)と一緒にいるhome を仮定してのものいいです。

      ここがcome でなくてgo home to だったら、今の自分の理解では、どこかよそよそしい感じがします。仮定法の中なので、なおさらです。

      英語のcome は必ずしも「話し手がいる地点への動き」も「話の受け手がいる地点への動き」も意味しないケースがあるのが、日本語話者である自分にはややこしいです。

      たとえば、
      I will be coming to Tokyo next week.
      という発話時点での話し手、受け手それぞれの所在地は、「話し手)東京以外【例:米国】 受け手)東京」というパターンも、「話し手・受け手ともに東京以外」というパターンも、ともに成立します。

      go home to になったら、どういうニュアンスになるのでしょうね。このあたり、まだまだ満足できるだけの理解ができていないです。上手に説明できている感触もありません。少し探っておきます。

  2. Julie London より:

    この曲が大好きな者ですが、大変参考になりましたし英語の勉強をさせて頂きました。
    他の名曲ワンフレイズ解説も見てみたいです。お暇な時に宜しくお願いします。

    • ヤシロタケツグ より:

      Julie Londonさま
      うれしいコメントありがとうございます。

      既存の記事では「アナと雪の女王」の劇中歌れりごー(Let It Go)の歌詞に関して解説したものがいくつかあります。
      「こちらもおすすめ」の欄を当該の記事に差し替えておきましたので、ご趣味に合うようでしたらそちらのリンクからご覧くださいませ。

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